10月28日、自民党は「新憲法草案」を決定して発表した。やはり、憲法改正の焦点は第9条であるが、第1項の「戦争放棄」の条文はそのまま残し、第2項で「自衛軍」を明記し、海外での武力行使も可能なものとした。(ほかにも気になる部分があるが、とりあえずは新聞の記事を読んでほしい)
自民、新憲法草案を決定 (sankei 051029)
自民党は二十八日の総務会で、新憲法起草委員会(委員長・森喜朗元首相)がまとめた新憲法草案を党議決定した。草案のうち「前文」については、森委員長や小泉純一郎首相らの協議で、中曽根康弘元首相が中心にまとめた原案から、日本の歴史や伝統、風土といった保守色を抜き去った。このため、起草委総会では不満の声が多数出された。
草案は十一月二十二日の立党五十年党大会で報告されるが、中曽根原案も付記する異例の措置をとることになった。
草案は前文と十章百五条で構成される。戦争放棄をうたった現九条一項は維持、交戦権否認の現九条二項は削除し、国防と国際協力、災害派遣など公共の秩序維持を任務とする自衛軍の保持を明記した。集団的自衛権の行使と海外での武力行使を容認した。
国のかたちについて草案は一条で象徴天皇と国民主権を堅持。前文で国民が「国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」を持つとした。国に環境保全の責務を課し、プライバシー権を創設した。改正案の国会発議(提案)の要件を衆参各院の過半数の賛成へ緩和している。
◇
■「集団的自衛権」の行使容認、範囲・発動要件先送り
憲法改正の核心である九条について、自民党の新憲法草案は「わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」として「自衛軍の保持」を明記した。自衛隊を軍隊と位置付けるという、当たり前のことながら長年、放置されていた課題に着手した意味は大きい。また「自衛軍」に集団的自衛権の行使や海外での武力行使を認める考え方を盛り込んだが、行使の範囲や発動の要件について自民党はほとんど議論しておらず、問題を先送りした格好だ。
草案は「自衛軍」の概念に「自分の国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力で阻止する」権利である集団的自衛権の行使も含まれるとして、条文では直接、記述しなかった。
このため、二十八日開かれた党新憲法起草委員会総会では、出席者の一人から「集団的自衛権の行使を新憲法にはっきりと書き込まないで、将来、どんな政府ができても解釈は変わらないのか」といったストレートな疑問もぶつけられた。
自民党は新憲法の付属法制として「安全保障」「国際協力」両基本法を制定し、集団的自衛権の行使、海外での武力行使のあり方、範囲を定める考えだ。それに向けて、新憲法草案と並行して国防部会や「安全保障」小委員会(委員長・福田康夫元官房長官)で両基本法の概要を検討し、セットで公表することを目指していた。
しかし解散・総選挙で議論がストップ。「安保」小委は今月十九日の会合で、新憲法草案策定前の結論を断念した。これが、草案発表の段階でも核心部分に対する基本的な疑問が出た原因だ。
自衛軍は将来、どういう多国籍軍に参加していかなる国際協力活動を行うのか。武力行使はどんな時に許されるのか。自民党議員にもさまざまな意見が渦巻いている。起草委事務総長の与謝野馨政調会長は「無制限の行使はありえない」として、国際協力活動や日本周辺での米軍との共同行動などに限定される考えを示しているが、草案の輪郭を明確にする議論はこれから本番を迎える。
9条に『自衛軍』を明記
新憲法草案自民が決定 (tokyosinbun)
自民党は二十八日午後、新憲法起草委員会(委員長・森喜朗前首相)の全体会議を党本部で開き、新憲法草案を決定した。焦点の九条は、自衛軍の保持を明記するとともに、海外での武力行使容認に踏み込んだ。一方で、前文は、当初検討した愛国心への言及を見送り、保守色を抑制した内容になった。
草案は現行憲法の補則を除く九十九条に対応する形で構成されている。最後まで調整が残っていた九条と前文は、小泉純一郎首相と森氏が協議し、首相が最終判断した。
