オタクな物書きのブログ

フリーのシナリオライターとしての活動を報告します。
また同人作品を紹介したり、アフィリエイトのことを報告しています。

お蔵入りになったOP・5

2013年01月27日 | ライター
【万華鏡回廊】

「えっ? 宵闇の者だけの忘年会、ですか?」
「ああ。忘年会は毎年行っているが、今年は少し趣向を変えてみることにしたんだ」
 大河アカリに呼び出された海老塚汐は、タイガハイタワービルのカフェレストランの個室で話を聞いて、不安そうに首を傾げる。
「でも…アーシェス達が怒りそう、です。『宵闇の者達だけでズルい!』と言って…」
「あっ、言い忘れていたが、業魂達は業魂達の忘年会を用意させている。だから大丈夫だ」
 それならば不公平ではないので、汐はほっと胸を撫で下ろす。
「そうですか…。でもあの、何で宵闇の者と業魂を別々にして、忘年会を開くんですか?」
「ん? …そうだな。宵闇の者には宵闇の者の言いたいことが、業魂には業魂の言いたいことがそれぞれあるだろう。それを分かってやれるのはある意味、同類だけだと思うんだ。確かに宵闇の者と業魂の絆は強くて深い。――だが残念ながら、存在のあり方は違うだろう?」
 アカリが苦笑しながら話す言葉を聞いて、汐は戸惑った表情を浮かべながらもその意味には気付いていた。
「まあ…確かにそう、ですね」
「でも深く考えることはない。宵闇の者と業魂は同居していることが多いからな。たまには離れて、どんちゃん騒ぎをするのも良かろうと思っただけだ」
「ふふっ…、そうですね。年に一度ぐらいはそういう日があっても良いかもしれませんね」
 そこでようやく微笑んだ汐を見て、アカリは安心する。
「場所や料理などはウチの方で用意しよう。もちろん、タダで。中には未成年もいるだろうから、送迎もちゃんとする。なぁに、そんなに夜遅くまではやらないさ」
「それなら良いですね。それじゃあサークル会員達に声をかけておきますね」
「ああ。ウチの方でも社員やアルバイト達にも声をかける。楽しい忘年会にしような」


<解説>
 こちらは宵闇の者編です。
 忘年会のストーリーは昨年、【タイガ警備保障心霊対策課の宴会】で書きましたが、こちらは宵闇の者も業魂も参加できる内容でした。
 なので今年はちょっと趣向を変えてみましたが…。

お蔵入りになったOP・4

2013年01月27日 | ライター
【万華鏡回廊】

「はっ? 業魂だけの忘年会? 宵闇の者はどーすんのよ?」
 アーシェス=クロウは芹沢千雨に呼び出され、タイガ警備保障心霊対策課室に訪れていた。そこには大河ヒナもいたが彼女は口を開かず、千雨から忘年会のことを聞く。
「宵闇の者は宵闇の者の忘年会が開かれますので安心してください。経費はもちろん全額タイガ持ち、送迎もやりますので安全ですよ」
「それは良いけど…でも何で宵闇の者と業魂をわざわざ離すのよ? 今までは一緒にやっていたんでしょう?」
 アーシェスが解せないといった表情を浮かべるのを見て、千雨は苦笑を浮かべる。
「私は普通の人間なので何とも言えませんが…。しかし宵闇の者と業魂は普段、共に行動することが多く、また同居している人も大勢います。なのでたまにはパートナー抜きで、愚痴でも言い合おうとでも思ったんじゃないですか?」
「…ふんっ。まあ結局、宵闇の者と業魂は存在のあり方が違うからね。お互い、いろんな悩みを抱えているでしょう」
 渋い顔をするアーシェスだが、千雨の言っている意味は分かっていた。
「まあそう暗い考えにならずに。たまにはパートナー抜きでハメを外すというのも楽しそうじゃありませんか? 同類同士で気兼ねなく、自由にできるというのも面白いと思いますよ」
「…そうね。でも千雨博士はどっちに行くの?」
「私はあなた達、業魂の方の忘年会に参加します。宵闇の者の方にはアカリさんが行きまして、暴走する人がいないか見張ります」
 千雨のメガネの奥の眼が危険な光を発するのを見て、アーシェスは出かけた悲鳴を飲み込む。
「そっそう。千雨博士が一緒なら心強いわ。それじゃあオカ研の方には私から言っておくから」
「ええ、お願いします。タイガの方では私から伝えておきます。楽しい忘年会にしましょうね」


