VERI & heso’s Management

 経営理念の研究(VERI研)と 法人の総務(hi-soumu)

志高き企業経営を目指して

2007-09-10 17:52:49 | VERI研
                       -VERI-情報0707

 今年の猛暑は「ラニーニャ現象(※)」が引き起こしているようです。日本付近での気象は空梅雨、猛暑、渇水、寒冬になると予想されています。

(※)ペルー沖の太平洋赤道付近で海面温度が低下する現象:南米のペルー沖で深海から冷水が湧き出て、太平洋で貿易風が強まって西向きの海流が発生する。 ラニーニャ現象とは逆に、ペルー沖の太平洋赤道付近で海面温度が上昇する現象のことをエルニーニョ現象と呼ぶ。 スペイン語でラニーニャとは「女の子」、エルニーニョとは「男の子」の意味。

さて、地球環境や社会問題への企業対応のあり方として、経営の重要なテーマとなっているのが、企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)です。ISOは、2007~2008年を目標にCSRの規格化を決定する予定です。

外来語からなるCSR、コーポレート・ガバナンス(corporate governance 企業統治)、ステークホルダー(stakeholder 利害関係者)、サステナビリティ(sustainability 持続可能性)などは、日本人が持っている倫理観・価値観などとは必ずしも全て一致するわけではないのではないか?

本当の意味で、経営者も、その従業員にも、自分たちのものになっていないのではないだろうか?

このような問題意識から、社団法人関西経済同友会CSR・企業倫理委員会による「上方発 企業の社会貢献宣言 -志高き企業経営を目指して-」が和文・英文で出されていますので、今回はこれを探求したいと思います。

近代経営学の始まりとなった「企業と何か」(ピーター・フェルナンド・ドラッカー著 ダイヤモンド社 2005/01 原題 Concept of the Corporation 1946)の中で、ドラッカーは企業の使命を次のように述べています。

「この企業という新しい社会的組織を効率よく機能させ、その経済的、社会的な可能性を十二分に発揮させ、その直面する経済的、社会的な問題の数々を解決することこそ、われわれにとって最も緊急を要する課題であり、かつ最も挑戦の価値のある機会である」。

「志高き企業経営を目指して」という副題は、「企業を効率よく機能させて可能性を十分に発揮させ、経済的、社会的な問題の数々を解決すること」と、同一軌道にあるように思います。

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<日本人の世界観・人生観>  Japanese Views of World and Life
・ 四季、自然 → 感謝、思いやりの念 Seasons, nature →Appreciation, gratitude
・ 仏教、儒教、禅の影響 → 和を以って尊しとする → 謙遜・謙譲の風土 Influence of Buddhism, Confucianism and Zen →Value of unity and harmony →A climate of humility and modesty
・ 農耕民族的家族主義 Familism often seen among agricultural tribes
・ 武士道というモラルの高さ High morality of Bushido
・ 長い歴史に育まれた知恵 Wisdom developed over a long history

<上方発 企業の社会貢献の考え方>
・ 日本の歴史、文化、伝統に即した指針作り
・ CSRは経営、経営理念そのもの

「我々は、近世以来の上方の商いの伝統とは、『事業の成功を通じて、商いに携わる者すべての人間的成長と、地域社会の幸福の実現を目指す』ものであることを自負し、また、その伝統が地球上のあらゆる場所で認められることを確信して、経営にあたる」。

『御法を守り我が身を敬むべし』 = コンプライアンス Compliance、コーポレート・ガバナンス Corporate Governance
  +
『浮利にはしり軽進すべからず』 = 顧客満足 Customer satisfaction、本業を通じた社会貢献 Social contributions through the main business
  +
『始末してきばる』 = サステナビリティ Sustainability
  +
『三方よし』 = 社会との連携 Cooperation with society
  +
『人財』 = 人材育成 HR development
  +
『陰徳あれば陽報あり』 = ボランティア精神 Spirit of volunteerism、慈善事業 Charitable work
  ↓
『奉公』 公のために奉仕する精神 Spirit of public service

【奉公】[Serving society]
○企業は社会的存在であり、社会に貢献することがその本分であることを再確認する。
○社会貢献活動を通じて、多種多様な人々との交流を促進し、異なる文明、文化、知識との触発により、自らの成長を目指す。
○企業単体の活動のみならず、経済団体等、横のつながりを活用して社会貢献に努める。

【御法を守り、我が身を敬むべし】[ Obey the law and respect yourself ]
○法令遵守はもとより道徳規範に基づいて経営者自ら先頭にたち行動すると共に、その内容を全従業員に徹底する。
○短期の利益追求にとらわれず、創業の精神に立ち返り、経営判断を行う。

