脳を衰えさせる3大要因 16万人のMRI画像から判明!
第2回 MRI画像で一目瞭然、生活習慣の違いによる脳の萎縮度の差
田村 知子=フリーランスエディター
「最近、もの忘れがひどくなった」「集中力が落ちてきた」……。加齢とともに「脳力」の低下を実感している人は少なくないだろう。どうしたら年齢を重ねても健康な脳を維持できるのかについて、脳医学者の瀧靖之さんに伺う本特集。第1回では、「いくつになっても脳力を高めることができる」という、近年の研究で明らかになった脳の特性について解説した。第2回では、脳の老化・萎縮を助長し、「脳力」を衰えさせる3大要因とその改善方法について学んでいこう。
もの忘れがひどくなったり、人の名前がスッと出てこない、1つのことに集中できないといった状態が続いたりすると、「このまま自分の脳は衰えていく一方なのか」と不安になる人もいるだろう。
実際、少し前までは、加齢とともに脳の神経細胞は減り続けると思われてきた。しかし、近年の脳科学研究により、脳の神経細胞は、少なくとも「海馬」と呼ばれる部分においては、いくつになっても新しく生まれることが明らかになった。また、脳には外部からの刺激によって変化する力、すなわち「可塑(かそ)性」が備わっていることも分かってきた。つまり、脳の機能は何歳になっても成長するのだ(詳細は第1回を参照ください)。
「脳はいったん完成すると、その後は大きくなるなど形態が変わることはなく、加齢や病気による萎縮が起こったときのみ変化すると考えられてきました。ところが今では、脳に刺激を与え続けることで、脳の神経細胞をつなぐ情報伝達回路を変化させ、それによって脳の体積を増やすことが可能であるということが、様々な研究結果から示されています」と話すのは、東北大学加齢医学研究所教授で、脳医学者の瀧靖之さんだ。
瀧さんが所属する東北大学加齢医学研究所では、疫学調査によるビッグデータをもとに「認知力」「生活習慣」「遺伝子」「MRI画像」の4つの分野から脳の研究を進め、認知症を未然に防ぐ方法を追究している。瀧さんはその中でもMRI画像の分野を専門とし、幼児から高齢者まで、16万人もの脳のMRI画像を読影・解析してきた。
「膨大なデータの解析を進めていく中で、脳の老化、つまり萎縮を助長する要因だけでなく、逆に、脳の可塑性を高めて健康な状態を保つ要因があることも分かってきています」(瀧さん)
脳の可塑性を高め、健康な状態を保つ3大要因は「好奇心」「有酸素運動」「コミュニケーション」だが、その詳細は第3回で紹介することとし、今回は、脳の老化を促進する要因について詳しく知ることで、「脳力」の低下を予防するヒントを探っていこう。
まずは、以下のMRI画像を見てほしい。これは、同じ年齢の人の脳を比較したものだ。いずれも60歳の男性だが、上段の人の脳と比べて下段の人の脳は、中央部に黒く写る「脳室」や、脳を取り巻く「脳溝」が大きいのが分かる。これは、その周辺の脳(白っぽく写る部分)が萎縮していることを示す。「この画像でお伝えしたいのは、同じ年齢の人でも、生活習慣によって脳の萎縮度はかなり変わってくるということです。下段の人は生活習慣病を患っていました」(瀧さん)
生活習慣によってこれほど違いが出ることに、驚いた方も多いだろう。では、脳の老化・萎縮を助長し、「脳力」の低下を招く要因は、具体的にどんなものなのだろうか。
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