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沖縄知事選結果の分析①「下地の乱」と自民党県連の混迷

2022-10-09 19:32:02 | 沖縄の政治、「沖縄基地問題」
9月11日(日)投開票の沖縄県知事選で、現職の玉城デニー氏が、自公推薦の佐喜真淳氏に6万5千票の大差をつけて再選された。ただし、玉城知事の信任投票と位置付けられた今回の選挙で、得票率は51%に過ぎず、「すれすれの信任」とも言える。実情は、保守分裂に助けられた「圧勝」だった。

無所属の下地幹郎氏出馬で、玉城氏が一気に優勢になり、知事選への有権者の興味は薄れた。統一地方選挙も重なったため、有権者の関心が地元の選挙に向かって、知事選は盛り上がらず、投票率は過去2番目の低さだった。

<なぜ下地幹郎氏は出馬したのか>

今回の知事選の最大の話題は、下地氏の出馬だった。当選の見込みがないにもかかわらず、保守を分裂させた彼の行動を奇異に感じた人は多い。


選挙前日の打ち上げ式(那覇市)に駆け付ける下地幹郎候補。2022年9月10日。著者撮影。

筆者自身は、「自民党への自爆テロ」だったと考える。

拙稿「争点なき沖縄県知事選の“怪”」(9月6日Japan In-depth掲載)で述べたように、この政治家は、カジノ・スキャンダルに関わり、維新の会を除名された。政党を渡り歩き、落選しては復活してきた、自称「ゾンビ政治家」下地氏も追い詰められる。

そこで、彼は自民党復党を目ざした。ところが、下地氏は、自民党と激しく対立してきたうえに、公明党とは犬猿の仲だ。自公体制を前提とする自民党にとって、彼の復党のハードルは高い。

それでも、経済界の重鎮、國場組会長の国場幸一氏らが下地氏を積極的に支援し、自民党に復党を働きかけた時期もあった。彼らが下地氏の行動力を評価しただけでなく、保守一本化を強く望む声があったからだ。

しかし、國場氏らも公明党の意向などを無視できず、次第に下地氏と距離を取り始める。

維新から追放された保守系の下地幹郎氏にとって、自民復党以外に政界で生き残る道はない。そこで、大博打を打ったのだろう。

知事選出馬を表明した際には、自民党への「脅し」と見る向きが多かった。彼自身も、仲介者が現れて同党と和解し、立候補を取り下げるシナリオを描いたのかもしれない。しかし、仲介者は現れなかった。

下地氏の支持者には、保守派主流から冷遇され、憤懣を抱える人が多い。彼らは少数だが、熱狂的だ。出馬表明で、そんな彼らを煽ってしまった下地氏は、引っ込みがつかなくなったのだろう。彼を受け入れない自民党への恨みもあった。自らの出馬によって佐喜真氏を惨敗させ、鬱憤を晴らしたかったのではないか。

ただ、辺野古反対、普天間の軍民共用化など、大風呂敷の公約を自画自賛するパフォーマンスに、眉をひそめる保守系市民が多かった。選挙後、本人は「マングースになる」と気炎をあげるが、今や彼の立場は弱い。

<自民党県連の迷走>

7月22日の拙稿「参院選から見えた沖縄政治の迷走」(Japan In-depthに掲載)で既に述べたことだが、自民党県連による重要選挙の候補者選考は迷走し続けた。

まず、知事選にこだわった佐喜真氏が、7月の参議院議員選への出馬を固辞し、参院選と知事選の候補者決定が大幅に遅れた。問題は、同氏の「決断」に押し切られただけでなく、下地氏も抑え込めなかった、自民県連のパワー不足にある。

さらに、知事選と同日選の県議会議員補選でも、2人が立候補を目ざして調整が難航し、決着は告示日(9月2日)の4日前にずれ込む。しかも、擁立したのは2人とは別人の下地ななえ氏だった。

同氏は、エステサロンの経営者で、テレビでの露出が多いタレントだ。自民県連の中心メンバー國場幸之助衆議院議員が強く推したという。だが、土壇場での派手な女性の登場に、唖然とした陣営関係者は多い。果たして、「オール沖縄」が分裂したにもかかわらず、下地ななえ候補は3位に沈んだ。國場氏の責任を追及する声が出ている。

<佐喜真氏の限界>

自民党県連に問題があったとは言え、玉城知事に負けたのは佐喜真氏だ。彼の政治家としての実力の乏しさこそ、最大の敗因だ。

演説に精彩がなく、政策立案能力にも疑問符がつく。政府が最短でも12年後とする普天間の返還を、2030年までに実施すると突如言明したのは、安易すぎた。


▲写真 投票日前日の打ち上げ式(那覇市)での佐喜眞淳候補。2022年9月10日。著者撮影。

佐喜真候補は、前回知事選に落選後の3年間、政治活動をほとんどしていない。知事職を志すなら、毎日県内を視察し、政策を練り上げるべきだったろう。

旧統一教会関連のイベント参加も発覚し、「先輩議員に誘われた」と釈明したが、先輩に追随する姿勢も問題だ。琉球新報などの出口調査によれば、公明党支持層の30%余りが玉城氏に流れたという。創価学会会員は旧統一教会を嫌悪するので当然だろう。

それだけではない。同じ出口調査で、自民党支持層の20%以上が玉城氏に票を投じたことが分かる。佐喜真候補の失速は誰の目にも明らかで、陣営には沈滞ムードが漂っていた。

<自民党・保守系の見えない展望>

保守系の混迷はまだまだ続く。10月23日投票の那覇市長選に向けて、県連は前副市長の推薦を決定した。だが、陣営内には、故翁長前知事の側近だった同氏に不信を抱く人もいる。

そして、混乱する保守系の隙を突くように、ボクシング元世界王者の平仲明信氏が出馬を表明した。玉城デニー氏のようなタレント型政治家が当選を重ねることで、下地ななえ氏や平仲氏のようなタレントたちが、続々と政治家をめざす時代になったのだろうか。

行政経験者や有識者などから、自民党県連の迷走と、政治と行政の「空洞化」を懸念する声がある。しかし、人材難と保守陣営の司令塔不在という、構造的な問題を克服するのは容易ではない。

(続く)

注記)この記事は、2022年9月22日、インターネットメディア”Japan In-depth”に掲載されたものです。


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