【浮利にはしり軽進すべからず】[ Never pursue frivolous profit ]
○「売れればよい、儲かったらよい」だけではなく、確かな品質、環境にやさしく、社会的弱者も利用できる、消費者に益となる製品やサービスの提供を通じて、社会に貢献することを第一とする。
○消費者が必要な情報を企業自ら率先して、平易な形で提供する。

【始末してきばる】[ Waste nothing and work hard ]
○無駄を省くと共に、技術やマネジメントの革新を通じてコストダウンを図り、納得できる価格で提供し、自らも又適正利潤を獲得する。

【三方よし】[ Win-win-win situation ]
○グローバル化した企業活動の影響が広範囲に及ぶことを認識し、広く世界の様々な人々への配慮を欠かさない。
○企業は地域社会に根ざした存在であることを再認識し、地域社会の要請に積極的に関与していく。
○M&Aは短期の利ざやや稼ぎを目的としてはならず、あくまで社会への貢献、またその発展を前提として行う。

【人財】[ Human assets ]
○従業員は社会からの預かりものであり、安易な人員削減や不安定な労働条件での雇用は行わない。
○従業員が社会への貢献ができるよう教育・育成とその環境づくりに努める。

【陰徳あれば陽報あり】[ What is done by night appears by day ]
○慈善事業やメセナ活動に対しては見返りを期待せず、自らの利益の一時的増減にとらわれず継続する。金銭的支援にとどまらず、ノウハウの提供や従業員等の自発的参加を推進する。

<上方商人の倫理観> Kamigata Kakun and Ethics .16th-19th centuries.
 元禄バブルの時代、商人の中には、不当な取引で儲けたり、賄賂を行ったりして、悪徳商人と呼ばれる人も多数存在し、「心ある商人とはいかにあるべきか、商売とはいかにあるべきか」と問う時代でもあった。そのような時代背景の中、生まれたのが石田梅岩の石門心学である。

 「家訓」が多く姿を現すのは、享保の改革による質素倹約・商人勢力抑制の時代である。「天下の貨、七分は浪華(なにわ)にあり」と言われた大坂大商人の家の多くも、この改革の結果、倒産・没落が目立つようになる。他の商家の没落をみた商人たちは、せめて自分の家、一族の存続が可能になるためにはと、「商売とはいかにあるべきか」を真剣に考え、自らの経験や戒めや教えを、知恵を絞り、「家訓」という形で後世に残そうとした。

 近江商人に代表されるような家訓は、幕藩時代、彼らが藩を越えて、縁もゆかりもない他国へものを売りに行き、他国で店を開くために、「商売とはいかにあるべきか。長期的に売り続けるにはどうするべきか。」と行商先の人々に、信用という目に見えない財産を築こうと努力することから、その思想の端を発している。
厳しい時代背景の中で様々な経験や戒めや教えから生まれてきた先人の倫理観は、「社会との共生」、「勤勉」、「倹約」、「正当な利益」、「正直」など、今日のビジネス倫理において充分通用するものであり、我々が日々直面している厳しい現実に対応し、様々な判断を下す際のヒントになると考える。

<石田梅岩:「石門心学」(著書「都鄙(とひ)問答」1738年)>
Ishida Baigan (Sekimon Shingaku)
○『我が身を養わるる売り先を粗末にせず』 "Never disrespect the customer for he sustains us"
・ 自分の商売を育てていただくお客様を粗末にしない。 → 顧客満足
○『御法を守り、我が身を敬むべし』 "Obey the law and respect yourself"
・ 世の中で決められた御法度を守り自分の身を慎むことが大事。 → コンプライアンス
○『商人というとも聖人の道を知らずんば、同じ金銀を儲け、子孫の絶ゆる理に至るべし。』 "If a merchant does not follow the way of the sage, he may make the same money but his lineage is destined to fall"
・ 商人といえども商人道を心得、道徳心をしっかり持っていなければ、同じ金銀を儲けながら世間に許されぬ金儲けをすることになる。いつかは破綻をきたし、子孫も絶える。 → コンプライアンス
○『生まれながらの正直にかえし度き為なり』
・ 生来人間が持っている正直の心に返したい。 → 正直・誠実な経営
○『たとひ主人たりとも非を理に曲ぐる事あらば少しも用捨致さず』 "Any wrongdoing construed as correct should never be tolerated, even if it is a master who does so"
・ たとえ主人であっても、間違ったことを正しいとして、押し通すようなことがあれば、少しも遠慮せず、さっそく改めさせるようにする。 → コーポレート・ガバナンス
○『世界の為に三つ入る物を二つにてすむようにするを倹約と云う』 "Frugality is, for the good of the world, to make two sufficient when three is necessary"
・ 世の中のために三つ要るものを工夫して二つで済ますようにすることが本当の倹約。 → サステナビリティ
○『誠の商人は先も立ち、我も立つことを思うなり』 "True merchants seek a way to respect others while respecting themselves"
・ まことの商人は商売の相手を立てながら、自分も立つという心がけを持っているものだ。 → 社会との連携
○『物を施すは禮を受くる為にはあらず』 "Kindness is not for a return"
・ 人が困窮している時に施しを行い、救われた人からしみじみとお礼を言われなくもそれが苦にならない。その心境は聖人に勝るとも劣らない。その志が貴重である。 → ボランティア精神

