一会一題

地域経済・地方分権の動向を中心に ── 伊藤敏安

デジタル化の光と影

2021-01-04 21:45:45 | トピック

● 2020年の晩秋から2021年の年明けにかけて、ノートに残しておきたい新刊書をいくつか読みました。ところが新型コロナ禍に伴う授業形態の突然の変更に加え、ある都市から依頼されたデータ分析作業に時間が取られるなどして、本欄の更新が後回しになりました。「このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります」というメッセージを初めて受け取りました。

● 湯澤規子『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』は、購入したままほったらかしにしていましたが、一読して快活。しかし、考えさせられる内容でした。“人糞地理学者”を標榜する著者によると、「ウンコは中世には“畏怖”され、“信仰”され、近世・近代には“重宝”され、“売買”され、“利用”され、近代・現代には“汚物”と名づけられて“処理”され、“嫌悪”され、その結果“排除”され、そして“忘却”されつつ、今日に至る」とされます。いわばウンコの悲哀に関する物語です。

● 野口悠紀雄『リープフロッグ』は、従来の「キャッチアップ論」との対比で「リープフロッグ論」を扱っています。中国のことに多くを割いていますが、博識の著者らしく、中身は古今東西の経済・産業から文化・芸術まで広がっています。そのなかで日本はといえば、キャッチアップに成功した半面、そのレガシーが重すぎてリープすることができません。けれども「一人一人が逆転の可能性を決してあきらめないこと・・・常に自分の能力を高めようと努力すること」という結びの言葉は、新しい年のスタートにふさわしいといえそうです。

● 伊藤亜聖『デジタル化する新興国』は、中国をはじめとする新興国におけるデジタル化の観点から、やはりある種の「リープフロッグ論」を論じています。もちろんDEE(Digital Emerging Economies)には明るい可能性ばかりではありません。一方では、人々の権利などにかかわる脆弱性の問題を抱えていることに注意を促しています。デジタル技術を医療や農業などに利用する「下からの課題解決」、これを社会実験として進めようとする「R&D&D(Research & Development & Deploy)」、人々の問題解決に資するnarrativeのもとでの規制改革の推進といった事柄は、わが国における地方創生の参考になりそうな気がしました。

● 毛色の変わった1冊としては、川英治『破壊戦』。著者は日本経済新聞の編集委員。つい数日前にもサイバーテロに関する記事を発表しています。ロシアなどに由来する「ダークパワー」の暗躍、これを暴こうとするNGOやジャーナリストの活躍、迎え撃つ自由・民主主義国の対応と内部の混乱などは、国際スパイ小説を読んでいるようなおもしろさでした。ヨーロッパの情報機関の幹部も匿名で登場します。少なくともデジタル空間・サイバー空間に関する点では、上掲2冊と相通じるところもあります。


菅義偉首相の最初の訪問国

2020-10-18 14:30:00 | トピック

● 園田茂人『アジアの国民感情』は、主に独自の意識調査をもとに、アジア各国の心理構造を比較・分析しています。同書では「相互予期仮説」という概念が紹介されています。「相手が自分たちを悪く思うがゆえに、自分たちも相手のことを悪く思う。自分たちが相手を悪く思うがゆえに、相手は自分たちを悪く思う」という心理メカニズムのことです。

● 対象はアジア10ヵ国(台湾を含む)とアメリカ、オーストラリア、インド、ロシア、北朝鮮の計15ヵ国。相手国による自国への影響について「よい」から「悪い」まで5段階で質問し、それを重み付きスコアで表現しています。日本については「オーストラリア」4.11、「台湾」4.08、「シンガポール」3.92などが上位にあげられています。逆に、下位は「北朝鮮」1.74、「ロシア」2.84、「韓国」3.24などです(以下、2018~19年調査の数値です)。

● 自国と相手国の相互評価のそれぞれについて、上位5ヵ国を「上」、中位5ヵ国を「中」、下位5ヵ国を「下」として、アジア10ヵ国を対象に「相互予期仮説」が検証されています。これによると、シンガポールは9ヵ国すべてから「上」の評価を受けています。日本は7ヵ国から「上」に評価されていますが、韓国からの評価は「下」、中国からの評価は「中」にとどまります。双方ともに「上」といういわば相思相愛の組み合わせは、「日本と台湾」「日本とタイ」「日本とシンガポール」「韓国とベトナム」など8組。他方、両者ともに「下」の組み合わせは、「日本と韓国」「中国とベトナム」「マレーシアとインドネシア」「フィリピンと中国」の4組です。