<解説>
 書いたのが年末だったので、忘年会のお話です。しかも業魂だけが集まります。
 そして宵闇の者への愚痴を語ってもらうつもりでした。
 普段、一緒にいることの多い宵闇の者と業魂ですが、不満が全く無いとは言い切れません。
 なので忘年会で、いろいろとしゃべってもらう予定でした。

お蔵入りになったOP・3

2013年01月27日 | ライター
【タイガ警備保障心霊対策課】

●クリスマスイヴ前夜の悲劇!
 12月23日の深夜――。
入江地区の港にある倉庫の前に、大河アカリは多くの部下を引き連れてやって来た。全員が戦闘用スーツを着ており、誰もが複雑そうな表情を浮かべている。
「――いいか? 相手は我々と同じ宵闇の者や業魂達だ。一体化して戦闘になる場合もあるが、まずは説得を最優先とする。麻酔銃は各々持ったな?」
 アカリが険しい顔で声をかけると、部下達は銃を持ち上げ頷いて見せた。
「…はあ。でもまさか、こんなことになるなんてな」
 タイガ警備保障心霊対策課にアルバイトとして働いている小森宅男は、辛そうにため息を吐く。
「アカリさん、アイツらホントは良いヤツらなんですよ。だから…」
「分かっている、宅男。安心しろ、怪我はさせないようにするから」


 事の起こりは数日前、宅男は同じくタイガでアルバイトをしている人達の秘密の会議を聞いてしまったのだ。
 半信半疑だったものの芹沢千雨に相談してみると、彼女は一応調べてみると言った。そしてどうやら彼らが本気であることを知ったのだ。


 そして今夜、彼らの暴動を止めるべく、アカリは急遽チームを作ってここへやって来た。
 もうすぐ24日に日付が変わってしまう。
 アカリは静かに部下達に合図を送る。倉庫の引き戸に部下達は手をかけ、一気に引いた。
「そこまでだ! 全員、大人しく……」
 アカリの言葉は途中で力を失ってしまう。
 何故なら倉庫にいる者達は全員、顔に黒い三角の目鼻の部分に穴がある布のマスクをかぶっており、体を覆うような黒い布を羽織っているからだ。これでは誰が誰だか分からない上に、性別すら分からない。
「むむっ! アカリさん、何故ここへ?」
「…お前達を止めに来たんだ。クリスマスイヴとクリスマスの2日間、どうやら騒ぎを起こそうとしているようだな。だがお前達は私の会社で働く者達、バカな行動を止めるのが上の者としての責任でもあり役目だ!」
 麻酔銃を向けながら、アカリは険しい声を出す。
「ふっ…。バレてしまったのならば、しょうがない! だが勘違いしていただきたくはない。我々は華羅市市民を全員巻き込むつもりはないのだ。ただ…」
 そこで涙を堪えるように震え、そしてついに本音を暴露した。
「クリスマスだからといって、イチャイチャするカップルが許せんのだあっー!」
「バカかっーーー!」
 アカリの心からの叫びもまた、倉庫内に響き渡る。
 宅男を含め、アカリと共に来た部下達は呆れた表情を浮かべるしかない。
「その為にわざわざ棗屋で、妙な霊技アイテムを大量に買い込んだのかっ!」
「そこまでバレているのならば仕方ない。確かに武器は手に入れた」
 マスクをかぶっている者達は、それぞれ手に銃を持って見せる。白い拳銃はレーザー銃のような形をしていた。
「しかし安心してくれ。この銃は人を傷付けるものではない」
「だが無害というわけでもあるまい?」
 両者の間で静かな、だが激しい火花が散る。
「ではこの銃の威力、お見せしよう!」
 マスクの人物は突如、宅男に銃口を向けて撃った。
「うわっ!?」
 赤い光線が宅男を撃ち抜き、突如白い煙が起こる。
「たっ宅男っ! 大丈夫?」
 宅男の業魂である雨月紫陽花は、慌てて駆け寄った。しかし煙の中から出てきた宅男の姿を見て、その場で硬直する。
「……たく、お?」
「ごほっげほっ! なっ何だったんだじょ……って、あり? にゃんかみんな、おっきくなってにゃいか? …ん? 言葉じゅかいがおかしいじょ」
「ふわ~っはっはっ! 見たかっ、銃の威力を!」
 アカリは高笑いを聞かせられても、呆然と宅男を見るばかり。
 何と今の宅男は三歳ぐらいの少年になっていたのだ! しかもどうやら記憶や心はそのままで、身長のみが縮んでしまったらしい…。
「この銃の光線に当たった者は三歳から十二歳ぐらいの子供の姿になるのだ! …まあ何歳になるのかは、当たらないと分からないのがアレだがな。だが子供相手にイチャイチャはできるまいっ! …さて、と」
 マスクをかぶっている者達の銃口が一斉にこちらに向いたことに気付き、アカリと部下達はギクッと体を揺らした。
「宵闇の者が子供になってしまえば、一体化しても相手にならぬ! 我らの計画の邪魔はさせぬぞ! いくら同僚とはいえ、容赦はしない! 喰らえー!」

