VERI & heso’s Management

 経営理念の研究(VERI研)と 法人の総務(hi-soumu)

マリオットの経営理念 (3)

2006-03-27 20:34:13 | VERI研
                       -VERI-情報0603

 可憐に梅の花が咲き、次には桜の花が出番をひかえている今日この頃です。

 不動産・金融証券バブルの崩壊から10年後、2001年に登場した小泉内閣は「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」の基本理念のもとに「構造改革」の政策を推進して来ましたが、9月任期満了まであと半年です。

日本の経済規制の理念は、原則禁止から原則自由(フリー)へ、そして、公平(フェアー)で地球規模的(グローバル)な市場原理を重要視する方向へ変化しました。その結果、国や地方自治体の経営においても、企業経営や個々の家計においても、それぞれ経営の自助努力、自己責任を重要視する考え方へと変化してきています。

これらの改革の動きを希望的にみれば、世界の全ての人々に自由な機会が与えられる地球規模の自由市場主義体制の理想に向かって、明治維新以来のさらなる開国・開放の方針をとっていると云うことも出来ます。

この理想と現実との間には、当然ギャップがありますので、それを埋める国家戦略の立案と実行が必要ですが、創造的破壊を進めた小泉内閣に続く次期内閣にこの仕事が期待されます。

グローバルな活動をしている大企業の経営では、業績が悪化したときに規模の削減(ダウンサイジング)や組織再編(リストラ)を実行して、再び成長軌道に乗せることが基本政策となっています。変化の早さが企業を倒産から防ぎます。

企業経営においてのリストラの理念とは、どういうものでしょうか。
Why is restructuring good ?
なぜ、リストラがよいのか?

・ Good for individual: communicates that he must change his life and behavior to add value to a
company and society.
  個人によい。 会社と社会に価値を加えるためには、彼の人生と行動を変えなければならないことを知らせます。

(会社に貢献できない人はこの点に気づいてない人が多いのです。一生懸命忙しく働くように見えますが、会社に利益をもたらしていない。その人に会社に利益をもたらしていないことを知らせ、その人自身が今までやってきた仕事、生き方、その全てを見直し、改善する機会を与えることが出来ます。)

・ Good for the company: creates a cost structure that permits the company to profit and survive; saves at least some or most of the jobs rather than losing all the jobs.
  会社によい。 会社が利益を得て存続することが許される費用構造をつくり、全ての仕事を失うことよりむしろいくつかまたは大部分の仕事を助けます。

(リストラに対する他の代案があるでしょうか。リストラをしなければ会社の門を閉めることになるのです。)

・ Good for society: free up resources that can be used in more productive areas.
  社会によい。 より生産的なところで使われることが可能となる資源を制限から解きます。

・ Free labor markets eliminate unemployment.
  自由な労働市場は失業をなくします。

(アメリカの労働市場を見ても労働価が下がっています。中国のような安い労働力が流入しているからです。しかし長期的な側面から見れば、新たに流入した労働力が市場に全て入ってきたなら、労働力に対する価値が上がり、もう一度需要と供給の均衡を維持します。)

現実では、労働市場の求人ニーズと求職ニーズのズレ(年齢・職業能力の不一致)、情報の不完全性、労働者や企業の選好などの理由で、失業期間が長くなることも予想されます。景気状況によって賃金など労働条件面での求人の質が異なることもあります。

リストラで失業した個人やその扶養家族には、一時的に、精神的にも経済的にも負担がかかる場合も多くあるものと予想できます。個人においてのリストラ対策は、一時の失業を凌ぐ貯蓄、そして、絶えざる学習と経験によるビジネススキルアップでしょうか。

さて、従業員を第一とする価値観で経営していたマリオットにおいてのリストラとは、どのようなものであったのでしょう。

マリオットの経営理念探求の続きです。

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<事業組織の拡大>
 1927年のホットショップ開店から1957年の最初のホテルオープンまでの間、売上が増加しなかったのは第二次大戦中の1942年だけで、1957年にホテル産業に参入してからも売上が増加し続け、創立50周年の1977年に10億ドルに到達しました。

マリオットのモットーは成長し続けることでした。
このころはコングロマリット(複合企業)に熱狂していたウォール・ストリートの時代で、71年に旅行代理店に参入、翌年にはクルーズ船業務に参入、さらに建国200年記念の76年にテーマパークに進出、警備会社にも進出しましたが、ことごとく事業に参入してから自分たちには乗り越えられない大きな壁のあることを発見し、失敗しました。

そして、80年代に、社運を賭けて、ホテル産業のほぼすべての業態区分へと多角化を推進することになります。年間目標は売上増加率20%、自己資本利益率20%の成長です。

80年代の半ばまでには、マリオットはアメリカでも指折りの不動産開発業者になっていました。新しい大型ホテルを開発し、建築・建設したホテルを投資家に売り、投資家と長期の管理運営受託契約を交渉するという成長戦略で、巨大な流れ作業的生産工程をつくりあげました。

89年、ホテル業界は供給過剰の不安が話題となりましたが、マリオットは強気でした。ホテルの土地建物の在庫分で長期借入金は33億ドルに達し、この年、ビジネスの成長の可能性と財務貢献度から判断して、マリオットの創業のルーツとなる機内食部門とレストラン部門を売却しました。

