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きらり

山 短編11 ショウサイドストーリー5 完

2015-10-06 18:27:23 | 短編




視線は間違いなく重なっている。


その人の視線を感じながら


『好きだ』 と


そう、つぶやいたら


その人の表情が一瞬、変わった気がした。








いつもクールに向けられる視線。


視線が重なっても


手を振っても


それは変わらなかったはずなのに


今は、どこかちょっと違う。


ちょっとびっくりしたような


ちょっと慌てているような


そんな表情で、なんで?って顔をして見つめてくる。







その視線を、そのままそらす事なく見つめた。


そしてその次の日も、そのまた次の日も


毎日、視線が重なるとその人に向け


その人の視線を感じながら






『好きだ』 と







つぶやいた。















普通の学校生活。


普通に毎日高校に通って
普通に勉強して
普通に友達がいて
普通に彼女がいる。


そんな普通の毎日。


高校に入学してから。


そして高校を卒業するまで。


いや、大学でも。


彼女や友達の顔ぶれは変わったとしても


それは、ずっと変わらないと思っていた。





でも、その人に会って





変わった。












坂を登っていく。


あともう少し。


そう思いながら、視線をあげる。


その人と目が合った。


視線は重なっている。


視線が重なったまま、その人に向けて


『好きだ』 とつぶやく。


「……」


「……」


そのまま見つめていたら、その人の姿がぱっと消えた。


「……?」


どうしたんだろう?


そう思った瞬間。


昇降口からその人がこちらに向かって走ってくる姿が見えた。


そして目の前までくると真正面に立った。









「……」

「……」

「……なんて」

「……」

「何て言ったの?」


慌てて走ってきたのだろう。
その人は顔を真っ赤にして
はぁはぁと息を弾ませながらそう言った。









いつもその人の顔を見るとドキドキしていた。
その人と視線が合うと胸が高鳴り苦しいくらいだった。


そして初めて話せた時はドキドキして嬉しくて
自分自身どうにかなってしまいそうだった。


そしてドキドキしながらその人に向けて、手を振った。


でも今は。


自分でもびっくりするくらい
心が穏やかで、落ち着いている。


何て言ったの? とのその人の言葉に


「オオノ サトシが好きだ」 


そう、その人の目を見つめながら答える。


「……うそだ」

「うそ」

「……」

「……好きだってだけ」


よほど急いで走ってきたのだろう。
まだ、その人ははぁはぁと息を切らしながら
大きく目見開いた。


「……なんで?」

「なんでって好きに理由なんてないでしょ」

「なんで?」

「やっぱ伝えたいなって思っただけ」

「なんで?」

「なんでしか言わねえし」

「……」


その人がびっくりした表情を浮かべながら、なんで? なんで?
と聞いてくる。
その可愛らしい姿に思わず笑みが浮かんだ。


「返事は? OK?」

「……」


そういうと、その人がこくりと頷いた。


そう。


あの自分にまっすぐ向けられる視線。









もしかして





もしかしたらって思ってた。






「だと思った。
じゃ明日から8時10分北口な」
















電車を降りる。
時計を見ると8時5分だ。
約束の時間まであと5分。


他の生徒たちが次々に改札口に向かって歩いていく。


本当に来るだろうか?


そんなことを思いながらゆっくり改札口に向かう。


いた!


北口を出たすぐのところにその人が背を向け立っていた。


ゆっくり近づいていく。


もう、ほかの生徒たちは学校に向かって歩いていて


人影はまばらだ。


優しくポンと肩をたたくとびくっと肩を震わせた。


そんなに驚くことかな?


