矢島慎の詩

詩作をお楽しみください。

忘れしもの

2005-04-12 12:22:40 | Weblog
部屋を出る玄関で私の靴に紙が一枚かぶせてある
指に糸を巻くことのように忘れないようにとの印だ
いつもならば「買い物のことだね」と声を掛けるのだが
口論をしたばかりのこの時に私が何を忘れると言うのだろうか

部屋の奥では彼女が気持ちを荒げ当たり散らしている
出て行く私に何の忘れもだと言うのだろうか
靴の紙を払いのけてバターンとドアを開け放つ
興奮の息づかいをさせたまま夜の街に出て行った

売り言葉に買い言葉のやりとりは何が発端かも分からぬまま
季節を幾つも過ごし愛を深めてきた二人
それがちっぽけな口論で崩れてしまうのは愛の気まぐれとでも言うのだろうか

自分の心を見つめなおし愛の深さを思い起こして見ると
私には過ぎたる人だと直ぐ結論付けられた
やっぱり必要な人だと分かり心の乱れを整えると

足は自然と部屋の方角に向いていた
ドアの前にはひらひらと白い紙が一枚あった
再びドアの前に立ちノブに手をやった