● お節介ながら、2国間のスコアを合計して、いわば“相思相愛度”を計算してみました。すると、45組の組み合わせのなかで相思相愛度が最も高いのは「日本と台湾」の8.36。フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアとのあいだでも日本との相思相愛度が8.0を超えています。日本とベトナムとの相思相愛度は7.94、ほぼ8.0です。日本とこれら7ヵ国の関係については、日本から相手国への評価より、相手国から日本への評価が高いことが特徴です(なお、「日本と韓国」は6.04、「日本と中国」は6.16であり、いずれも日本の評価が相手国の評価より高くなっています)。

● 同書で使用されている独自調査は、早稲田大学と東京大学が中心に実施しています。海外での調査には日本への留学経験者が介在しています。各国の対象者は200人程度に限定されています。これらのことから、回答にある種のバイアスが生まれていることは考えられるにしても、分析結果にはなるほどと納得させられます。そんななか菅義偉内閣総理大臣が就任後初めての外国訪問に出発しました。対象国はベトナムとインドネシアの2ヵ国。同書の分析結果からみても、日本の安全保障からみても、なかなかの選択のように思えます。


コロナと近代資本主義の終焉

2020-09-23 21:30:00 | トピック

● きわめて重たい内容でした。小幡績『アフターバブル』のことです。同書によると、15世紀に始まった欧米近代資本主義は、大小のバブルを繰り返しながら発展してきました。すなわち Bubble after bubble です。冷戦崩壊後の現在の中期バブルは、2020年のコロナショックを契機に大きな転換点にさらされています。

● コロナショックは、急激な需要減少というフロー面の問題であるにもかかわらず、わが国をはじめとする主要国は、「前代未聞、人類史上最大の財政出動」をおこなうと同時に、「大規模な金融緩和」を実施しました。その結果、実体経済でも資産市場でも新たなバブルが生まれつつあります。ところが、膨らんだバブルは必ず弾けます。わが国について著者が最も懸念しているのは、コロナショック・バブルの崩壊に伴って財政破綻が起きること。財政破綻は「現在の日本における最大のリスク」とされます。

● もっと憂慮すべきことは、コロナショック・バブルの崩壊により、近代資本主義システムそのものが変容することです。中国に覇権を渡して、長期バブル局面の崩壊を食いとめるか。それとも近代資本主義バブル崩壊を受け入れ、世界長期停滞局面入りするのか。欧米次第」という選択が迫られます。いいかえれば、「中国を市場経済に取り込んでいるように欧米社会は振る舞うだろうが、それは、取り込んだはずの中国に乗っ取られるか、あるいは、中国の経済市場システムに参加して、中国経済圏に一人ずつ取り込まれていき、彼らが多数派になるか、どちらかのプロセスで実現するだろう」とみられています。

● そんななかで、わが国はといえば「軍事的にも孤立に追い込まれ、経済的にも、ほかのアジア諸国に中国経済圏において遅れをとり、実力に比して不遇な国となってしまう恐れがある」とすら予想されているのです。


ふるさと納税制度はまだ続く

2020-09-12 15:00:00 | トピック

● ふるさと納税は、たしかにおもしろい仕組みとは思います。けれども、このブログで何度か取り上げたように、問題の少なくない制度です。ふつうの研究者や行政関係者であれば、現行制度に全面的に賛同するひとはいないと思います。総務省幹部であった平嶋彰英氏もそうです。現役時代の同氏は、日本地方財政学会などの研究発表大会によく参加して、討論者やパネリストを務めていました。病気療養中の同氏のインタビュー記事を見つけました。自治税務局長時代に、ふるさと納税の問題点について菅義偉官房長官に意見を述べたところ、受け入れてもらえなかったということです。

● この記事では、ふるさと納税の問題点として、受益者負担原則あるいは負担分任原則(住民が広く負担を分かち合うこと)に反することに加え、富裕層優遇であることが紹介されています。記事にならないだけでインタビューのときにおそらく出た話題だと想像されるのですが、ふるさと納税の最も注意すべき問題点は、「だれかが広く薄く負担を強いられる」ということだと思います。

