1月30日、坂庭国晴さん(建設政策研究所副理事長・元住都公団労働組合委員長)をお招きして、独立行政法人都市再生機構=URで長く勤められた経験から「光が丘の今までとこれから」についての勉強会を開催した。
坂庭さんは中央大学理工学部卒業後、日本住宅公団に入社。労働組合委員長など歴任したのち、多摩ニュータウン 新都市センター開発(株)の参与で2006年に退職された。現在は、NPO住まいの改善センター理事長、住まい連代表幹事、住宅会議理事など勤められている。
坂庭さんからのレポートを簡単に報告する。
【住宅公団からみた光が丘開発の特長】
坂庭さんはまず、住宅公団の同僚でもあり、光が丘パークタウンの設計・開発に現地で直接携わった井上十三男さん(当時、住宅公団東京支社グラント・ハイツ特別開発事務所)の文章を紹介し、光が丘の特長として以下の点をあげた。
◎住宅公団(当時)がこれまで経験したことのない「大規模高層高密度開発」であったこと。 それまでは郊外での低層低密度開発が主であったが、70年代にようやく都市中心部の工場や事業所跡地の「面開発」を経験、光が丘はそれらの経験をも大きく乗り越えるものだった。 開発密度は516人/1ヘクタールの高密度開発(一般的な団地は2~300人/1ヘクタール)。
◎フルファミリーズの住宅計画(すべてが「世帯用住宅」で小世帯から大世帯入居を想定、計画戸数12000戸、計画人口42000人)だったこと。反面、単身者は入居しずらい。
◎意識的なオープンスペース、光が丘公園(広域都市計画公園)を配置したこと。
◎(学校統廃合や跡施設利用に関わるが)わが国初の本格的な学校群配置だったこと。 高層高密度住宅地の学校計画のあり方について、「日本建築学会・学校教育委員会」という、いわば学校づくりのプロに委託して計画化。中学校区を住区単位として考え、1中学校2小学校を1単位とした。
今回の学校統廃合は、行政側からの、この理念の解体を意味する。
その他にも当日配布していただいた資料では以下の特長があげられている。
◎通り抜けを前提としないループ(環状)型の道路。
◎光が丘公園を半分ずつ南北にわけて配置し、これを幅員30mの歩行者通路で結ぶ案と、まとめてまん中に配置する「ダイヤモンド案」から、南北のうち北側に60.7ヘクタールの光が丘公園を配置計画に転換。
◎住宅地内公園・緑地に光が丘公園を含め約80ヘクタール、全体の44%にわたる「地域を結ぶ公園と緑のネットワーク」づくり。
◎高層高密度住宅地の医療システムのあり方についても「日本病院建築学会」に委託し計画をまとめた。
◎「健康で文化的な都市」を目指す地域の拠点とするため、商業・業務・医療・文化・スポーツ・公共公益施設のセンター地区を整備。(1210台の駐車場、15万㎡。商圏5キロ、36万世帯、93万人の利用を想定)
◎清掃工場の廃熱を利用した地域冷暖房・給湯システム。
◎光ファイバーによる有線情報システムとCIS(180台のエレベーターを15台のTVモニターで24時間監視など)の導入。
◎工事の残土対策を兼ねた地形に変化をもたせた造成計画、3階建てから30階建てまでのメリハリある住宅群、5つに分けたブロックごとの色彩計画、統一化されたサイン計画、無電柱化、季節感ただよう造園計画など、統一したアーバンデザインと「公園都市化」など。
結果として練馬区内のUR賃貸の過半数が光が丘団地となった。
【ストック活用団地=光が丘の高額家賃の秘密】
次に、再三問題になっている、光が丘の高額家賃の話に移った。
2007年12月、URは「賃貸住宅ストック再生・再編方針」を決めた。
「郊外に大量供給された住宅が老朽化・陳腐化、人口・世帯数の減少で需要低下、入居者が高齢化し過半が低所得者となっていることを理由に、77万戸の賃貸住宅のうち、10年後に約10万戸を再編、約5万戸を削減、さらに将来は3割を削減する」というもの。
