何かが、違う。
「また別れたんだって?」
学校が終わっていつものように一緒に駅まで歩いて帰る道のり。
そう言ってクスリとあなたは笑った。
「またって」
その言葉に苦笑いしながら返す。
「だって一体何人目?」
そう言いながらクスクス笑う。
その顔は責めている風でもなく
ただ単純に不思議で仕方がないって顔。
「何か違くってさ~」
告白されて、合いそうなら取りあえず付き合ってみる。
で、合わなければ別れる。
ただそれだけなんだけど、この人にとっては
とても不思議にうつるらしい。
「またそれ言ってるし」
そう言ってまたクスリと笑った。
「そういう自分はどうなのよ?」
高校から一緒になったその人はとても綺麗な顔立ちで、男女問わず←
モテモテでよく告白されていた。
「え、俺ぇ?」
なぜか意外って表情をしながら聞き返す。
「こないだも女の子に告白されてたって聞いたよ」
そう言う噂を聞いたのは一度や二度ではない。
けど、智は誰とも付き合う様子はなかった。
「……何か、分かんないだよねぇ」
少し考えるような表情をするとそう言った。
「ふふっ、またそれ言ってる」
そう言いながらもその言葉になぜか安心し嬉しくなる。
「まあ、俺の事はいいから。で、それで何が違うの?」
智は不思議そうに聞く。
何って。
智だったらこんな事言わないだろう。
智だったらこんな事しないだろう。
智だったら。
智だったら。
……。
「何かが、違うんだよ」
それを言葉にする事なんてできなくて曖昧に答えた。
「ふぅん」
その言葉に納得したような納得してないような表情を浮かべる。
「それにしても最近回転早くね?」
「そう?」
「そうだよ、今回なんて何日間ですかって感じジャン」
「……付き合ってみないと分かんないとこがあるから仕方ねぇんだよ。
それにこっちから別れを切り出してばかりいる訳でもないしさ」
「え、そうなの?」
智は意外って顔をする。
「うん、何で自分と一緒に帰ってくれないんだとか、何とか言われてさ」
簡単に説明した。
あの日。
高校の入学式で
初めて智に会った。
智は美しくて儚くてかなり人目を惹く存在だった。
同じクラスと知った時の嬉しさはとても言葉にできない。
仲良くなりたくて話しかけまくってようやくここまでこれた。
智は自然と人を寄せ付ける力を持っていて
同じように考えている奴らがたくさんいたから最初の頃は
話しかけるのも結構至難の業だった。
そして智は見かけの美しさとは違って
温和でかなりボーっとした性格だった。
“俺がこの人を守っていかなくては”
ようやく仲良くなるとすぐそう決意した。
それからずっと帰りは一緒に帰っている。
時にはどちらかの家によって宿題をして帰ったりもする。
その関係が心地よくて崩したくはなかった。
「智と一緒に帰るのが習慣になっているからって言っても
友達と自分とどっちが大事なんだって言ってさ」
「……別に俺は一人で帰ってもいいんだけど」
智は遠慮がちにそう言う。
「俺がヤなの」
これだけは絶対譲れない。
「それより、今日は俺んちで宿題やってくっしょ?」
「うん、翔の教え方上手だもん」
無邪気に笑うその顔は幼くてとても可愛らしい顔をしている。
“かわいい”
こんな可愛らしい顔でそんな事を言ったりりするから
とてもこの習慣を変える事なんでできない。
なぜか智なら何しても笑って許せる。
智がやると何でもかわいく思える。
智のためだったら何でもしてあげたくなる。
なんだろ?
自分でもよくわからない。
家に一緒に帰り部屋で宿題をする。
テーブルに座りこっそりその顔を見つめる。
うーんと口を尖らせ考えているその姿が可愛らしい。
「どこが分かんないの?」
自分でも甘いなと思いつつ智が困っているとすぐに口が出てしまう。
そして智が分からないという問題を説明する。
智はなるほどなるほど、と言いながら笑顔を見せる。
そして翔は学校の先生になるといいよ、教え方上手だもん
といってまたまた無邪気に笑う。
“可愛いすぎる”
「……ね、智は誰かと付き合わないの?」
「また、その話? だから、よくわかんねぇんだってば」
智は少し困ったようにそう答える。
「……じゃさ、 俺と付き合ってみるっていうのは?」
「……は? とうとう男にまで見境なくなったの?」
最初はびっくりした顔をしていたが、すぐに呆れた顔になる。
「違う違う 智だから、だよ」
「……?」
直ぐに否定するが智は不思議そうな顔をする。
「ずっと考えてたんだ。
何でこんな長続きしないんだろって」
「……うん」
智はまっすぐな目でこちらを見る。
「中学まではそれなりに普通に女の子と長く付き合えてた。
でも高校になってから長く付き合えなくなった。
何でかわかんないけど他の子と付き合いながらも智を探してた」
「……」
「で、何か違うって思って、ダメだった。
……ね、智は俺の事 嫌い?」
「……嫌いなはず ねぇじゃん」
戸惑いながらも素直に答える智が愛おしい。
「……ね、キスさせて」
いつもほかの女の子とキスするときも智の事考えてた。
智とだったらどんなだろ。どんな感触なんだろって。
「ね、俺の事好き?」
「……好き、だけど」
「だったら、ね」
そう言ってテーブルにある手をギュッと掴むと
顔を唇と唇が触れ合う寸前まで近づける。
智は避けようとはしない。
そのまま唇をその唇に押し当てると、ちゅっと触れるだけのキスをした。
顔をゆっくりと離し智の顔を見ると真っ赤になっている。
そしてそのままお互い見つめあう。
「……信じらんね」
智が小さく呟く。
「も、一回」
そう言ってまた顔を近づけるとチュッとキスをする。
そのまま角度を変え何度か触れるだけのキスを繰り返す。
「……一回じゃねえし」
顔を離すと智が小さく呟く。
「嫌だった?」
「……嫌じゃない けど」
「ね、俺と付き合って」
「……」
智は戸惑った表情を浮かべている。
「キス 嫌だった?」
「嫌じゃ なかった けど」
「も一度、キスしてい?」
声が掠れている。
ゆっくりとその身体を押し倒し
上からその綺麗な顔を眺める。
智は真っ赤な顔をしながらも拒絶する感じはない。
そのまま唇を近づけていってちゅっと角度を変えながら
触れるだけのキスを繰り返す。
そしてゆっくりと緩く智の唇が開かれ
腕が背中に回ってきた。
そのまま舌を差し入れると深いキスをした。