 ――そしてしばらくの間、倉庫には激しい物音と人の悲鳴が響き渡った。


●宵闇の者が子供にっ…!
「しまったじょ…。うっかり光線に当たってしまったじょ…」
 頼りになるアカリまで光線に当たり、三歳ぐらいの少女の姿になってしまった。
 ヒナに抱き上げられながら会社に戻ってきたアカリの姿を見て、千雨は一瞬気を失いかける。
 アカリは舌足らずのしゃべり方しかできなくなってしまったので、同行していた他の業魂達から事情を聞く。
 互いに銃を撃ち合った結果、数人は捕獲することができた。しかし大半は逃げられてしまったらしい。しかも向こうは主に宵闇の者ばかり狙って撃ち、業魂達は困惑した顔で幼くなってしまったパートナーを見ている。
「う~ん…。宵闇の者が子供になっても、一体化できるんでしょうか? 小森さんと雨月さん、やってみてくれますか?」
「分かった、やってみるじょ」
「うっうん」
 そして何とか一体化はできたものの…。
「小さっ!? ぶっ武器まで小さくなるんですね…」
 何故か武器まで体のサイズに合ってしまっていた。しかも明らかに、威力は低そうに見える…。
 千雨は苦悩を表情に浮かべ、腕を組んでしばらく考えた。
「…参りましたね。その姿では彼らを追うことは不可能でしょう。……仕方ありません。新たなチームを作って、彼らを追いかけさせます。なのであなた達はしばらく…そのままで過ごしてください」


<解説>
 こちらは宵闇の者が子供になるバージョンです。
 宵闇の者の方が、生きている月日は長いですからね。宵闇の者が子供になったら、人生経験の少ない業魂はどうするか?というストーリーです。

 実はこの二本のストーリーは、とある宵闇の者と業魂の関係性を見て、思いついたシナリオでした。
 宵闇の者は年上でして、業魂はまだ子供です。しかし業魂は宵闇の者に好意を持っていまして、でも宵闇の者は全く気付かない…という関係です。
 ならば宵闇の者が業魂と同じ歳になったら、少しは近付けるんじゃないかな~っと思ったんです。
 業魂編は、まあ宵闇の者編もあるのならば…という感じです。