ストックというのは「在庫」を意味し、物的な面しか表現していない。居住者の生活が読みとれない。「既存住宅」という方が本来は正確。URの姿勢が伺える。
そのうち「再生」というは、団地のごく一部の建て替えと、基本は団地住棟の除去(更地に)。そして公共住宅以外への転用。
「活用」というのは既存の住宅を立て替えずにできるだけ修繕して長持ちさせるという方向性。築後70年はもたせようという方向。光が丘のUR賃貸はすべて「ストック活用団地」となっている。
開発後35年くらいで建て替えの検討が始まるが、少子高齢化で全国的に現在以上の住宅需要はない、というURの姿勢があり、基本的には都心部以外の賃貸住宅の建て替えはしない。
光が丘の場合、駅周辺の民間資本導入による再開発・超高層化・高家賃化の可能性を除けば賃貸の建て替えはないだろう。
◎いちょう通り八番街、四季の香弐番街、プロムナード十番街、大通り中央、ゆりの木通り33番街は「グレードアップ対象団地」・・・「改良的投資により事業価値の向上が見込まれる団地」(家賃水準が首都圏民間賃貸住宅家賃水準以上・2000円/㎡
◎公園南、ゆりの木北、大通り南は「収益改善投資団地」・・・上記団地に続いて「改良的投資を実施すべき団地」、となっている。
こうした経過をもちながら光が丘のUR賃貸全体が「ストック活用団地」とされた。つまり、建て替えを前提にせず、あと50年近くは、できるだけ改良しながら市場家賃より高く設定し収益をあげ続ける団地、というのが光が丘のUR賃貸の位置付け。それが光が丘の高家賃の秘密。
詳細な光が丘の各ブロックごとの平均家賃/㎡単価も紹介されたが、例えば周辺団地では、パークサイド石神井(1994年建て替えの団地)や高島平団地は約1800円/㎡であり、そもそも光が丘の㎡単価が高いことがわかった。
【居住者に負担を強いるUR=都市再生機構の民営化】
現在問題になっているUR=都市再生機構の民営化については以下のような報告があった。
6~70年代の郊外型団地の建て替えを80年代に迎え、住宅建設と管理戸数は大幅に減少、低家賃住宅(平均家賃44000円)が6割以上減少し、10万円以上の高家賃住宅への転換が進んだ。
1981年に住宅公団は、住宅・都市整備公団に移行した。
1999年には都市基盤整備公団に、2004年には都市再生機構となり、建て替えを除き名実ともに新規住宅建設から撤退した。
さらに新規住宅建設・ニュータウン開発にあたってきた都市整備部門と賃貸部門を分社化し、賃貸部門を民営化という流れにされている。
都市整備部門の経営は地価の上昇を前提としてきたので今までも自立できず、赤字になる構造だった。膨大な借金があり、これを解決しないと民営化できない。
一方でのUR民営化の議論は、老朽化している賃貸住宅のために収益率が低く、主に都市部の一等地にある高額賃貸物件からの収益で古い物件の損出を補っている構造が問題にされ、「賃貸事業は民間でも手掛けられる」と主張であった。
しかし、UR賃貸住宅経営の収入(約6373億円/2009年度)はUR全体の総収入(約1兆円/同年度)の6割以上を占める経営の柱。このうち家賃収入は約9割(UR全体の6割弱)を占め、家賃が経営を支えている。ところが家賃収入の1/3は宅地造成など「都市整備部門」の債務(利息支払)にまわされ、賃貸住宅の修繕費や家賃の抑制に向かわない。。
URの経営は賃貸の家賃収入でもっているのに、この事実はあまり明るみに出ないで今日まできた。
賃貸部門は、法人内分社化など新しい公的機関化(今年6月といわれている)ののち、政府100%出資の特殊会社化、その後に完全民営化とされている。
一方、昨年10月国土交通省の有識者会議はUR=都市再生機構の完全民営化は、国が膨大な債務を肩代わりすることになりかねないとして、実現は難しいという見解を示した。馬淵国交相(当時)も「民間会社化することは現実性に乏しい」としている。
