朝早い用事を済ませ、駅で時計を見ると、午前10時。
ああ、そうだ、と駅前のビルにある静岡アートギャラリーに立ち寄る。
浮世絵。
中右コレクション 「幕末浮世絵展 大江戸の賑わい-北斎・広重・国貞・国芳らの世界-」。
国際浮世絵学会常任理事・中右瑛(なかうえい)氏のコレクションから、肉筆約20点を含む浮世絵約150点。
見ごたえがあった。
テーマで分ける企画も面白い。
浮世絵、再認識。
あまりに有名すぎ、世界的に人気がありすぎて、よく観る前に先入観が先行していたようだ。反省。
浮世絵の面白さは、芸術として当時の江戸人が描いたのではないところにある、と思った。
人々の生活、風習の絵であり、
時にはゴシップ雑誌の写真のように、時には風刺漫画の如く、
はたまたファッション誌であったり、芸能誌であったり、
やはり、言いえて妙な「浮世」の絵なのだ。
そういえば、いまさらながら企画タイトルの副題に「大江戸の賑わい」とある。
「粋とダンディ・江戸の人気役者絵」のコーナーでは、当然ながら、歌舞伎役者のプロマイド。
歌舞伎役者は、世襲なのだな、とその絵を見て妙に納得を強くした。
岩井半四郎、松本幸四郎、市川團十郎、尾上菊五郎、中村歌右衛門、坂東三津五郎。。。。
みな、現代の役者の絵かと思うほど、面影があるのだ。
「江戸のファッション」、「装いとおしゃれ・女ごころの美人画」では、当時の流行が見えてくる。
下唇が青い美人は、どういったことなのかと長年抱いていた疑問が氷解。
当時はやった青い紅、「笹紅」というのだそうだが、青いのに紅とはこれいかに。
なのだが、私たちの時代にも、青や黒い口紅が出るのだから、同じこと。
*江戸の一ページ http://e-kankyo.jfast.net/edo/fashon/beni.htm
そのほか、「異国情緒・おらんだごのみ」「政局風刺・時局パロディ・寓話・諧謔」「旅ごころ・富士模様」
「追善・肖像絵」「江戸の劇画、霊界・魔界のヒーロー、武者絵・芝居絵」「ペリー黒船来航・開国絵・横浜絵」など。
今も、雑誌に特集されているタイトルとなんら変わりがなくはないか。
シャレとユーモアは、「戯画・漫画」「造形の遊び視覚のマジック絵」に分かれ、
どちらもその卓抜のアイディアと、描く筆力に、舌を巻くほかない。
展示会の中ほどで、浮世絵製作のビデオを見る。
絵師、掘り師、刷り師、総合プロデューサー的版元、
すべての技が、統合して浮世絵が刷り上る。
絵を描く、板を掘る、刷る、それぞれそりゃ大変そうね、と簡単に思っていた。
それだけではなかった。
枠線の勢い、一本一本の細やかな髪や眉の線を掘り出してゆく、掘り師。
和紙、その紙漉の技術、漉いた和紙の目を読んで、彫った版の板目を読んで、馬簾を動かす刷り師。
庶民の生活史が、ここにある。
浮世絵は、確かにすばらしい技術と感覚で生み出されている。
が、これを芸術と呼んだら、江戸っ子の粋さが半減するのじゃあないか。
てやんでぃ、といわれそうである。
浮世絵は総合芸術なのに、それは、ヒトの手の技術こそが芸術で、
喜ぶ人々の好奇心こそが育ての親、という、更なる統合芸術なのだろう。
つまりは、江戸時代の日本自身が芸術であった、といってみたい。
ううむ、江戸時代、かなり面白い。
こうして考えてみると、平和、安泰が、庶民の生活のカンブリア爆発みたいになったのじゃないだろうか。
◎静岡アートギャラリー
http://www.art.shizuoka-city.or.jp/index.html
◎国際浮世絵学会
http://www.ukiyo-e.gr.jp/
◎中右 瑛
http://www.kodo-bijutsu.jp/artist/2d/nakau.html
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