お蔵入りになったOP・2

2013年01月27日 | ライター
【タイガ警備保障心霊対策課】

●クリスマスイヴ前夜の悲劇!
 12月23日の深夜――。
 入江地区の港にある倉庫の前に、大河アカリは多くの部下を引き連れてやって来た。全員が戦闘用スーツを着ており、誰もが複雑そうな表情を浮かべている。
「――いいか? 相手は我々と同じ宵闇の者や業魂達だ。一体化して戦闘になる場合もあるが、まずは説得を最優先とする。麻酔銃は各々持ったな?」
 アカリが険しい顔で声をかけると、部下達は銃を持ち上げ頷いて見せた。
「…はあ。でもまさか、こんなことになるなんてな」
 タイガ警備保障心霊対策課にアルバイトとして働いている小森宅男は、辛そうにため息を吐く。
「アカリさん、アイツらホントは良いヤツらなんですよ。だから…」
「分かっている、宅男。安心しろ、怪我はさせないようにするから」


 事の起こりは数日前、宅男は同じくタイガでアルバイトをしている人達の秘密の会議を聞いてしまったのだ。
 半信半疑だったものの芹沢千雨に相談してみると、彼女は一応調べてみると言った。そしてどうやら彼らが本気であることを知ったのだ。


 そして今夜、彼らの暴動を止めるべく、アカリは急遽チームを作ってここへやって来た。
 もうすぐ24日に日付が変わってしまう。
 アカリは静かに部下達に合図を送る。倉庫の引き戸に部下達は手をかけ、一気に引いた。
「そこまでだ! 全員、大人しく……」
 アカリの言葉は途中で力を失ってしまう。
 何故なら倉庫にいる者達は全員、顔に黒い三角の目鼻の部分に穴がある布のマスクをかぶっており、体を覆うような黒い布を羽織っているからだ。これでは誰が誰だか分からない上に、性別すら分からない。
「むむっ! アカリさん、何故ここへ?」
「…お前達を止めに来たんだ。クリスマスイヴとクリスマスの2日間、どうやら騒ぎを起こそうとしているようだな。だがお前達は私の会社で働く者達、バカな行動を止めるのが上の者としての責任でもあり役目だ!」
 麻酔銃を向けながら、アカリは険しい声を出す。
「ふっ…。バレてしまったのならば、しょうがない! だが勘違いしていただきたくはない。我々は華羅市市民を全員巻き込むつもりはないのだ。ただ…」
 そこで涙を堪えるように震え、そしてついに本音を暴露した。
「クリスマスだからといって、イチャイチャするカップルが許せんのだあっー!」
「バカかっーーー!」
 アカリの心からの叫びもまた、倉庫内に響き渡る。
 宅男を含め、アカリと共に来た部下達は呆れた表情を浮かべるしかない。
「その為にわざわざ棗屋で、妙な霊技アイテムを大量に買い込んだのかっ!」
「そこまでバレているのならば仕方ない。確かに武器は手に入れた」
 マスクをかぶっている者達は、それぞれ手に銃を持って見せる。白い拳銃はレーザー銃のような形をしていた。
「しかし安心してくれ。この銃は人を傷付けるものではない」
「だが無害というわけでもあるまい?」
 両者の間で静かな、だが激しい火花が散る。
「ではこの銃の威力、お見せしよう!」
 マスクの人物は突如、宅男の業魂である雨月紫陽花に銃口を向けて撃った。
「きゃあっ!?」
 赤い光線が紫陽花を撃ち抜き、突如白い煙が起こる。
「あっ紫陽花っ! 大丈夫か?」
 宅男は慌てて紫陽花の元へ駆け寄った。しかし煙の中から出てきた紫陽花の姿を見て、その場で硬直する。
「紫陽花…か?」
「けほんこほんっ! うう~…、一体何が起こりまちた? …何か宅男達がおっきく見えるでちゅ」
「ふわ~っはっはっ! 見たかっ、銃の威力を!」
 アカリは高笑いを聞かせられても、呆然と紫陽花を見るばかり。
 何と今の紫陽花は三歳ぐらいの少女になっていたのだ! しかもどうやら記憶や心はそのままで、身長のみが縮んでしまったらしい…。
「この銃の光線に当たった者は三歳から十二歳ぐらいの子供の姿になるのだ! …まあ何歳になるのかは、当たらないと分からないのがアレだがな。だが子供相手にイチャイチャはできるまいっ! …さて、と」
 マスクをかぶっている者達の銃口が一斉にこちらに向いたことに気付き、アカリと部下達はギクッと体を揺らした。
「業魂が子供になってしまえば、まともに戦えまい! 我らの計画の邪魔はさせぬぞ! いくら同僚とはいえ、容赦はしない! 喰らえー!」