にも関わらず、今年4月に家賃改定をしようとしている。民営化のための地均し=都市再生部門の赤字補填を居住者に負担させるための家賃値上げである、と結んだ。
最後に光が丘に引きつけたまとめとして
1、特に光が丘の住民は家賃の値下げを求めるべき。
2、居住者負担の民営化には自治会などのレベルではっきり反対すべき。
3、地区計画は、光が丘のまちづくりの基本の転換を可能にするもの。光が丘のUR賃貸は建て替えを前提とせずに改修をしながら、あと50年近くは「活用」する方向だが、URは将来の需要はないので基本的に新しい賃貸住宅はつくらない、建て替えない、という方向。
分譲の建て替えをどうするか、として地区計画に移行したのが多摩の諏訪2丁目住宅だが団地の規模も性格も違う(諏訪2丁目住宅は5階建て分譲23棟、640戸)。分譲と賃貸、UR・都・公社、低層棟と超高層棟が併存する光が丘では、除去・更地化・転用の地域も考えられる。
「一団地」のままでも建物の除去はできるが、他用途転用はできない。地区計画になれば、自治体とURの意向でどうにでも転用されてしまう。公共賃貸住宅を守る意味でも拙速な地区計画は反対すべき。 と三点をあげた。
-----------以下はQ&Aの主なもの
Q 賃貸の空き家がたくさんあるが家賃を下げる方向はないのか
A 家賃を下げるのは、住棟で空き家が2割以上出た場合とされている。実際には3割。光が丘の現状から見ればそこまではいっていないだろう。
Q 地区計画に移行する理由として、練馬区は住棟の空き室などの用途転換をあげている。賃貸棟の場合、URと練馬区の意向だけで用途転換されてしまうのか。
A 賃貸の場合、内部手続きだけで可能ではある。が、住民にとって必要な用途転換や改築など「きわめて重大な事情」でなければおかしい。
Q 「期限付賃貸契約」での入居者が増えていて自治会の組織化の障壁になっているが、なぜこういう制度が同じ賃貸棟の中に導入されているのか。
A 定期借家制度というものを国が定めた。民間住宅の需要を作るためというが、民間ですすまないのでURにやらせている。
居住の不安定性を増長する制度であり、反対することが必要。
Q 「一団地の住宅施設」の都市計画を廃止して、地区計画へ、というのは住宅公団などからの働きかけもあったのではないか。
A そのとおりだと思う。住宅公団は地方自治体と強い関係をもってきた。将来的に更地にした団地を他用途転用するためには地区計画に移行する必要がある。地方分権の流れもあり、その点では地方自治体と一致している。
UR自体、団地の「再生」について「民間事業者や地方公共団体の皆様との適切な役割分担のもと、パートナーとして事業に参画することで、都市の再生、地域の活性化や防災性の向上等を推進していきます」としている。
Q 低層棟になぜエレベーターを当初から設置しなかったのか。エレベーターの増設は難しいのか。
A 光が丘設計開発時にはまだバリアフリー、少子高齢化の概念がなかった。技術者として反省しなければいけない点だ。
エレベーター設置が難しいのは低層棟は横の廊下で各階がつながっていない場合が多いから。南側(ベランダ側)に外廊下を増設してエレベーターを設置する例もあるが、日本では共用となる廊下から各部屋が見えることはプライバシーの問題もあり進んでいない。
Q これまでに「ストック再生・再編方針」で実際に更地になり、転用された例は
A 高額負担の介護付き老人ホームへの転用例などがある。
今までは郊外の団地だったが、都市部の例も出てきている。
日野市の高幡台団地は、旧耐震基準の古い団地だが費用がかかりすぎるという理由で改修も建て替えも断念し、「除去」の方針の下新規入居をストップしてきた。250戸中、残る9戸に対し、URが明渡し訴訟を起こしている。