九条は、草案づくりのたたき台の段階では、現行の条文を全面的に書き換えていたが、最終的には、戦争放棄を定めた一項を現行条文通り維持。「戦力不保持」をうたった二項は削除し「自衛軍の保持」を書き込んだ。
戦争放棄条項をそのまま残すことで、九条改正に対する国民の不安を和らげる狙いがあるとみられる。
自衛軍の任務は、自国の防衛や緊急事態への対応に加え、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」とし、海外での武力行使も可能とした。
集団的自衛権は明文化を見送ったものの、行使を容認。具体的には「安全保障基本法」(仮称)を制定して行使を規定することにした。
前文には、現行にはない象徴天皇制の維持を盛り込み、国民主権などの基本原則は継承した。「国を愛する国民の努力によって国の独立を守る」との表現を盛り込むことも検討したが、最終的には見送った。
日本の歴史、文化、伝統に関する「情緒的記述」(起草委幹部)も盛り込まず、現行憲法の前文よりも簡素な内容となった。
現行憲法に明文規定のない「新しい権利」として環境権、知る権利、プライバシー権を追加。一方で「国民の責務」という条文を設け「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と権利の乱用をいさめた。
改憲発議要件は、衆参両院の総議員の「三分の二以上」の賛成としているのを、「過半数」に緩和した。
この自民党の憲法改正案に前後して、米軍の再編をめぐる新たな展開が明らかになってきたニュースが出ている。憲法改正は内政問題ではあるが、アメリカの軍事的な世界戦略の動きと無関係ではない。これらがどのように結びついているのか考えておこう。まずは、横須賀に原子力空母が配備されるという記事である。
米軍、横須賀に原子力空母配備へ 08年から
2005年10月28日11時08分(asahi.com)
米海軍は27日夜(日本時間28日午前)、神奈川県の横須賀基地を事実上の母港としている通常型空母キティホークを08年に退役させ、原子力空母を後継艦にすると発表した。キティホークが老朽化したのに伴う通常の交代と説明しているが、在日米軍の再編協議がまとまったことなどを受けて踏み切ったとみられる。日本政府は28日午前、「我が国の安全に寄与する」などとして評価する考えを明らかにしたが、地元横須賀市は反対の姿勢を示した。今後の展開によっては、神奈川県内の米軍再編にも影響を及ぼしそうだ。
米海軍の発表によると、後継艦は「9隻あるニミッツ級の空母」としているだけで、具体的な艦名は明らかにしていない。「西太平洋地域の安保環境は、最も能力の高い艦船の前方展開を日増しに必要としている」と説明。さらに「こうした態勢は、海軍や統合部隊の即応を可能にし、高度な攻撃力や作戦能力を発揮させることになる」などと必要性を強調した。
米海軍は長期計画で、前方展開している老朽艦をより新しく能力の高い艦船に順次交代させており、西太平洋地域の安保環境を考えた場合、61年就役の通常型空母のキティホークをより新しい原子力空母に代えるのは必然だと説明。空母を代えても艦載機部隊の配備に変化はないとしている。
日本では原子力空母への抵抗感が強いことに配慮して、発表文は「64年以来、原子力推進の米海軍艦船は1200回以上、日本に寄港している」と指摘。そのうえで「当初から米政府は日本の港を安全に使用することを日本政府に約束しており、米国内の港に接岸する際にとっている安全措置や手続きを、外国の港でも厳密に順守することを確認している。この約束は引き続き守る」と強調している。
<引用おわり>
もうひとつは、米軍再編に関する「中間報告」が発表されたことである。
自衛隊の役割を拡大 米軍再編「中間報告」発表
2005年10月29日23時50分(asahi.com)
