
English Version
한국어
彼は僕を見つめおろした。口を覆うマフラーを外した。
「ともかくよかった。枝の上に引っかかっているなんて最初は信じられなかった。あの子の言葉を信じてよかった」
そう言って白い息を吐き、少女を呼んだ。
「アマンダ、先に小屋に戻り、その子を見つけたから大丈夫だって伝えて。僕らもこの子を連れてすぐ戻る」
少女はうなずいて雪の中を走って行った。
「少女・・・?」
ボーッとした意識の中で、僕はぼんやりピコを思い浮かべた。彼女がこの人たちに救いを求めるため、姿を現したというのだろうか。だとしたら、早くピコのそばに戻ってやらないと・・・! この寒い中、彼女は物凄い勢いで体力を消耗しだしているだろう。彼女の命が尽きたら、僕も終わりだ。
僕は口を震わせながら声を必死に絞り出した。
「お願いです。早く僕を助けてください」
「わかった。あの子もそう言っていた。今助けるから」
樹木の枝は運のいいことに岩場の平たい場所に沿って伸びていた。僕の身体はその枝の上にある。
彼らは枝から僕を救い出してくれた。男子二人で腕を取り身体を引き抜くようにして僕を引っ張りだしたのだ。身体や枝から雪が細かく飛び散った。樹木の枝は僕の体重でしなっていた分だけ、岩場から上方へ離れて静止した。
しなりの戻った枝を僕はぼんやり見つめた。
「ああ、確かに自分はここにいたのだな」との思いが頭の中をめぐった。
彼らに抱きかかえられるようにして岩場の外に出た。
すると急にあたりの見晴らしがよくなった。針葉樹の木立が夕暮れの斜面に重なるように連なっている。
あとは一面が銀世界だった。
少年らの足跡が僕らの方へ点々と続いてきている。
僕を抱きかかえるようにして雪中を歩きながら一人が訊ねた。
「けがはないかい?」
「はい」
「小屋までは少し歩かなければならないけど大丈夫かな・・・歩けるかい? それともおぶった方がいいかな」
「いいえ、大丈夫です。歩けます」
僕は気丈にそう答えた。しかし、実際は彼らの腕に身体を浮き上げられて歩いているようなものだった。足の膝はガクガクして力が入らない。雪の中にすぽっと収まった足は自力で抜くことさえままならない。それでも前方へ動いていけるのは彼が僕の身体を浮かせて力強く前方へ進むからだ。僕は雪から抜けた足を前に動かせばいいだけだった。
「寒くて身体が思うように動かないだろう? 無理ないよ。ジャージ一枚のそんな服装では僕だって動けなくなるってもんだ。この時期の日本はそんな服装で外を歩けるのかい?」
「・・・」
そんな軽装でと言われても、何をどこからどう説明していけばいいか自分でもわからない。まさか時間をくぐりぬけてやってきたのだとは言えない。旅客機の壊れた窓から落ちてきたとでも言えば信用してもらえるだろうか・・・?
「まあ、いいや。日本の今の気候を知ったところでここでは意味もないんだ」
「・・・」
彼はもう一人の名を呼んだ。
「お前のジャンパーをこの子に貸してやれ」
僕らは立ち止まった。
オスカーと呼ばれたその子はいそいで自分の着ているフード付きジャンパーを脱いだ。
促されて背を向けると彼はその服を後ろから着せかけてきた。
「だいぶ大きいけどあたたかさは変わらないよ」
「・・・」
どの子も心がまっすぐで純朴そうだ。
「この子はオスカーであの子はアマンダ・・・。兄妹の一番上らしいこの子の名は何ていうのだろう・・・?」
「僕の名ならウォーレンだよ」
僕が驚いていると彼は僕の腕を取って歩くのをうながした。
「僕が一番上の兄ってわけだ。ともかく急いで山小屋に戻ろう。そこには君の助けを呼んだ子と愛犬らが待っている」
不思議にも僕は歩けるようになっていた。雪中にめりこんだ足もきちんと抜いて前に踏み出すことができるようになっていた。足に血がめぐりだしたのだ。
この人たちのおかげで助かった! 僕はその喜びで今にも叫びたいほどだった。
するとオスカーは僕に笑顔を投げかけてきた。もう大丈夫、とばかり僕から腕を離し、前を歩き出した。
彼が左手にした細い棒がひゅっひゅっと冷たい空気を切りだした。僕はウォーレンに手を取られてそのあとに従った。
その時、僕は叫んだ。
「あっ、帽子だ! 帽子のことを忘れてた」