足立区の花畑団地は2725戸のうち1000戸以上が空き家にされている。1157戸を壊し、団地中央に高家賃の高層住宅140戸を建てて、商業施設を誘致し、団地西側は更地化する。団地を除却・更地化したあとどうするのかは決まっていない。
【UR賃貸の建て替えがないのなら都市計画変更を急ぐ理由はない】
国鉄、電電、郵政、道路公団ときて、旧住宅公団=URの民営化が最後の課題とされている。
しかし、他の民営化と違うのは、不採算部門の負債が、UR賃貸居住者の負担に転嫁されようとしていることだ。
また、都営住宅やコーシャハイムも同様だが、「再生」の美名のもとに公共賃貸住宅の将来は極めて不安定不透明であることもよくわかった。
利用のメドがない遊休地を他用途利用するならまだしも、日々生活している賃貸住宅とその用地を住宅以外の用途に転換しようとする流れは許されるものではない。
練馬区の説明してきた「将来の建て替え時」は、50年近くも先になると考えられ、「建て替え」そのものが賃貸住宅の場合、今のままではほぼないだろう、という報告には目が覚まされた思いがする。この先半年~一年程度で急いで“粗雑な”地区計画にしなければならない理由はまったくない。
都営住宅も新規建設はなく、入居基準収入額の引下げなどで入居枠を抑制している現状からみれば、都営・公社も将来の建て替えもUR賃貸同様楽観はできないと思われる。坂庭さんが指摘されたように「一団地」の都市計画がある限り、建物の除去はできても他用途転換はできない。
逆に、地区計画になれば、50年後には光が丘の公共賃貸住宅は他用途転用され残らないだろう。 光が丘13261戸のうち、UR賃貸は5409戸で約40%、都営・公社を含めれば9139戸68%と賃貸住戸の比率は圧倒的で、利害関係者である賃貸居住者は光が丘団地住民の過半数を超える。
公立小学校を廃校にし、営利のインターナショナルスクールを誘致する練馬区の行政感覚からスタートした地区計画には、とても光が丘の未来を託す訳にはいかないと改めて確信した。
リンク 独立行政法人 UR=都市再生機構
坂庭さんは中央大学理工学部卒業後、日本住宅公団に入社。労働組合委員長など歴任したのち、多摩ニュータウン 新都市センター開発(株)の参与で2006年に退職された。現在は、NPO住まいの改善センター理事長、住まい連代表幹事、住宅会議理事など勤められている。
坂庭さんからのレポートを簡単に報告する。
【住宅公団からみた光が丘開発の特長】
坂庭さんはまず、住宅公団の同僚でもあり、光が丘パークタウンの設計・開発に現地で直接携わった井上十三男さん(当時、住宅公団東京支社グラント・ハイツ特別開発事務所)の文章を紹介し、光が丘の特長として以下の点をあげた。
◎住宅公団(当時)がこれまで経験したことのない「大規模高層高密度開発」であったこと。 それまでは郊外での低層低密度開発が主であったが、70年代にようやく都市中心部の工場や事業所跡地の「面開発」を経験、光が丘はそれらの経験をも大きく乗り越えるものだった。 開発密度は516人/1ヘクタールの高密度開発(一般的な団地は2~300人/1ヘクタール)。
◎フルファミリーズの住宅計画(すべてが「世帯用住宅」で小世帯から大世帯入居を想定、計画戸数12000戸、計画人口42000人)だったこと。反面、単身者は入居しずらい。
◎意識的なオープンスペース、光が丘公園(広域都市計画公園)を配置したこと。
◎(学校統廃合や跡施設利用に関わるが)わが国初の本格的な学校群配置だったこと。 高層高密度住宅地の学校計画のあり方について、「日本建築学会・学校教育委員会」という、いわば学校づくりのプロに委託して計画化。中学校区を住区単位として考え、1中学校2小学校を1単位とした。
今回の学校統廃合は、行政側からの、この理念の解体を意味する。
その他にも当日配布していただいた資料では以下の特長があげられている。