「待った?」


そう話しかけるとその人は、ううんと首を振った。


「じゃ、いこっか」


そう言ってあまり人もいなくなった


坂道を二人、肩を並べ歩き出した。






……って。
今になってドキドキしてきた。
多分顔は真っ赤になっている。


なんで今まで全然平気だったのが自分でも信じられないくらい
ドキドキが止まらない。
緊張して声を出そうにも震えてとてもじゃないけど
話出せそうもない。


その人が何かを察したのか不思議そうにこちらを見る。


慌ててなんでもない、なんでもないとごまかした。


それにしても、なんだ? このとんでもなく緊張するシチュエーション。


自分で言った事とはいえ
それに今までの彼女とは普通に何でもないことのようにしてきた事とはいえ
なぜか無性に緊張してきてドキドキが止まらない。


何を話していいかも
どんな顔で話かけたらいいのかももはやわからない。


緊張して、ドキドキが止まらない。


その緊張感が伝わってしまったのか
それとも何も話してこないのを不審に思ったのか
智くんが恐る恐る話しかけてきた。


「……あの、さ」

「あ、はい、何でしょうか?」


緊張して思わず変な敬語になってしまった。
それが妙におかしかったのか智くんが可愛らしい顔で
クスクス笑っている。


あ~かわいい。


それを見て、一瞬緊張の糸がほぐれたような気がした。


そう言えば今までクールな顔と
びっくりした顔しか見てなかった。










坂を一歩一歩緊張しながら登っていく。
隣を見るとその人がいる。


ずっと見上げたその先にあった綺麗な顔が
今はすぐ横にあって、一緒に並んで坂を登っている。
それを思い出すだけでまた緊張してきた。


智くんがどうしたの?って顔で見つめて
そして目が合うとくすっと笑う。


あ~やっぱりカワイイ。


そして、もうすぐいつもの場所。
急な上り坂がだんだん穏やかになって
目の前には校舎と校門が見えてくる。


いつもの癖で上を見上げた。


そこにはあたりまえだけど、誰もいなくて……


誰もいなくて…


イター!


いるしー!


なぜあいつがー!


そこにはいつも智くんと一緒にいた智くんと同じくらいの背格好の男。
そいつがきっと睨みつけていて目があった瞬間
背筋が凍りついた。


何も知らない智くんは
どうしたのって顔でこれまた愛くるしい顔で見つめてくる。


慌ててなんでもない、なんでもないと首を振ると
変なのと言って、んふふって可愛らしく笑った。


もぅ可愛すぎるから。












そんな風に始まった朝の二人の登校は
徐々にお互いに慣れてきて
少しずつ話もできるようになってきた。


お互い自分の事を話したり、連絡先を交換したり。
帰りに一緒に帰れるときは一緒に帰ったり。








そして








この日は委員会の仕事があり教室で待っててもらっていた。
なんとかそれを頑張って終わらせ智くんが待っている教室へと急ぐ。


もう下校時間はとっくに過ぎている。
学校内はシーンと静まり返っていた。
遠く校庭のほうからは野球部だろうか。
下校時間を特別に免除されている野球部の
カキーンとボールの打ち返す音だけが聞こえてくる。


それを聞きながら智くんの待つ教室に行くと
智くんはやっぱり窓から外を見ていた。
その姿に静かに近づいていく。



綺麗だな。


その夕焼けに染まった窓からは
いつも登ってきている坂といつも使っている駅。
そして線路、それに並行して走る国道。
その奥には海岸。
その向こうには果てしなく続く海が見えている。


そして横を向くと夕焼けに染まった智くんの横顔が見えて
とても綺麗だった。


それをぼーっと見つめていたら智くんが気づいたみたいで


「終わったんだ?」


と、言ってにこって笑った。









「ここから見える景色、綺麗だね?」

「うん」

「俺たちのほうは反対向きだから山と校庭だよ。
もう、雲泥の差ひでえよな」

「そっか。文系選んでよかったぁ」


そう文句を言うと、智くんはクスクスと可愛らしく笑う。


教室には夕焼けが差し込んでいて
机や椅子。
そして智くんの綺麗な顔を
赤く染めている。


遠くから野球部の練習している声が聞こえていて
建物内はシーンと静まり返っている。


「綺麗だね」

「……うん?」


そう言うと景色の事だと思ったのか
不思議そうな顔をしたままうんと答える。


「智くんが」

「俺が?」


なので智の事だよって言うと
ますます不思議そうな顔をした。


「そう」

「翔くんがでしょ?」

「……は?」

「その髪の色も翔くんに似合ってるし
ピアスもネックレスも似合ってて綺麗」

「あ、ありがと」


まさかそんなこと思っているとも思わなかったし
言われるとは思ってはいなかったので
しどろもどろに答える。


「ずっと綺麗だなって思って見てたんだもん」

「俺を?」

「うん」


なんだか恥ずかしくなってきて
自分でも顔が真っ赤になっているのが分かった。


それを見たのか智くんが、んふふとおかしそうに笑った。

















そう。


ずっと窓からその人の事を見ていた。


薄く染められた茶色い髪。
無造作に開けられたワイシャツからは
きらきらと光ったネックレスが顔をのぞかせている。


左耳に見えるピアス。
その端正で綺麗な顔。


何だか無性にまぶしくて
恥ずかしくて目が合うと思わず俯いた。


翔くんの手が自分に向かってゆっくりと伸びてくる。


そして両手が優しく頬に触れる。
その人をゆっくり見上げると優しくて綺麗なその顔で
じっと見つめてくる。


視線が重なった。


その綺麗な顔が角度をつけ
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。


胸がドキドキしている。





そして






その人の唇と自分の唇が



ゆっくりと重なった。





そう言えば前に夢でそんな夢を見たことがあった。




でも。





その頬に触れられる手の感触。
その重ねられた唇の感触。


夢じゃない。


ゆっくり唇が離されるとその人が見つめる。


思わず恥ずかしくなって俯いた。


その人が照れくさそうに笑ったような気がした。





そしてもう一度視線が重なると



ゆっくりその綺麗な顔を近づけてきて






ちゅっと唇にキスをした。














これで、おしまいです。


ありがとうございました!