 ――そしてしばらくの間、倉庫には激しい物音と人の悲鳴が響き渡った。


●業魂が子供にっ…!
「ヒナまで光線に当たってしまうとは…」
 何とアカリの業魂である大河ヒナまで、三歳ぐらいの少女の姿になってしまった。
 アカリに抱き上げられながら会社に戻ってきたヒナの姿を見て、千雨は一瞬気を失いかける。
「とっとりあえず、説明してくれますか?」
 アカリが言うには互いに銃を撃ち合った結果、数人は捕獲することができた。しかし大半は逃げられてしまったらしい。しかも向こうは主に業魂ばかり狙って撃ち、宵闇の者達は困惑した顔で幼くなってしまったパートナーを見ている。
「う~ん…。業魂が子供になっても、一体化できるんでしょうか? 小森さんと雨月さん、やってみてくれますか?」
「わっ分かった」
「あい」
 そして何とか一体化はできたものの…。
「小さっ!? ぶっ武器まで小さくなるんですね…」
 何故か武器まで小さくなってしまった。おもちゃのように見える上に、明らかに威力は低そうだ。
 千雨は苦悩を表情に浮かべ、腕を組んでしばらく考えた。
「…参りましたね。業魂が子供になってしまった上に、武器がそれでは戦えないでしょう。……仕方ありません。新たなチームを作って、彼らを追いかけさせます。なのであなた達はしばらく…そのままで過ごしてください」


<解説>
 業魂がクリスマスイブに、子供になってしまうというストーリーでした。
 いろんな宵闇の者と業魂を見てきましたが、結構年の差がある人達が多かったんですよね。
 なので普段、大人びている業魂が子供になってしまったら、宵闇の者はどう行動するんだろう?という内容です。
 ジャンルとしましては、ほのぼの&コメディでした。
 イブは子供として過ごしますが、クリスマス当日には戻ります。
 なのでイブの奇跡として、書いたストーリーでした。

お蔵入りになったOP・1

2013年01月27日 | ライター
 すでに辞めましたが、宵闇幻影奇譚でお蔵入りになったOPを掲載していきたいと思います。
 まあ何となーく、ただ闇に葬るだけでは勿体無いと思っただけなので、別に他意は全くござません。ええ、ありませんとも(目線そらし)。


