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日本の政治と社会、日本のリベラル、沖縄の「基地問題」、東アジアの外交・安全保障、教育などについて述べていきます。

視標「香港デモと沖縄」 ~地域情勢踏まえ軽減策を 微妙な中国との関係~

2019-10-29 16:42:34 | 沖縄の政治、「沖縄基地問題」
警察によるデモ隊への実弾発砲や一部デモ隊の暴徒化など、香港情勢は激しさを増している。

香港におけるデモは、沖縄でも大きく報道されている。「琉球新報」と「沖縄タイムス」はそれぞれ複数回、香港政府と中国政府を批判する社説を掲載したが、沖縄県民の間には中国との経済交流への期待も大きく、懸念と困惑が交錯する。

香港は沖縄から比較的、遠いうえに、県民の多くは日本本土よりも中国に親近感を抱いてきた。その背景には、沖縄と中国の歴史的なつながりがある。

琉球王国時代、沖縄は中国との貿易によって繁栄し、中国文化も幅広く定着した。一方、明治政府による琉球併合、米軍の侵攻と軍政、本土復帰後の米軍基地の存続などにより、日本本土と米国は沖縄にとっての「抑圧者」、これに対し中国は沖縄にとって「友好国」というイメージが醸成された。

2012年の尖閣諸島の国有化を端緒に起きた中国民衆の反日暴動や、尖閣を巡る中国の強硬な領有権の主張によって、反中国感情が高まった時期もあるが、その後、沖縄を訪問する中国人観光客が急増し、中国への親近感は次第に回復していった。

だが現下の香港情勢に加え、今年の国慶節(建国記念日)での威圧的な軍事パレードや、香港や台湾との「完全な統一の実現」を強調した習近平国家主席の演説も相まって、中国の抑圧的な実像が見えてきたとの意見も、沖縄在住有識者の間から漏れ聞こえ始めた。

武力と経済力を背景に中国政府が香港をねじ伏せれば、次のターゲットは台湾になるとの見方がある。

沖縄にとって台湾は、地理的に近いこともあり、戦前から両地域の経済関係は深く、人的交流も盛んだ。台湾が中国からの強烈な圧力にさらされ、その民主主義体制が脅かされるのではないかと危惧する声も沖縄で徐々に強まっている。

実は、この状況は沖縄にとって難しい問題をはらむ。中国脅威論が強まれば、抑止力としての米軍基地の重要性が説得力を持ち、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古移設計画に対する反対運動の勢いが鈍るかもしれないからだ。

一方で、中国との良好な関係を優先して、中国による香港の人権侵害や台湾への圧迫に目をつぶれば、「民意無視」と安倍政権を批判してきた沖縄県民の立場と矛盾する。

沖縄では、巨大な米軍の存在ゆえに、海外への関心は対米関係に集中しやすい。沖縄と微妙な関係にある現代中国に精通した専門家が県内にあまりいないこともあり、東アジア情勢の現状把握が不十分な点は否めない。

時々刻々と変化する東アジアの中心に位置する沖縄。その地政学的な優位性を十分に生かすには、地域の安全保障情勢に関する情報と知見を収集しながら、基地負担軽減を確実に実現できる具体策を打ち出していく必要がある。

そのためには、全国知事会や米軍基地を抱える都道府県の渉外知事会など、内外の当事者や専門家とのネットワークを構築、強化していくことも急務の課題と言えよう。

(2019年10月29日共同通信から「オピニオン欄」用に配信されました)