会として活動を始め利用方法を討議していくなかで、堀家の建物としての現状はどうなのか知りたいという要望があり、建築家グループに協力をお願いして現況調査をしてもらおうということになりました。
2003年5月6日、「森と住まい手と建築技術者の会」(http://ww71.tiki.ne.jp/~morinokai/)のメンバー4名が参加して現況調査が行われました。
5月25日にいただいた調査結果の報告(一部省略)を以下に掲載します。
「堀家住宅の現況調査の報告」
はじめに
2003年5月6日、総社市の堀家住宅の調査を行った。調査の目的は、堀家の保存状態を知るためであり、調査の性格は概略的な調査というべきものである。
調査の概要
1.調査は時間的制約があり、主屋のみについておこなった。実施した調査目的は次のとうりである。
(1)主屋平面図の作成
(2)建物傾斜程度の測定
(3)建物不同沈下の測定
(4)シロアリ等害虫による被害状況の把握
2.調査結果
(1)主屋平面図
略
(2)建物の傾斜程度
下図に示すとうりである。
数値は柱1mあたりの傾きの量を示している。図の数値を見ると傾斜が極めて大きい数値を示している。
(3)建物の不同沈下
下図に示すとうりである。
図の数値を見ると、場所により沈下量が異なり、かなりの不同沈下をおこしている。
(4)害虫その他による被害
建物西側の畳床部分の一部につき、畳および下地板を取り、床下の状況を調べた。畳の下地板は新しく直されていた。床下の部材は古いがしっかりしたものが残っているとの印象である。畳が新しいことから考えて、畳を新しくしたとき床下の点検修理が施されたと思われる。ただし、床下をのぞいた感触では床下の湿度は高いとみられ、床下通気が十分でないと思われる。
建物東側の部分の床下は調査出来なかったが、特に道路より奥まった部分は1階床が老朽化しており、害虫、腐朽による被害が予想される。また1階柱、桁につきシロアリの被害が見られた。
(5)耐震性能
ここでは一応の耐震性能の目安を得る目的で建築基準法の壁量計算を行い耐震チェックを行う。
その際こまい土壁については基準法壁倍率0.5とされているが、最近の研究により両面壁塗りされたものは1.5とすることが可能と思われるので、ここではこまい土壁の壁倍率1.5として計算する。
計算の結果、こまい土壁が期待される耐震性能を発揮するとした場合、奥行き方向(南北方向)はほぼ必要壁量を満足しているが、間口側(東西方向)は必要壁量の30%あまりしか確保出来ていないのが実情である。
さらに現況建物は屋根が本瓦土葺きであること、外壁が大壁土塗りであること、軒も土で塗られていることなど、基準法の壁量計算が想定する重量より重いと考えられ、その場合地震の際は計算結果より不利側に働くことになる。
近年の鳥取西部地震、広島の地震の際、瓦が落ちるなどの被害がなかったと思われる点は安心材料と言えるかもしれないが、現行法規の求める耐震性能からみれば、間口側が決定的に不足しているのが実情である。
(6)その他
道路に面する2階軒先がかなり垂れ下がっている点は注意が必要である。大地震時には瓦の落下の危険性がないとは言えない。
診断
1.行政による調査実施の必要性
保存状態についてのより正確な情報を得るため、所有者である総社市による調査を求めたい。
調査項目として予想されるもの
(1)建物現況基礎資料の作成
(2)構造体の保存状況の調査
・シロアリ、腐朽菌等被害状況
・柱、梁接合部の傷みの状況
・こまい土壁の保存状況
・その他
2.今回調査にもとずく診断
主屋部分は構造の上からみると道路に面する東西棟(A棟とする)、A棟の西奥の南北棟(B棟とする)、A棟の東奥の南北棟(C棟とする)の三つの部分に分けることが出来る。
(1)再利用の可能性
今回調査の段階での判断としては、A棟、B棟は再利用可能と思われる。C棟は相対的に老朽化が大きく進んでいるが、再利用可能と思う。ただしシロアリの被害状況、梁柱の接合部の痛み状況等のより詳細な調査結果に基づいて最終判断してほしい。
(2)修復の程度
再利用するとすれば、どの程度の修復になるだろうか。
堀家の現状からみると、仕上げを変えたり、建具を変えたり、痛んだ部分を一部修理したりするという軽微なものではなく「構造的な修復にまで及ばざるを得ない」と思われる。
(3)予想される構造的修復工事の内容
・屋根は葺き替えることを前提に、屋根瓦を降ろし葺き土を撤去する。
・屋根を降ろしこまい土壁を残した状態で構造体の傾きや不同沈下を出来るだけ修正する。
・必要な耐震補強を施す。
・屋根は下地、垂木が傷んでいる場合はやりかえ、瓦は耐震工法のものとする。
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(*)この調査報告は、「堀家住宅の利用を考える会」から総社市に提出されています。
(記 吉井)