【タイガ警備保障心霊対策課】

※このストーリーは【宵闇の者と業魂を救い出せ!】と【業魔を生み出す儀式を止めろ!】の続編となりますが、単品でもあります。


●奪われた魂命石
「イアーーーッ! 返してっ、返してよっ!」
 夜の入江地区で、若い女性の悲鳴が響き渡る。
 女性は少し離れた場所にいる黒いゴスロリ服を着ている少女に、厳しい声と視線を向けた。
 少女の白い髪は巻き毛で腰まで伸びており、黒く大きな眼は楽しそうに細められている。顔にはゴシックメイクがされており、十代に見える少女からは普通の人間ではない空気が漂っていた。
 その少女の手には、子供の拳ほどの大きさの青い石がある。
「業魂の魂命石を奪って、あなたは何をしようというの!」
 女性が必死になって叫ぶも、少女の視線は手の中の石に向いていた。美しい顔にぞっとするような、冷たい笑みを浮かべる少女はクスクスと笑う。
「別にぃ。アタシはただ、綺麗な物が好きなだ~け。だから魂命石って好きなのよぉ。まさに命がある石って感じの美しさがあるでしょう?」
 そう言って月の光に魂命石をかざす。しかしその石も手も、業魂の血にまみれていた。
「ああ、安心して。別に壊すつもりはないから。大事に大切にしてあげるわ」
「あなた…まさか人型業魔なの?」
 女性は少女と出会った時の事を思い出す。
 タイガ警備保障心霊対策課で働く宵闇の者である女性と業魂の少年は、見回りの為に入江地区に訪れていた。
 しかし少女に呼び止められて振り返った途端、少女は少年に襲いかかり、無理やり腹にあった魂命石を手でえぐり取ったのだ。少年の体はそのまま霧散してしまった為、女性は悲鳴を上げた。
 魂命石は業魂にとって、脳とも心臓とも言える。破壊されれば業魂は消滅してしまうので、女性は気が気じゃない。
「ふふっ、タイガも大したことないのねぇ。でもおかげで狩りが楽にできるわ。じゃあね」
 少女は手に持っていた傘を開いた。するとスゥッと浮かび上がり、そのまま空を飛んで行った。
「どっどうしようどうしよう…! 助けてっ…!」
 女性は戸惑いながらも携帯電話を取り出し、会社へ連絡する。


●私立タイガ病院 ロビー
「どういうことだっ! 魂命石を奪われるなんて!」
 深夜にも関わらず、大河アカリは誰もいない病院のロビーで芹沢千雨を怒鳴りつけた。
 女性は千雨に連絡を入れた後、意識を失い、駆け付けた千雨が救急車を呼んでここまで運ばせたのだ。そしてアカリに連絡を入れると、すぐにやって来てくれた。
「落ち着いてください、アカリさん。ここは病院です」
「あっ…、すまない。頭に血が上っていた…」
「お気持ちは分かりますから、とりあえず座りましょう。ああ、飲み物を買ってきますよ」
 千雨は自動販売機へ向かい、アカリは大河ヒナに支えられながらイスに座って大きく息を吐く。
「どうぞ」
 戻って来た千雨は、二人に紅茶が入った紙コップを差し出す。
「ありがとう」
 アカリはお礼を言って受け取り、ヒナも頭を下げて受け取った。
 千雨はアカリの隣のイスに座り、手に持っていた報告書を読み上げる。
「すでに今夜だけでも三件連続して起こっています。一件目は私が現場へと向かいましたが、その後立て続けに二件起こっています。宵闇の者には何もしませんが、突然業魂に襲いかかり、魂命石を奪って逃げている者がいます。どうやら人型業魔の仕業らしいです」
「人型業魔…と言うと、まさかあの連中か?」
 アカリの頭の中に、かつて宵闇の者と業魂を誘拐された事件、そして人型業魔を生み出そうとした儀式の事件が浮かんだ。
 だが千雨は困惑気味な表情をする。
「それはちょっと分かりません…。ですが可能性は高いと思われます。何せ被害者はウチの社員ばかりですから」
 ギリっと悔しそうにアカリは歯噛みした。かつて起こった事件では、タイガの者が狙われたこともある。
 人型業魔がいる邪教崇拝者達はタイガ警備保障心霊対策課を目の敵にしており、両者の対立は激しくなりつつあった。
「魂命石は業魂にとっても、そして宵闇の者にとっても重要な物です。早く取り戻さなければ、命の問題になります」
 今現在、宵闇の者がとりあえず無事なのは魂命石が無事である証拠だろう。しかしいつまでも無事なままではいられない。
「…しかし奪った魂命石をどうしたいのかが分かりませんね。敵であるならばすぐに破壊するでしょうし…。襲われた者の話では、『魂命石を壊す気はない』と言っていたらしいですけど、集めて何の得があるんでしょう?」
 千雨の疑問を聞いて、アカリは顔を上げる。
「それは本人に聞けば良いだけだ」
 アカリは紅茶を飲み干し、立ち上がった。
「まだ犯人は入江地区にいるだろう。そこで宵闇の者と業魂を向かわせれば、必ず出て来る」
「ですが危険です。被害者達が一体化する暇もなく、奪われたほどの実力者ですよ?」
「だがほっとくわけにもいかないだろう」
 今でも人型業魔の少女は入江地区にいて、業魂を狙い続けている。このままでは被害は増えるばかり。タイガの者達を引き上げさせても、入江地区には宵闇の者と業魂が大勢いる。何とかして止めなければ、とんでもない被害を出すことになるだろう。
 千雨は根負けしたように、深く息を吐く。
「…仕方ありませんね。人型業魔の少女の似顔絵がありますので、まずは私の方で探してみます。しかし相手は人型業魔ですからね。何が起こるか分かりませんし、今はとにかく魂命石を取り戻すことにしましょう」


