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「お~い、お~いっ!」
「この声が聞こえるかぁッ!」
誰かがずっと僕を呼び続けている。子供のような無邪気な声で細く甲高い。聞こえるのはどこか下の方からだ。それも一人じゃない。入れ替わり立ち代りで僕(たぶん)に呼びかけている。
「大丈夫かあ――っ!」
僕は何かの冷たさを背中に感じ続けている。
冷たい。ものすごく冷たい。その冷たさはお腹のヘソまで伝わってきている。
しかし、雪のせいで冷たいのだと理解しているのはそこにいる自分じゃないように思える。
「お~い、聞こえるかぁ――っ!」
鼓膜に届く声まで冷たく感じられる。
僕は眠りの中でやけに熱心な彼らの声に感心している。
彼らはどうして僕をこれほど気にかけてくれているのだろう?
そう思った瞬間、顔に何かが雪崩のように落ちてきた。冷たくやわらかいものだった。最初は細かいのが降るように落ちてきて、最後に大きいのが額の真ん中で弾けた。頭の中で思わず目をつぶっていた。
塊の落ちてきた額がひりひりする。目の縁の細かい粒が冷たい感触で滑り落ちてきた。粒は目の縁から目に染みこむようにして溶けた。反応してにじみ出たたくさんの涙にまじって目じりから耳に向けて流れ落ちていった。
目を開けた。真上には樹木の枝と葉が広がり、隙間は雪で埋まっている。あれが顔に落ちてきたんだなと思った。
僕は右手へ顔を動かした。凍りついたような青っぽい空が見えた。
どうやら自分は樹木の枝に乗っかっているようだ。身体は枝に積もった雪にすっぽり収まっている。
不自由ながら身体は少し動く。しかし、身体を起き上がらせることはできない。冷えきった手足はまるで動かないのだった。
なのに死にもしないで生きている自分が不思議だった。動けなくても息をしていられるだけでも喜ぶべきなのか?
とはいえこの不自由さはどうしたものだろう。こうして意識があっても、この寒さと身体の不自由さが続くなら、どんどん衰弱して僕は死んでしまうではないか。
「死んでしまう?」
僕はようやく自分を取り戻した。
ポケットに手を入れられさえすれば、お金だけでなく温かなカイロも取り出せる。それを思い出した。
しかし次の瞬間、僕は嘆息した。ダメなのに気付いた。
肝心なその手が今は動かないのだ。
すると、僕はこの場所で永遠に動かなくなってしまうのか。
いや、そうじゃなかった。僕はそこで自分が時間の旅にあるのを思い出した。僕は昔の子供に戻ってピコと旅立っている。その年齢から数十年生きた歴史を持っている。時空に飛び立った時の自分の本体が死なない限り、僕は決してここで死ぬはずはないのだ。
僕はほっとなった。余裕を取り戻した。それなら恐れることなど何もない。今は冷たい身体も、僕がこうして目を覚ました以上、少しずつ体温を上げてくるだろう。自然と手も動かせるようになるに違いない。
僕は瞬きをした。
その時、気付いた。
三つの顔が真上から僕を見下ろしているのだった。
一人の子と目が合った。その子は口を開いた。
「君はどこから来たの?」
「ニッポン」
僕はか細い声で答えた。
彼らは顔を見合わせている。
「ニッポン?」
女の子が訊ねている。
「ずっと遠いところにある海の国だ」
背の大きな男の子が答えている。