外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)が29日、ワシントンで開かれ、在日米軍再編に関する「中間報告」を発表した。「同盟の能力向上」を掲げ、在日米軍と自衛隊による司令部間の連携強化や基地の共同使用などを打ち出した。自衛隊の役割を拡大し、米軍との「融合」を進める。沖縄の普天間飛行場(宜野湾市)の移設先など基地再配置の方針も明記し、「地元に与える負担を軽減する」こともうたった。日本政府は、普天間移設先ヘリポートの工期は5年をめどとしている。事業費は数千億円を見込んでいるという。
2プラス2は大野防衛庁長官、町村外相、ラムズフェルド米国防長官、ライス米国務長官が出席。来年3月までに「最終報告」をまとめ、再編の実施計画を決めることで合意した。町村外相は記者会見で「来年3月まで難しい仕事を日本政府を挙げてやっていかないといけない」と語った。
中間報告は、普天間飛行場の移設先について「沖縄県内でなければならない」と結論づけ、沖縄県名護市の「キャンプ・シュワブ海岸線の区域と近接する大浦湾の海域」に長さ1800メートルのヘリポートを造ることを盛り込んだ。県内移設を選んだ理由には、米海兵隊の緊急事態への対応能力の維持を挙げた。
一方、負担軽減策として沖縄に駐留する海兵隊の半数に当たる7000人の削減も明記した。キャンプ・コートニーにある第3海兵遠征軍司令部の要員を中心にグアムなどへ移転させる。ただ、第12海兵連隊(砲兵)など実戦部隊は削減対象外。国外移転の経費は「日本政府が、適切な資金的な措置を見いだす検討を行う」と、日本側が負担することを示した。
中間報告は今年2月の「日米共通戦略目標」に基づき、日本有事や周辺事態、国際協力の各場面で「日米の役割・任務の分担」を定めている。
日本有事や周辺事態では米軍に対する「切れ目のない支援」を約束。イラクのような復興支援や国際救援活動についても「二国間協力が、同盟の重要な要素」とした。
協力を強化する分野としては、(1)無人偵察機による情報収集(2)警戒監視レーダーで弾道ミサイル関連の情報共有(3)高速輸送艦などによる輸送協力――などをあげている。
日本有事などを想定した「共同作戦計画」作成を進める方針も示した。
また、キャンプ座間(神奈川県)に米陸軍第1軍団司令部を改編した「統合作戦司令部」を受け入れ、陸自の機動運用部隊などを統括する中央即応集団(新設)と「共存」させる。米軍横田基地(東京都)にも、空自航空総隊司令部(同)を移転させ、弾道ミサイルに共同対処する「共同統合運用調整所」を設ける。
米海軍厚木基地の空母艦載機部隊(約60機)を岩国基地(山口県)に移転させ、岩国へ移転予定だった普天間飛行場の空中給油機を海自鹿屋基地(鹿児島県)へ移す。
◇中間報告の骨子
●日米同盟の能力を向上させ、地元負担を軽減
●司令部間の連携強化や基地の共同使用、共同訓練の拡大による能力向上
●キャンプ座間に米陸軍第1軍団司令部を改編した統合作戦司令部と、陸自中央即応集団司令部を設置
●米軍横田基地に空自航空総隊司令部を移し、共同統合運用調整所を設置
●米軍厚木基地の空母艦載機部隊を岩国基地に
●米軍普天間飛行場をキャンプ・シュワブ沿岸に
●在沖海兵隊7000人を削減、グアムなどに移す
<引用おわり>
キャンプ座間に米軍の「統合作戦司令部」がアメリカ本土から移転し、横田基地にも空自と共同で「共同統合運用調整所」が設置されるというものである。(沖縄の海兵隊の削減は事実上米軍基地縮小には結びつかないものだそうだ)
こうした米軍再編の背景をまとめると、次のようになる。
①世界的な米軍兵力の再配置とハイテク化によって兵力の削減を図る。
②東アジアから中東にかけて、米軍の機動的な展開を可能にするために日本の基地を強化する。
③日本の自衛隊との連携を強化し、削減された米軍兵力の補完勢力とする。
というようなことが見えてくる。すでに新ガイドライン以後、周辺事態法などで米軍再編に合わせて自衛隊の位置づけを変更してきている。その総仕上げが憲法改正なのであろう。しかし、自民党の改正案は、基本的に9条の「戦争放棄」をそのまま維持し、自衛隊の現状を追認するだけのものであるという人もいる。憲法改正によって何が変わるのかよく検討してみたい。
設問1)憲法改正と米軍再編がどうして結びつくのか?