<上方商家の訓え 17世紀~19世紀>
[住友家:住友政友] Sumitomo Masatomo (Sumitomo)
○『商事候や不及言候へ共、万事情に可被入候』 "This goes without saying, but every act of work should be performed wholeheartedly"
(あきないごとそうろうやいうにおよばずそうらへとも ばんじじょうにいらるべくそうろう)
・ 商い事をする際は言うまでもないことだが、万事について利益よりも心を重視するように。 → コンプライアンス

[大丸:下村彦右衛門] Shimomura Hikoemon (Daimaru Department Stores)
○『先義而後利者栄 (義を先にして利を後にする者は栄える)』 "Those who put justice first and profit second will prosper (Profit will follow)"
・ お客様や社会への正義を優先し、利益を後回しにする者は栄える。 → 顧客満足
○『富好行其徳(富めば好んでその徳を行なう)』 "Wealth must be akin to virtue"
・ 商品値札の裏に「富好行其徳」の5文字を刷り込む。徳を行なうのは富者としての義務。 → 慈善事業

[高島屋:飯田新七の綱領]
○『商品の良否は明らかに是を顧客に告げ、一点の虚偽あるべからず』→正直・誠実な経営

[高島屋:二代目飯田新七の言語録]
○『堅牢確実なるものを売らんと決心し~薄利に甘んじ、客を利し、併せて我も利し』
・ 丈夫で品質のちゃんとしたものを売ろうという決意をし~薄利で満足し、客に得をさせ、ついでに自分も利益を得る。 → 本業を通じた社会貢献

[住友家:広瀬宰平] Hirose Saihei (Sumitomo)
○『浮利にはしり軽進すべからず』 "Never pursue frivolous profit"
・ 目先の利益を追って、軽々しい儲け主義に走ってはならない。 → 本業を通じた社会貢献
○『名誉を害し、信用を傷つくるの挙動あるべからず』
・ 名誉を害し、信用を傷つける行動をとってはならない。 → 正直・誠実な経営
○『廉恥を重んじ、貧汚の所為あるべからず』
・ 恥になるようなことはするな。心貧しい行為をしてはならない。 → 正直・誠実な経営

<近江商人 18世紀中頃~19世紀中頃>
[近江商人の生活信条] Omi merchant creed for living
○『始末してきばる』 "Waste nothing and work hard”
・ 出来るだけ無駄を省き倹約に励み、支出を抑えて経済性を高め、一方で勤勉に働き、才能を最大活用し、創意工夫することで収入の増加を図る。 → サステナビリティと勤勉

[中村治兵衛] Nakamura Jihei (Omi merchant)
○『自分の事には思はず、皆人よきようにと思ひ、高利望み申さず ~ ただそのゆくさきの人を大切におもふべく候』 "Do not think of yourself but what is best for everybody, do not expect high profits … place great importance on those to whom you will sell" ⇒"Win-win-win situation"
・ 商いは自分の利益のためではなく、全ての人に満足してもらうことだと考え、高い利益を望んではいけない。~他藩へ商いに出かける場合は、行商先の他藩の皆さんを大切に思って商売しなさい。 → 三方よし「売り手よし・買い手よし・世間よし」の原典

[矢尾喜兵衛] Yao Kihei (Omi merchant)
○『商家の主人たる者、他人の子を多く抱え使うこと、全く商売の道の指南をいたし、銘銘を男一人に仕上げわたす師匠と心得べき事』 ⇒ 人財
"When employing other people's children, merchant house masters must see it as their duty to teach them the way of business, make each a man and send them into society" ⇒Human assets
・ 他人の子を多く使って雇うことは、その子たちに商売の道を教え、一人ひとりを一人前の男に仕上げて社会に出す師匠になることだと、心得ておきなさい。 → 人材教育

[中井源左衛門良祐]
○『始末と吝(しわ)きの違あり。吝(しわ)光りは消えうせぬ。始末の光明満ちぬれば、十万億土照らすべし』
・ 始末とケチは違う。ケチで貯まった財産はすぐ消える。始末で財産が蓄えられれば、世界中を照らす勢いになるだろう。 → サステナビリティ
○『二代三代もつづいて善人の生まれ出る也。それを祈る候には、陰徳善事をなさん』
・ 2代も3代も続けて立派な人物を輩出するためには、人に知れぬ善事をしていくより他に方法はない。 → 陰徳