●入江地区の廃墟ホテル 最上階の部屋
「うふふっ、やっぱり魂命石って綺麗ね。下手な宝石よりも綺麗。だって生きているんだもの」
 少女は満足そうに、黒い宝箱に入れた魂命石を眺めている。少女がいる部屋は元はスイートルームだが、今は彼女好みの黒いゴシックな部屋になっていた。
「マモン、楽しそうなのは良いけど、流石にいきなりタイガの連中を狙ったのはどうかと思うよ」
 かつて人型業魔を生み出す儀式を行おうとした人型業魔の青年が、少女の背後から声をかける。青年は今は仮面をかぶっておらず、素顔を見せていた。
「あら、ルシファーだってタイガにちょっかい出しているじゃなーい。お互い様よぉ」
「ボクはソレが仕事なんだってば。キミは趣味で襲っているんだろう? 同じだと思わないでほしいな」
 ルシファーと呼ばれた青年は心外だというように、肩を竦める。
 白々しい態度に、マモンと呼ばれた少女は眼をつり上げた。
「ふんっ。どっちにしろタイガを無力化したいのならば、こうした方がお互い良いじゃない。アタシは魂命石を奪うけれど、壊しはしないしぃ。業魂を奪われた宵闇の者はすぐに死ぬわけじゃないんだし、もし死にそうなら他の余っている業魂と魂約や結魂でもすれば良いだけなんだから」
「でも宵闇の者と業魂に危機があれば、タイガは必ず動くよ」
「あら、ヤダ。せっかく奪ったのにぃ。それにまだまだ欲しいのよ、足りないのよ」
 少女は貪欲・強欲で有名な堕天使マモンの名にふさわしく、財宝をこよなく愛している。だから欲しがる。この世に稀に存在する魂命石を。
「魂命石は業命石よりもよっぽど綺麗なんだもん。う~ん…。もっとイロイロ欲しいわぁ」
 マモンは窓の外に視線を向ける。
 その様子を見て、ルシファーはため息をついた。
「狩りに行くなら、せめて業魔を数匹連れて行きなよ」
「ああ、そうね。邪魔をされては何だし、足止めぐらいの役には立つでしょう」
 マモンが部屋の隅の暗闇に視線を向けると、ムカデ型業魔とサソリ型業魔、ハゲタカ型業魔がゾロゾロと出て来る。
「さあ、行きましょうか。業魂狩りに」
 マモンは楽しそうに傘を開いた。


<解説>
 タイガではシリアス戦闘ストーリーを、シリーズ化するつもりでした。
 上記のOPにも出てきましたが、幹部は七人いまして、いずれも悪魔の名前が付けられています。
 七つの大罪にちなんだストーリーを展開しようとしましたが……まあまあ。
 でも悪役キャラって、考えるのが楽しいんですよね。個性的なキャラを書くのはとても面白いです。
 このストーリーでは参加者に業魔達を倒してもらい、マモンを追い詰めてほしかったです。
 そしてマモンの危機一髪のところへルシファーが現れ、奪った魂命石と引き換えに…というストーリーにするつもりでした。
 ちなみにここではルシファーにもマモンには逃げられます。とりあえず、魂命石を取り戻すことが最優先でしたので。
 シリアス戦闘シーンは書きごたえがありますからね~。書くのを楽しみにしていましたが……。