<初めてリストラ>
1990年の秋、景気の先行きに不安が見え始め、中東では緊張が進み、不動産市場があっという間に暴落します。そして、91年初めには湾岸戦争が勃発。マリオットの野心的な拡大計画は、景気が足踏みすることでダウン寸前の窮地にたたされました。

マリオットにとって一縷の望みは日本人投資家でしたが、日経株価指数が90年の1月から10月の間に暴落すると、これまでのようにアメリカ不動産への大規模な投資をしなくなりました。

マリオット・ジュニアは次のように述べています。
「アメリカの不動産市場の急落、中東での緊張の増加、景気後退などのせいもあるが、その本当の原因は、深刻に考えていたがあまり口には出さなかったホテル過剰建設についての不安に私がきちんと対処していなかったことだ」。

「この窮地に最も浮き足立ったのは私だった。長年、借金という魔の手について父から何度も繰り返し説教されていた。ところが、この業界の過剰建設に腰までつかってしまったことで、父と企業を自分一人で裏切ってしまったように感じたのだ」。

この年、マリオットは、ホテル開発の計画を急遽取りやめ、開発部門と建築・建設部門を廃止して1000人以上の社員を解雇します。また、上級幹部の約1100人は半年間の賃金凍結、他の管理職や事務に携わる従業員も全員、3ヶ月間の賃金凍結、それで何とか時給で働く従業員に給料が支払えました。

「私たちの全従業員が将来の不安に立ち向かっていけるよう支援に全力をあげることが重要だった。会社を去っていく人には、もちろんできる限り、他の仕事を探す支援をし、会社に残る人には彼らの勤勉さが評価されていることを確認してもらい、自分たちも失業するのではないかという不安に使っていたエネルギーをもう浪費する必要がないことを知ってもらう必要があった」。

専門のコンサルタントの支援のもとに本社から少し離れたところに再雇用斡旋センターを設立し、再雇用斡旋を扱う責任を持ったチームは、退職者に履歴を用意し、職探しを行い、たいへん厳しい雇用市場と向き合う際のストレスを処理するのに役立つあらゆる選択を訓練することに時間を費やしました。退職する従業員は、このセンターで、専門的なカウンセリングや面接を受け、毎日、求人情報を調査するため、一列に並んだ電話付きの個室を利用できました。

訴訟という法的処置をとってきたのは2%にすぎず、その問題もほんのちょっとした問題で、友好的に解決できました。

「実際には、解雇された従業員の多くが再雇用斡旋で支援したことに感謝までしてくれたので、私はかえって心を動かされてもいたのである。職探しをしていた退職者の90%以上が、最終的に職をみつけることができたこともうれしく思っている」。

「証明する手立てはないが、会社を去らなくてはならなかった従業員はマリオットですばらしい在職期間を享受し、実際に、大切にされてきたという事実が、功を奏したのだと私は信じている。元従業員たちが、マリオットで勤務している間、ぞんざいに扱われていたとするなら、従業員のことを自分がこれほど理解できているとは思えないだろう」。

「最も厳しい試練を受けている間に、マリオットの従業員第一主義の哲学は、70年前に定められたときよりも、父が目指していた理想にさらに近づいてきた」。

<財務再建のシナリオ>
 金融機関は不動産の暴落で多くの宿泊施設を差し押さえていましたが、ホテル経営を知らず、マリオットはホテル管理運営受託契約を結ぶ機会が増加する傾向にありました。

この機会をつかむために、急がなければならなかったことは企業の借金を自ら分離するという企業分割の手法でした。従来の会社が未売却の不動産と借金を所有し、借金のない新しい会社が運用管理とサービスをするというものです。

借金のない新しい会社は、もっと柔軟に管理運営受託契約を結ぶことが出来るようになり、新しい会社が稼ぎ出したお金が、借金のある従来の会社に流れる仕組みです。

1992年の企業分割を発表、93年に分割を実施。これで新しい会社は、マリオット本来の管理とサービスという中核となる事業に専念できるようになり、再度、成長状態を取り戻します。95年にはリッツ・カールトンの経営権の49%を取得して高級ホテル分野に参入しました。

マリオット・ジュニアは反省します。不動産暴落までの有頂天になっていた時代、「1980年代の何事にも積極的で強気な雰囲気のなかで、マリオットは本来のあるべき姿とはかけ離れた企業になっていた(本来の自分をほとんど見失っていたのだ)」と。

「最も重要なのは従業員だ。これはいくらいってもいい過ぎることはない。私たちのチームの献身や勤勉がなければ、マリオットは倒産していただろう。これが真実であり、だからこそ従業員を大事にすることを組織の最優先事項にしているのである」。

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いかがでしたか。

まず最初に「従業員」、続いて「お客さま」、そして「利益」の順に考えます。従業員が喜んで働けない職場では、お客さまを満足させることは不可能です。自由に意見が言える環境をつくる仕事が総支配人の仕事だと思っています。(ザ・リッツ・カールトン東京開業総支配人、リコ・ドゥブランク)

私たちの事業全般は、基本的に家族向けのものである。(マリオット・ジュニア)

気さくなサービスを提供し、顧客を来客として大切にもてなすこと、「自宅から離れていてる人びとが、友人に囲まれ、心から歓迎されていると感じられるようにする」こと。

父のJ.ウィラード・マリオットが理想とした従業員第一主義の哲学、従業員のことを家族のように理解するという文化の意義を、J.W.マリオット・ジュニアが自らリストラを通して倒産の危機を回避したときに再確認をいたしました。



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