[外村与左衛門] Tonomura Yozaemon (Omi merchant)
○『売りて悔やむ事、商人の極意と申す事よくよく納得いたし』 "Even when distressed after selling, be content that it was the secret of a merchant"
・ 売った後に、安売りしすぎたかと悔やむほどならば、かえって先々で利益を手にする。 → 顧客満足

[初代伊藤忠兵衛] 伊藤忠商事・丸紅の創業者
○『商売道の尊さは、売り買い何れも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの』
・ 商売道の尊さは、売り手・買い手どちらにも利益をもたらし、社会で不足しているものを補うからであり、仏の教えにかなっている。 → 三方よし

<関西財界の先駆者たち 20世紀>Pioneers of Kansai Economic Circles .20th century.
[久保田権四郎] 久保田鉄工所(現クボタ)創業者 Kubota Gonshiro
○『自分の魂を打ち込んだ品物を作り出す事、又其の品物には正しき意味に於ける商品価値を具現せしむる事』 "Create goods with all your heart and embody them with the right value"
・ 国の発展に役立つ良い商品は全智全霊を込めて造り出さねば生まれない。ただし技術的に優れているだけでなく、その商品が社会の皆様に役立つものでなければならない。 → 本業を通じた社会貢献

[小林一三] 阪急電鉄創業者 Kobayashi Ichizo
○『商売繁盛の秘訣は信用にあり、信用を得る道は誠実にお客本位に行なう事である』 → 顧客満足 "The secret to business prosperity is trust, gained by sincerely putting the customer first"
○『会社の仕事の上のみでなく、一歩社外に出るも、絶えず無駄を省くという精神を忘却しないよう慎む事』 → サステナビリティ "Be careful not to forget the spirit of always reducing waste, be it on the job or out in society"
○『事業の成否は「人にあり~事業の経営には、善良にして有為なる『人』を養成するより外に道はない』 ⇒ 人財 → 人材育成 "Business success depends on people"

[鳥井信治郎] サントリー創業者 Torii Shinjiro
○「利益三分主義」
・ 利益は事業の拡大と、お客様と社会へ還元すべきである。 → 社会との連携
○「陰徳つめば陽報あり」"What is done by night appears by day"
・ 陰徳はまことに尊いことであり、陰徳の数々がいつか花を咲き実を結ぶ。 → 陰徳

[松下幸之助] 松下電器産業創業者 Matsushita Konosuke
○『ガラス張り経営』 "Transparent management"
・ 秘密を持たず、内外ともにありのまま姿を知ってもらう。 → コンプライアンス
○『お得意先と対立しつつ調和する』 → 顧客満足 "Conflict and harmony with (valued) customers"
○『商品はわが娘、お得意先はかわいい娘の嫁ぎ先』
・ 毎日扱っている商品は、長い間手塩にかけたわが娘のようなものであり、得意先はかわいい娘の嫁ぎ先である。娘が嫁ぎ先に気に入ってもらえるか、気になるように、商品についても得意先に気に入られているかという気持ちが大事。 → 本業を通じた社会貢献
○『企業の赤字は罪悪である』
・ 企業の利益とは本来、その活動を通じて社会へ貢献した結果、報酬として得られるものである。赤字であるということは、企業の本来の使命を果たしていない姿である。 → 本業を通じた社会貢献
○『雨が降れば傘をさす経営』“When it rains, open your umbrella"
・ 雨が降れば傘をさすのが当たり前のように、正しい仕入れ値で仕入れ、正しい売値で売り、正しい利益をあげる。当たり前のことを当たり前に行う。私心にとらわれて判断を誤り、傘もささずに歩き出してはいけない。 → 正直・誠実な経営
○『企業は社会の公器である』 → 社会との連携 "A company is a public entity of society"
○『率先垂範』 "Example by leadership"
・ 経営者・責任者たるもの、みずから先頭に立って真剣に一身不乱、身をもって社員の人たちに範を示すことが大切である。 → コーポレート・ガバナンス
○『松下電器は人をつくっている会社です。あわせて電気器具をつくっています。』(人財)"Matsushita Electric develops people and we also manufacture electrical appliances"
・ 事業は人にあり、人をまず養成しなければならない。 → 人材育成

http://www.kansaidoyukai.or.jp/Default.aspx?tabid=189


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いかがでしたか。

国や企業によって、企業倫理、企業の社会的責任への認識が異なることは多様性として許容されるものの、社会と企業は同一の利害を有する人間による営みです。

関西の有力企業にみられる上方の商いの伝統理念を、原点に立ちもどって、その属する経済団体が内外に向けて発信するという取り組みもまた、地球規模の経済社会の一員としての社会的責任なのかもしれません。



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