設問2)自民党の改正案では「集団的自衛権」について、どのような解釈になっているのか?
設問3)自民党の改正案が成立したら、どのような変化が起こると考えられるか?
自民、新憲法草案を決定 (sankei 051029)
自民党は二十八日の総務会で、新憲法起草委員会(委員長・森喜朗元首相)がまとめた新憲法草案を党議決定した。草案のうち「前文」については、森委員長や小泉純一郎首相らの協議で、中曽根康弘元首相が中心にまとめた原案から、日本の歴史や伝統、風土といった保守色を抜き去った。このため、起草委総会では不満の声が多数出された。
草案は十一月二十二日の立党五十年党大会で報告されるが、中曽根原案も付記する異例の措置をとることになった。
草案は前文と十章百五条で構成される。戦争放棄をうたった現九条一項は維持、交戦権否認の現九条二項は削除し、国防と国際協力、災害派遣など公共の秩序維持を任務とする自衛軍の保持を明記した。集団的自衛権の行使と海外での武力行使を容認した。
国のかたちについて草案は一条で象徴天皇と国民主権を堅持。前文で国民が「国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」を持つとした。国に環境保全の責務を課し、プライバシー権を創設した。改正案の国会発議(提案)の要件を衆参各院の過半数の賛成へ緩和している。
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■「集団的自衛権」の行使容認、範囲・発動要件先送り
憲法改正の核心である九条について、自民党の新憲法草案は「わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」として「自衛軍の保持」を明記した。自衛隊を軍隊と位置付けるという、当たり前のことながら長年、放置されていた課題に着手した意味は大きい。また「自衛軍」に集団的自衛権の行使や海外での武力行使を認める考え方を盛り込んだが、行使の範囲や発動の要件について自民党はほとんど議論しておらず、問題を先送りした格好だ。
草案は「自衛軍」の概念に「自分の国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力で阻止する」権利である集団的自衛権の行使も含まれるとして、条文では直接、記述しなかった。
このため、二十八日開かれた党新憲法起草委員会総会では、出席者の一人から「集団的自衛権の行使を新憲法にはっきりと書き込まないで、将来、どんな政府ができても解釈は変わらないのか」といったストレートな疑問もぶつけられた。
自民党は新憲法の付属法制として「安全保障」「国際協力」両基本法を制定し、集団的自衛権の行使、海外での武力行使のあり方、範囲を定める考えだ。それに向けて、新憲法草案と並行して国防部会や「安全保障」小委員会(委員長・福田康夫元官房長官)で両基本法の概要を検討し、セットで公表することを目指していた。
しかし解散・総選挙で議論がストップ。「安保」小委は今月十九日の会合で、新憲法草案策定前の結論を断念した。これが、草案発表の段階でも核心部分に対する基本的な疑問が出た原因だ。
自衛軍は将来、どういう多国籍軍に参加していかなる国際協力活動を行うのか。武力行使はどんな時に許されるのか。自民党議員にもさまざまな意見が渦巻いている。起草委事務総長の与謝野馨政調会長は「無制限の行使はありえない」として、国際協力活動や日本周辺での米軍との共同行動などに限定される考えを示しているが、草案の輪郭を明確にする議論はこれから本番を迎える。
9条に『自衛軍』を明記
新憲法草案自民が決定 (tokyosinbun)
自民党は二十八日午後、新憲法起草委員会(委員長・森喜朗前首相)の全体会議を党本部で開き、新憲法草案を決定した。焦点の九条は、自衛軍の保持を明記するとともに、海外での武力行使容認に踏み込んだ。一方で、前文は、当初検討した愛国心への言及を見送り、保守色を抑制した内容になった。
草案は現行憲法の補則を除く九十九条に対応する形で構成されている。最後まで調整が残っていた九条と前文は、小泉純一郎首相と森氏が協議し、首相が最終判断した。