◎通り抜けを前提としないループ(環状)型の道路。
◎光が丘公園を半分ずつ南北にわけて配置し、これを幅員30mの歩行者通路で結ぶ案と、まとめてまん中に配置する「ダイヤモンド案」から、南北のうち北側に60.7ヘクタールの光が丘公園を配置計画に転換。
◎住宅地内公園・緑地に光が丘公園を含め約80ヘクタール、全体の44%にわたる「地域を結ぶ公園と緑のネットワーク」づくり。
◎高層高密度住宅地の医療システムのあり方についても「日本病院建築学会」に委託し計画をまとめた。
◎「健康で文化的な都市」を目指す地域の拠点とするため、商業・業務・医療・文化・スポーツ・公共公益施設のセンター地区を整備。(1210台の駐車場、15万㎡。商圏5キロ、36万世帯、93万人の利用を想定)
◎清掃工場の廃熱を利用した地域冷暖房・給湯システム。
◎光ファイバーによる有線情報システムとCIS(180台のエレベーターを15台のTVモニターで24時間監視など)の導入。
◎工事の残土対策を兼ねた地形に変化をもたせた造成計画、3階建てから30階建てまでのメリハリある住宅群、5つに分けたブロックごとの色彩計画、統一化されたサイン計画、無電柱化、季節感ただよう造園計画など、統一したアーバンデザインと「公園都市化」など。
結果として練馬区内のUR賃貸の過半数が光が丘団地となった。
【ストック活用団地=光が丘の高額家賃の秘密】
次に、再三問題になっている、光が丘の高額家賃の話に移った。
2007年12月、URは「賃貸住宅ストック再生・再編方針」を決めた。
「郊外に大量供給された住宅が老朽化・陳腐化、人口・世帯数の減少で需要低下、入居者が高齢化し過半が低所得者となっていることを理由に、77万戸の賃貸住宅のうち、10年後に約10万戸を再編、約5万戸を削減、さらに将来は3割を削減する」というもの。
ストックというのは「在庫」を意味し、物的な面しか表現していない。居住者の生活が読みとれない。「既存住宅」という方が本来は正確。URの姿勢が伺える。
そのうち「再生」というは、団地のごく一部の建て替えと、基本は団地住棟の除去(更地に)。そして公共住宅以外への転用。
「活用」というのは既存の住宅を立て替えずにできるだけ修繕して長持ちさせるという方向性。築後70年はもたせようという方向。光が丘のUR賃貸はすべて「ストック活用団地」となっている。
開発後35年くらいで建て替えの検討が始まるが、少子高齢化で全国的に現在以上の住宅需要はない、というURの姿勢があり、基本的には都心部以外の賃貸住宅の建て替えはしない。
光が丘の場合、駅周辺の民間資本導入による再開発・超高層化・高家賃化の可能性を除けば賃貸の建て替えはないだろう。
◎いちょう通り八番街、四季の香弐番街、プロムナード十番街、大通り中央、ゆりの木通り33番街は「グレードアップ対象団地」・・・「改良的投資により事業価値の向上が見込まれる団地」(家賃水準が首都圏民間賃貸住宅家賃水準以上・2000円/㎡
◎公園南、ゆりの木北、大通り南は「収益改善投資団地」・・・上記団地に続いて「改良的投資を実施すべき団地」、となっている。
こうした経過をもちながら光が丘のUR賃貸全体が「ストック活用団地」とされた。つまり、建て替えを前提にせず、あと50年近くは、できるだけ改良しながら市場家賃より高く設定し収益をあげ続ける団地、というのが光が丘のUR賃貸の位置付け。それが光が丘の高家賃の秘密。
詳細な光が丘の各ブロックごとの平均家賃/㎡単価も紹介されたが、例えば周辺団地では、パークサイド石神井(1994年建て替えの団地)や高島平団地は約1800円/㎡であり、そもそも光が丘の㎡単価が高いことがわかった。
【居住者に負担を強いるUR=都市再生機構の民営化】
現在問題になっているUR=都市再生機構の民営化については以下のような報告があった。