● A県X市に住んでいるSさんがB県Y市にふるさと納税をしたとします。Sさんは本来納めるべき所得税(国税)、県民税、市民税の一部を控除され、ハッピーです。SさんはY市から返礼品をもらえますので、さらにハッピーです。Y市は財源が増え、返礼品に使う特産品の振興にもなるので、やはりハッピーです。ところがA県とX市は、地方税収入が減ったなかで行政サービス水準を維持しなくてはなりません。これでは困りますので、Sさんのふるさと納税によって減少した地方税収の75%が地方交付税で補填されます。

● 地方交付税というのは、全国どこに住んでいても基本的な行政サービス水準を確保するため、地域間の税収格差を是正する仕組みです。東京都と88市区町村には交付されませんが、残りの46道府県と1,653市区町村にとっては非常にありがたい制度です。地方交付税のうち使途が制約されない普通交付税は、2018年度に市区町村で合計6兆9,253億円、道府県で合計8兆1,622億円、総額15兆円あまりです。地方税収は市区町村で合計20兆円、都道府県で合計21兆円ですので、地方交付税の規模がいかに大きいかが分かります。地方交付税の主たる原資は、所得税(国税)、消費税(国税7.8%分)、法人税です。これらの国税のおおむね3分の1は、地方交付税として道府県・市区町村に還流します。ということは、Sさんがふるさと納税をすると、住んでいるA県とX市の地方税収を減らすだけでなく、同時に所得税(国税)も減らすことで、地方交付税の原資を毀損していることになります。

● 総務省「令和元年度課税における住民税控除額の実績等」では、2018年(暦年)のふるさと納税に伴う個人住民税の控除額が集計されています。これによると、地方交付税が交付されない1,653市区町村の控除額は合計1,145億円、46道府県の控除額は合計844億円、総額1,989億円でした。その75%の1,492億円については、だれかの国税でもって補填しているのです。総額15兆円という普通交付税の規模に比較すればわずか1%とはいえ、1,492億円というのは、県でいえば奈良県や長崎県、都市でいえば浜松市や堺市の地方税収に匹敵する規模です。その分だけ、ほかの行政サービスに影響を与えているおそれがあります。本来の地方交付税の額が削減されているおそれもあります。それだけならまだしも、地方交付税の原資不足が慢性化しているため、借金を重ねているのが実情です。ということは、Sさんのふるさと納税は将来世代に影響を及ぼすおそれもあるのです。

● まもなく自民党の総裁選挙が実施され、新しい内閣総理大臣が誕生します。ふるさと納税制度は、多大な問題を抱えたまま続けられる可能性が高いようです。


都市の壁(続き)

2020-09-05 11:32:00 | トピック

● 以前、日本の都市には城壁がないという話題を取り上げました。そのとき読んだ本郷和人『考える日本史』では、城壁がない理由として、国内に脅威となる仮想敵がいなかったことに加え、九州から畿内までの「物理的な距離」が城壁の役割を果たしていたことがあげられていました。

● 鈴木薫『文字世界で読む文明論』にも同じような指摘が出てきました。西欧でも中国でも都市は城壁で囲われるのが常識であったなかで「きわめて稀な例外となったのが日本であった」とされます。平城京も平安京も塀で囲われたが、城壁ではなかった。その理由として、「平城京が建設されはじめる頃までには、都の周辺にはもはや脅威となる“異民族”などいなかったことによるのであろう」と、本郷前掲書と同じような見方がされています。

● 鈴木前掲書では、わが国で唯一「本格的な城壁で囲われた都市」として小田原があげられています。これは本郷前掲書にはみられない見解です。きのうの夜、風呂上がりにテレビを付けると「不滅の名城」として小田原城を特集していました。「城壁」といっても、西欧や中国ものとはずいぶん違うような気もしました。


新型コロナと国防

2020-08-28 22:00:30 | トピック

● 村中璃子『新型コロナから見えた日本の弱点』を読みました。副題は「国防としての感染症」。著者は、社会学修士課程修了後に医学を学んだドイツ在住の感染症研究者です。感染症にかかわる主要国の攻防について、無駄のない文章で鳥瞰的に議論しています。

