囲碁の果樹園(囲碁の木がすくすく育つユートピアを目指して)

人間とAIが集い囲碁の真理を探究する場の構築をめざして、皆様とともにその在り方を探っていきます。

みんなの碁盤(補足)

2018-01-14 07:17:12 | 実験

前回、みんなの碁盤において暫定的な局面評価がどのように決まるか、またそのしくみに基づいて検討がどのように進展して行くかというお話をしました。検討に参加する人の棋力を問わないという方針のために検討結果の質が保証されないのではないかという疑問について、もう少し議論します。

図1が、問題になり得る状況の一例を示しています。局面Sは客観的に見ると白が大優勢で、白勝はまず間違いないと仮定します。しかし、この局面を登録したAさんにとっては黒勝に見えましたのでAさんの1票は黒勝です。この局面を見たBさんは、白の一手を示して「いや白勝だよ」という主張をします。それに対してAさんがさらに反論をし、これを数手繰り返したのが図1の状況です。この時点ではAさんの登録した黒勝1票の局面が葉になっているため、この手順中の局面の暫定評価はすべて黒勝です。

この状況は、あたかもAさんBさんの個人対局の様相を呈し始めており、しかも、強い人から見ると、Aさんが負け碁を粘っているように見えるかもしれません。対局であれば、相手は1勝の喜びのためにそういう粘りに付き合うこともそれほど苦ではないかもしれませんが、検討の場合には辛抱して付き合うだけの動機は少ないでしょう。特に、Bさんの棋力がAさんの棋力よりもだいぶ上の場合にはなおさらでしょう。というわけで、図1の状況でBさんがAさんを説得することをあきらめることは十分に考えられます。そうすると、局面Sに対する黒勝という誤った評価が生き残ってしまうことになります。そして、その誤った評価は、Sからさらに遡った局面の評価を誤らせる可能性があります。

しかし、実際にはこの心配は要りません。BさんはAさんを説得するために、一筋の手順を追って行く必要はないからです。図2のように、局面Sにおける白の着手の別案を示すことができます。さらに、説得をBさんがひとりで行う必要もありません。同じ図にあるように、CさんやDさんがさらに別の手で説得に加わることができます。Aさんが局面Sは黒勝という説を擁護するためには、これらのすべての人を説得する必要があります。もし、局面Sが本当に白勝の局面であり、間違った評価を放置できないような重要な局面であれば、これはほとんど不可能と考えてよいでしょう。図2の左の方には誤った評価の局面が残っていますが、その誤りは局面Sによって「ブロック」されて上方には伝搬されないので、放置しても構いません。

参加者の棋力を限定することによって、局面評価の質を保証するという考え方もあるかもしれませんが、囲碁の果樹園ではその立場はとりません。むしろすべてのレベルの参加者を受け入れることによって、質を保証することを目指します。図2においてAさんを説得する役割には、最高の棋力の参加者よりもむしろ、Aさんよりちょっと棋力が上という程度の参加者たちが興味を持って当たることができるでしょう。

みんなの碁盤に育つ木のあちこちで、局面評価のための手談が行われている。その多くは、対局サーバにおけるものと同じように棋力の近いものどうしであるが、その手談の結果の局面評価はみなで共有され、時には棋力の差を飛び越えて影響を与え合う。そんな文化を育てていきたいと考えます。