6~70年代の郊外型団地の建て替えを80年代に迎え、住宅建設と管理戸数は大幅に減少、低家賃住宅(平均家賃44000円)が6割以上減少し、10万円以上の高家賃住宅への転換が進んだ。
1981年に住宅公団は、住宅・都市整備公団に移行した。
1999年には都市基盤整備公団に、2004年には都市再生機構となり、建て替えを除き名実ともに新規住宅建設から撤退した。
さらに新規住宅建設・ニュータウン開発にあたってきた都市整備部門と賃貸部門を分社化し、賃貸部門を民営化という流れにされている。
都市整備部門の経営は地価の上昇を前提としてきたので今までも自立できず、赤字になる構造だった。膨大な借金があり、これを解決しないと民営化できない。
一方でのUR民営化の議論は、老朽化している賃貸住宅のために収益率が低く、主に都市部の一等地にある高額賃貸物件からの収益で古い物件の損出を補っている構造が問題にされ、「賃貸事業は民間でも手掛けられる」と主張であった。
しかし、UR賃貸住宅経営の収入(約6373億円/2009年度)はUR全体の総収入(約1兆円/同年度)の6割以上を占める経営の柱。このうち家賃収入は約9割(UR全体の6割弱)を占め、家賃が経営を支えている。ところが家賃収入の1/3は宅地造成など「都市整備部門」の債務(利息支払)にまわされ、賃貸住宅の修繕費や家賃の抑制に向かわない。。
URの経営は賃貸の家賃収入でもっているのに、この事実はあまり明るみに出ないで今日まできた。
賃貸部門は、法人内分社化など新しい公的機関化(今年6月といわれている)ののち、政府100%出資の特殊会社化、その後に完全民営化とされている。
一方、昨年10月国土交通省の有識者会議はUR=都市再生機構の完全民営化は、国が膨大な債務を肩代わりすることになりかねないとして、実現は難しいという見解を示した。馬淵国交相(当時)も「民間会社化することは現実性に乏しい」としている。
にも関わらず、今年4月に家賃改定をしようとしている。民営化のための地均し=都市再生部門の赤字補填を居住者に負担させるための家賃値上げである、と結んだ。
最後に光が丘に引きつけたまとめとして
1、特に光が丘の住民は家賃の値下げを求めるべき。
2、居住者負担の民営化には自治会などのレベルではっきり反対すべき。
3、地区計画は、光が丘のまちづくりの基本の転換を可能にするもの。光が丘のUR賃貸は建て替えを前提とせずに改修をしながら、あと50年近くは「活用」する方向だが、URは将来の需要はないので基本的に新しい賃貸住宅はつくらない、建て替えない、という方向。
分譲の建て替えをどうするか、として地区計画に移行したのが多摩の諏訪2丁目住宅だが団地の規模も性格も違う(諏訪2丁目住宅は5階建て分譲23棟、640戸)。分譲と賃貸、UR・都・公社、低層棟と超高層棟が併存する光が丘では、除去・更地化・転用の地域も考えられる。
「一団地」のままでも建物の除去はできるが、他用途転用はできない。地区計画になれば、自治体とURの意向でどうにでも転用されてしまう。公共賃貸住宅を守る意味でも拙速な地区計画は反対すべき。 と三点をあげた。
-----------以下はQ&Aの主なもの
Q 賃貸の空き家がたくさんあるが家賃を下げる方向はないのか
A 家賃を下げるのは、住棟で空き家が2割以上出た場合とされている。実際には3割。光が丘の現状から見ればそこまではいっていないだろう。
Q 地区計画に移行する理由として、練馬区は住棟の空き室などの用途転換をあげている。賃貸棟の場合、URと練馬区の意向だけで用途転換されてしまうのか。
A 賃貸の場合、内部手続きだけで可能ではある。が、住民にとって必要な用途転換や改築など「きわめて重大な事情」でなければおかしい。
Q 「期限付賃貸契約」での入居者が増えていて自治会の組織化の障壁になっているが、なぜこういう制度が同じ賃貸棟の中に導入されているのか。
