老女の入れ歯と警察官
昨年暮れ、東京・JR中央線国分寺駅前。冷たい小雨が降る中、80歳を超えた老女が路上で急にしゃがみこんでしまった。
苦しそうに顔をゆがめ、もどしそうになっている。路上を汚したくなかったのだろう。側溝の穴の開いた所までなんとか移動して、激しく嘔吐(おうと)した。
「カラン、カラン」
その時だった。老女の口元から何か物体が出て、側溝のコンクリートにぶつかり、少し跳ね上がって穴の中に落ちてしまった。
老女の総入れ歯だった。嘔吐の激しさのあまり、勢いではずれて口から出てしまったのだ。
悄然(しょうぜん)とする老女。コンクリートの蓋(ふた)を持ち上げようとするが、ピクリともしない。開いたままの傘を路上に置いた老女を小雨が容赦なく打ちつけた。
すると、老女はふと思い立ったように歩き始め、駅前の交番にたどりついた。窮状を必死に訴える老女に、若い警察官はやや困惑気味だった。
老女に連れられるようにして、警察官は側溝のところまで来た。重たいコンクリートの蓋をようやく持ち上げた。下のくぼみは暗く水がたまり吐瀉(としゃ)物があった。
老女が傘で中をつつき、探り始めた。「この辺にあるようです」 警察官は、側溝のくぼみに腕を突っ込んだが、入れ歯はない。ついには、肩口まで腕を入れて探し始めた。側溝のそばにも老女の吐瀉物があった。そこに、老女は持っていたビニール袋をかぶせた。せめてもの気遣いだった。警察官はそこに、片手を置いて作業を続けていた。
「あった!」。警察官がくぼみから出した手に、入れ歯が握られていた。
老女と警察官は手を取り合って喜んだ。「ありがとうございます。ありがとうございます」。泣きそうな顔で老女はいつまでも頭を下げ続けていた。
2日ほど、床に伏して、老女の体調は回復した。老女は、交番の所轄警察署を「あのおまわりさんのことを署長さんに話したい」と訪問した。
応対した署員たちは、最初は、老女の唐突な話に面食らったようだったが、老女の熱意にほだされ、あの駅前交番の若き警察官を呼んでくれた。老女は額を床につけるようにして、土下座してお礼を述べた。署員たちは立ち上がってこの光景をみつめていた。
最近、いろいろあるが、こういう警察官も当然、たくさんいる。(編集長 近藤豊和)
いいお話で、ほっこりしたのは事実ですが、まずこのおばあさんの体調が心配ですし、もう1つは・・・相変わらずの公的機関の融通のなさですね。
これ、庶民感覚からすれば、普通にその担当した警官に連絡して、事実確認をすぐにやればいいことであって、特に困惑する事柄でもないんですけどね・・・。
って、ひねくれてますかね?(笑)
ねこでした。ニャン☆
警察というより 昔でいう「おまわりさん」なら 当たり前の行動だったのでしょうが 今は変わってしまったのかな と思います