『法月綸太郎の新冒険(法月綸太郎)』読了。作者の第三短編集。
法月綸太郎の短編はとても鋭い。魅力的な謎と適切な伏線、そして驚愕の真相を短編の中で成立させる技量に、読者は感嘆せざるを得ないだろう。
(以下ネタバレ)
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『背信の交点(シザーズ・クロッシング)』…鉄道ミステリの傑作。確かに『パラレルワールド・ラブストーリー(東野圭吾)』の冒頭を思い出した。西島あずさと品野道弘が心中したというのはミスディレクション。綸太郎は「品野晶子が両名とそれぞれに心中を約束し、二人には毒薬を渡しつつ、自分は味の素を偽り飲んで生き残った」と推理する。(駅を「交点」に、お互いの名のついた電車で、思いを表面しながら死ぬという計画はある意味ロマンチック) 自分だけ生き残った晶子を告発した綸太郎に、彼女は「どちらと心中するかを選びかねたから、3包のうち2つの中身を毒薬にし、それをシャッフルして為すに任せた。」と語った。いかな名探偵であっても、それだけは解明できない謎なのではないか。
『世界の神秘を解く男』…心霊探偵綸太郎シリーズの第一作。(嘘) ハウダニットは早々に判明し、フーダニットにしても意外性はなかった。ポルターガイストについての「幻聴とヒステリーにつけこんだ」という真実もイマイチ。
『身投げ女のブルース』…法月綸太郎が直接登場しない異色作。珍しく「うわぁ、びっくり!」といった系統の作品であり、そこもまた異色。「彼女が殺人を犯してしまったから駆けつけようとしている途中で偶然出くわした身投げ女が彼女にそっくりだよしそいつを彼女と誤認させてアリバイを作ろう」と一瞬で考えついた語り手の刑事、頭 お か し い。
『現場から生中継』…「テロップをみろ」という言葉が重要。これは真犯人の偽証。罪をかぶせようとしていた友人が中継に映っていることを知り、友人が完璧なアリバイを作ったかのように思わせることで、自分への疑いを避けようとしたのだ。明らかに酒鬼薔薇聖斗を意識していて、話の本筋には関わらないものの「今の若者はまったくもって意味がわからん!」というメッセージが読み取れる。(←法月親子の会話や真犯人の動機からも顕著)
『リターン・ザ・ギフト』…交換殺人とみせかけた狂言、という真相には完全に裏をかかれた。
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