A 定期借家制度というものを国が定めた。民間住宅の需要を作るためというが、民間ですすまないのでURにやらせている。
居住の不安定性を増長する制度であり、反対することが必要。
Q 「一団地の住宅施設」の都市計画を廃止して、地区計画へ、というのは住宅公団などからの働きかけもあったのではないか。
A そのとおりだと思う。住宅公団は地方自治体と強い関係をもってきた。将来的に更地にした団地を他用途転用するためには地区計画に移行する必要がある。地方分権の流れもあり、その点では地方自治体と一致している。
UR自体、団地の「再生」について「民間事業者や地方公共団体の皆様との適切な役割分担のもと、パートナーとして事業に参画することで、都市の再生、地域の活性化や防災性の向上等を推進していきます」としている。
Q 低層棟になぜエレベーターを当初から設置しなかったのか。エレベーターの増設は難しいのか。
A 光が丘設計開発時にはまだバリアフリー、少子高齢化の概念がなかった。技術者として反省しなければいけない点だ。
エレベーター設置が難しいのは低層棟は横の廊下で各階がつながっていない場合が多いから。南側(ベランダ側)に外廊下を増設してエレベーターを設置する例もあるが、日本では共用となる廊下から各部屋が見えることはプライバシーの問題もあり進んでいない。
Q これまでに「ストック再生・再編方針」で実際に更地になり、転用された例は
A 高額負担の介護付き老人ホームへの転用例などがある。
今までは郊外の団地だったが、都市部の例も出てきている。
日野市の高幡台団地は、旧耐震基準の古い団地だが費用がかかりすぎるという理由で改修も建て替えも断念し、「除去」の方針の下新規入居をストップしてきた。250戸中、残る9戸に対し、URが明渡し訴訟を起こしている。
足立区の花畑団地は2725戸のうち1000戸以上が空き家にされている。1157戸を壊し、団地中央に高家賃の高層住宅140戸を建てて、商業施設を誘致し、団地西側は更地化する。団地を除却・更地化したあとどうするのかは決まっていない。
【UR賃貸の建て替えがないのなら都市計画変更を急ぐ理由はない】
国鉄、電電、郵政、道路公団ときて、旧住宅公団=URの民営化が最後の課題とされている。
しかし、他の民営化と違うのは、不採算部門の負債が、UR賃貸居住者の負担に転嫁されようとしていることだ。
また、都営住宅やコーシャハイムも同様だが、「再生」の美名のもとに公共賃貸住宅の将来は極めて不安定不透明であることもよくわかった。
利用のメドがない遊休地を他用途利用するならまだしも、日々生活している賃貸住宅とその用地を住宅以外の用途に転換しようとする流れは許されるものではない。
練馬区の説明してきた「将来の建て替え時」は、50年近くも先になると考えられ、「建て替え」そのものが賃貸住宅の場合、今のままではほぼないだろう、という報告には目が覚まされた思いがする。この先半年~一年程度で急いで“粗雑な”地区計画にしなければならない理由はまったくない。
都営住宅も新規建設はなく、入居基準収入額の引下げなどで入居枠を抑制している現状からみれば、都営・公社も将来の建て替えもUR賃貸同様楽観はできないと思われる。坂庭さんが指摘されたように「一団地」の都市計画がある限り、建物の除去はできても他用途転換はできない。
逆に、地区計画になれば、50年後には光が丘の公共賃貸住宅は他用途転用され残らないだろう。 光が丘13261戸のうち、UR賃貸は5409戸で約40%、都営・公社を含めれば9139戸68%と賃貸住戸の比率は圧倒的で、利害関係者である賃貸居住者は光が丘団地住民の過半数を超える。
公立小学校を廃校にし、営利のインターナショナルスクールを誘致する練馬区の行政感覚からスタートした地区計画には、とても光が丘の未来を託す訳にはいかないと改めて確信した。
リンク 独立行政法人 UR=都市再生機構
文責 セブン