● WHO(世界保健機構)とアメリカのCDC(疾病予防管理センター)の関係、WHOによる感染症の「噂の監視」、医療チームと一緒に軍隊を派遣して検体を「知的財産」として収集する主要国、アビガンをめぐる日米の駆け引きなどは、まるで国際サスペンス小説を読んでいるようでした。BSL4(Bio-Safety Level 4)の整備がわが国で遅れた背景についての社会学的分析も興味深いものでした。

● アメリカのCDCというのは、感染症対策を包括的に扱う「諜報機関」のようなものであり、緊急事態に科学的かつ迅速に対処する「特殊部隊」でもあるとのこと。要するに、病気から「国を守る」ために設置された「軍隊のような実働性を持つ組織」なのだそうです。2020年夏の東京都知事選で「東京版CDC構想」を提唱した候補者がいましたが、すぐにいわなくなりました。思いつき程度では済まされないことに気がついたのだと察せられます。

● 同書では、今回の新型コロナウイルスに関するPCR検査の問題も取り上げています。WHOによる「検査、検査、検査」という呼びかけを日本批判と解釈するのは曲解であること、その趣旨は「感染の連鎖を断ち切る」ことにあること、PCR検査そのものは検査を受ける人には直接的なメリットはなにもないこと、対象者を限定しないPCR検査の弊害は想像以上に大きいこと、といった指摘は説得的です。政権批判の材料としてPCR検査の不足を訴える人たちがいるかと思えば、極端な検査拡充論を主張する人たちが出てくるなど、「世論は科学的議論とはほとんど関係のないところで2つに割れた」という指摘にも首肯させられます。当初からこういう冷静な議論ができていれば、と悔やまれます。


コロナ禍とテレビ禍

2020-08-18 22:15:00 | トピック

● 新型コロナウイルス騒動がなかなか収まりそうにありません。とはいえ、熱に浮かされたかのような一時期の情況はいくらか薄れた様子もうかがえます。これも「With コロナ時代」の一端なのでしょうか。そのような変化の要因のひとつとして、一部のマスメディアによる過激な報道が少し沈静化してきたことが考えられます。恐怖感を煽りすぎて、落としどころをつかみあぐねているようにもみえます。それでもいまなお一部のマスメディアは「正確な情報がない」と主張しています。

● こういった問題を見通しよく解説してくれるのが、藤原かずえ『テレビ界“バカのクラスター”を一掃せよ』。題目はともかく、中身は至極真っ当です。「日本という民主主義社会にインフォデミックを蔓延させて、好き放題に国民を支配してきた」一部のテレビ番組について、論理学やリスク分析の概念を用いながら分析しています。「テレビ禍」にさらされているひとにはぜひ一読してほしいと思います。そういうひとたちは、実は同書から最も遠いところにいそうなのが難なのですが。

● 同書にひとつだけ注文するとすれば、医学部の学生でも理解が難しいといわれている岩田健太郎『感染症は実在しない』、PCR検査の「感度」と「特異度」に関することです。同書をていねいに読んでいけば理解はできるのですが、コラムのような形で数値例を付けて解説してもらえれば理解がより広まるように思いました。

● それにしても敬服すべきは著者の熱い思いです。著者の専攻はおそらく土木工学分野であり、本業もその近くだと想像されるのですが、問題のありそうなテレビ番組を長年にわたって残らず録画し、その論評をツイッターブログで発表する時間がよく取れるものだと関心させられます。


炎上CM

2020-08-11 21:30:00 | トピック

● いささか後味のよくない本でした。瀬地山角『炎上CMでよみとくジェンダー論』のことです。内容そのものについては、広告や広報にかかわる企業・行政関係者にとって大いに参考になると思います。同書で使用されている「女性-男性」「性役割-外見・容姿」というフレームワークは恣意的になるおそれはないか、という点が気にはなりますが。

● 読んでいてげんなりさせられたのは、問題事例として取り上げられているA社のCMのことです。著者によると、A社のCMの問題点を指摘して返信をもらったけれども「論外の回答」であったため、再度のメールを送ったところ、今度は返事がなかったことなどから、A社の商品を「一切買わない」ようにしているとのこと。さらに、近所のスーパーの顧客アンケートに「A社の商品は家族に不評なので、他社のものを置いてほしい」といった要望を書いて出しているのだそうです。

