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スポーツ利権と五輪・テニス

2021-06-07 23:38:11 | スポーツ
大坂なおみ選手に対する全仏大会側が見せた当初の強硬な姿勢には、五輪をめぐるIOCの傲慢な姿勢と共通するものがある。そこには、巨大なスポーツイベントの歪みが見える。

試合直後の記者会見を大坂選手が拒否したことに激昂した全仏大会主催者は、同選手に罰金を課した。追い打ちをかけるように、他のメジャー大会主催者たちと共同で声明を出し、全仏からの追放やメジャー大会出場停止をちらつかせた。これは明らかに脅しであり、選手生命すら手玉に取ろうとする極端な権威主義を象徴している。

主催者は、記者会見は選手の義務であると強調した。多くの有力選手も大坂選手を暗に批判し、一部のメディアが同調した。選手に大金を提供し、選手にスポットライトを当ててくれるメディアへのサービスは当然の義務だというのである。

だが、全仏およびメジャー大会主催者や一部のメディア、有力選手たちが、束になって演出した「大坂選手わがまま論」は、彼女の大会棄権と、鬱病体験の吐露で尻つぼみとなる。同選手の告白は大きな反響を呼び、スポーツ大会の在り方を問う声を巻き起こした。

セリーナ・ウィリアムス、ナブラチロワ、キング夫人らのテニス界の大物に加え、バスケットボールやアメフット関係者などからの共感メッセージがあった。ゴルフの「帝王」ジャック・ニクラウスもまた、彼女の置かれている状況に同情するコメントを出した。

ナイキ、マスターカード、高級時計のタグ・ホイヤー、日清食品など、大坂選手の有力なスポンサー企業も続々と彼女の支持を表明している。

慌てた全仏オープン責任者モレットン氏は、その強硬姿勢を一変させ、にわかに大坂選手をいたわるコメントを記者会見で述べたが、質問は拒んだ。そのため、「選手に記者会見を強いる主催者が質問を拒否か」「なんという皮肉」「偽善者」などとSNSで批判が殺到した。

大坂選手の件の件がきっかけとなり、記者会見や取材に起因する選手のメンタルヘルス問題が取り上げられるようになった。無遠慮な質問やコメントに、精神的に傷つく選手たちの例も紹介されている。

だが、見逃してならないのは熱狂的なファンの存在である。いわゆる「追っかけ」たちは選手たちの一挙手一投足に関心を寄せ、あらゆる情報を集める。

とりわけ人気スポーツは、膨大な数のファンを惹きつけるゆえに、メディアや企業にとってはまたとないターゲットであり、大金も喜んで支払う。それだけに、メディア取材は加熱しがちだ。人気選手をほめたたえる一方で、私生活にまでずかずかと踏み込み、微に入り細を穿つ質問やコメントを浴びせる。そしてそのようなメディアに多くのスポンサーがつく。

一部スーパースターの悪乗りも目立つ。自らの豪邸や、乗り切れないほどの多くの高級車などを見せびらかす。メディアはその派手な生活ぶりを番組や雑誌のネタにして利益を得る。それを支えているのは、ファンの「のぞき見」趣味だ。

五輪、サッカー・ワールドカップ、テニス4大大会などには、メディア、スポーツ用品やアパレル、飲料などのメーカー、大会運営を担当する電通などの広告代理店、パソナのような人材派遣会社などが関わり、巨大な利権構造が出来上がっている。

巨大スポーツイベントを取り巻くコミュニティに君臨するのが、IOC、テニス4大大会主催者、FIFA、NBA、MLB、NFLなどだ。

大坂なおみ選手にまつわる話題は、今のところ、選手のメンタルヘルスに集中している。確かに、取材攻勢にさらされる選手に対する精神面のケアは重要だ。だが、巨大ビジネス化した一部スポーツ業界の構造的な問題の本質は「金」である。

IOCにしても、テニス4大大会にしても、膨大な金額が動くと言われるが、その財政収支の実態は明らかにされていない。

IOCのバッハ会長やコーツ調整委員長、最古参の理事パウンド氏などは、コロナの感染状況などおかまいなしに五輪を強行しようとするが、感染爆発を恐れる日本国民や、過労で倒れそうな医療従事者たちへの配慮は全くない。彼らの関心はひたすら「金」にあるからだ。

スポーツを巨大なエンターテインメント・ビジネスに仕立て上げるメディアとスポンサー、それを支える熱狂的なファンと派手好きな選手たち、という構造が続く限り、「元気や勇気、笑顔を届ける」と連呼しながら利益をむさぼる、スポーツ貴族たちが跋扈し続ける。

五輪と全仏をきっかけに、そろそろこの歪んだスポーツ界をただす時期が来たのではなかろうか。まずは何より、世界的なスポーツイベントにまつわる金の流れが解明されなければならない。