● CMの問題点の指摘にとどまるのであれば理解できます。ところが、A社の実名を提示して「ひとりボイコット」を広言するのは、私的なブログなどであればともかく、ちゃんとした出版社の出版物において適切なことなのでしょうか。業務妨害を犯す可能性はないのでしょうか。どこか「自粛警察」にも似ているような気もしてどうも穏やかではいられません。この話題が同書のプロローグに出てきて、読もうという気を端から殺がれたにもかかわらず、終わりまで読んだことで後味のわるさがよけいに拭えないようです。


目から鱗の沖縄論

2020-08-02 11:25:00 | トピック

● 山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』であげられている失敗要因の1つは、経済困難が強まっているにもかかわらず、「世間並み生活水準」を確保したいという若者の意識が変化しないこと。その解決策として、沖縄のことが示唆的に紹介されています。沖縄では大学進学率が低く、非正規雇用、できちゃった婚、ひとり親などが多い。その一方で出生率が図抜けて高いのは、「世間並み生活水準」がもともと高くなく、「子育てプレッシャー」を感じにくいからではないかとされます。

● これに続けて読んだのが、樋口耕太郎『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』。沖縄の社会・経済に関する優れた分析です。著者によると、沖縄では低所得の住民、低賃金の労働者、経営努力をしようとしない企業とが持ちつ持たれつの関係にあり、「(悪意なく)変化を止め、(無意識のうちに)足を引っ張り、個性を殺し、成長を避けることが“経済合理的”」であるがゆえに、貧困から抜け出せないとのこと。そのような沖縄社会の背後には、過剰な同調圧力のもとで、みずからも他者も「出る杭」を認めようとしない行動様式があり、ありのままの自分を大切にするという自尊心が低いことも指摘されています。結局のところ、沖縄問題というのは「県内問題」であり、こころの問題でもあるというのです。

● そういえば、沖縄の「荒れる成人式」というのは、過剰な同調社会に入っていく若者たちの最後の儀式に当たるのでしょうか。一時的に過激な自己表現をしても否応なしに「世間並み生活」を始める若者たちが再生産されていくとすれば、「子育てバンザイ」とは素直に喜べないかもしれません。


在宅勤務をできない人たち

2020-06-22 21:35:00 | トピック

● 新型コロナウイルス感染対策の一環として、在宅勤務・テレワークが奨励されました。在宅勤務・テレワークにはそれなりの感染抑制効果があるだけでなく、働き方改革の面でも意義があることは否定すべくもありません。その半面、強調されすぎるきらいがあることに少し違和感を覚えます。

 小寺信也「在宅勤務はどこまで進むか」(2020年5月22日)によると、在宅勤務が可能な労働者は、正社員の3~4割程度、非正社員の2割程度、全体で3割程度と見込まれています。そのため、就いている職種が在宅勤務可能かどうか、新型コロナショックへの耐性があるかどうかによって、格差拡大につながることが懸念されています。

 内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月21日)が発表されました。これによると、テレワークの実施率は、「ほぼ100%テレワーク」11%、「50%以上テレワーク」11%、「定期的にテレワーク(出勤50%以上)」7%の合計で29%でした。うち正規雇用では34%ですが、非正規雇用では半分以下の15%にとどまっています。これは、小寺前掲レポートの推計に近いようにみえます。けれども「定期的にテレワーク(出勤50%以上)」という回答者のなかには、自宅待機や休業を余儀なくされた労働者も少なくなかったのでないでしょうか。パネル登録をしているモニターへのインターネット調査(調査は2020年5月25日~29日、6月1日~5日)であっても、テレワークの実施率はけっして高いわけではないのです。

 在宅勤務・テレワークを提唱しているのは、主に行政やマスコミの関係者のようです。この人たちの職種は、大まかにはロバート・ライシュのいう「シンボル操作」に分類してよいでしょう。発言機会も多そうです。その一方、物的・人的なハンドリングをせざるをえない職種も少なくありません。これらの人たちは「非シンボル的」なせいでしょうか、発言機会がとても少ないように思えます。