九条は、草案づくりのたたき台の段階では、現行の条文を全面的に書き換えていたが、最終的には、戦争放棄を定めた一項を現行条文通り維持。「戦力不保持」をうたった二項は削除し「自衛軍の保持」を書き込んだ。
戦争放棄条項をそのまま残すことで、九条改正に対する国民の不安を和らげる狙いがあるとみられる。
自衛軍の任務は、自国の防衛や緊急事態への対応に加え、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」とし、海外での武力行使も可能とした。
集団的自衛権は明文化を見送ったものの、行使を容認。具体的には「安全保障基本法」(仮称)を制定して行使を規定することにした。
前文には、現行にはない象徴天皇制の維持を盛り込み、国民主権などの基本原則は継承した。「国を愛する国民の努力によって国の独立を守る」との表現を盛り込むことも検討したが、最終的には見送った。
日本の歴史、文化、伝統に関する「情緒的記述」(起草委幹部)も盛り込まず、現行憲法の前文よりも簡素な内容となった。
現行憲法に明文規定のない「新しい権利」として環境権、知る権利、プライバシー権を追加。一方で「国民の責務」という条文を設け「公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と権利の乱用をいさめた。
改憲発議要件は、衆参両院の総議員の「三分の二以上」の賛成としているのを、「過半数」に緩和した。
この自民党の憲法改正案に前後して、米軍の再編をめぐる新たな展開が明らかになってきたニュースが出ている。憲法改正は内政問題ではあるが、アメリカの軍事的な世界戦略の動きと無関係ではない。これらがどのように結びついているのか考えておこう。まずは、横須賀に原子力空母が配備されるという記事である。
米軍、横須賀に原子力空母配備へ 08年から
2005年10月28日11時08分(asahi.com)
米海軍は27日夜(日本時間28日午前)、神奈川県の横須賀基地を事実上の母港としている通常型空母キティホークを08年に退役させ、原子力空母を後継艦にすると発表した。キティホークが老朽化したのに伴う通常の交代と説明しているが、在日米軍の再編協議がまとまったことなどを受けて踏み切ったとみられる。日本政府は28日午前、「我が国の安全に寄与する」などとして評価する考えを明らかにしたが、地元横須賀市は反対の姿勢を示した。今後の展開によっては、神奈川県内の米軍再編にも影響を及ぼしそうだ。
米海軍の発表によると、後継艦は「9隻あるニミッツ級の空母」としているだけで、具体的な艦名は明らかにしていない。「西太平洋地域の安保環境は、最も能力の高い艦船の前方展開を日増しに必要としている」と説明。さらに「こうした態勢は、海軍や統合部隊の即応を可能にし、高度な攻撃力や作戦能力を発揮させることになる」などと必要性を強調した。
米海軍は長期計画で、前方展開している老朽艦をより新しく能力の高い艦船に順次交代させており、西太平洋地域の安保環境を考えた場合、61年就役の通常型空母のキティホークをより新しい原子力空母に代えるのは必然だと説明。空母を代えても艦載機部隊の配備に変化はないとしている。
日本では原子力空母への抵抗感が強いことに配慮して、発表文は「64年以来、原子力推進の米海軍艦船は1200回以上、日本に寄港している」と指摘。そのうえで「当初から米政府は日本の港を安全に使用することを日本政府に約束しており、米国内の港に接岸する際にとっている安全措置や手続きを、外国の港でも厳密に順守することを確認している。この約束は引き続き守る」と強調している。
<引用おわり>
もうひとつは、米軍再編に関する「中間報告」が発表されたことである。
自衛隊の役割を拡大 米軍再編「中間報告」発表
2005年10月29日23時50分(asahi.com)
外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)が29日、ワシントンで開かれ、在日米軍再編に関する「中間報告」を発表した。「同盟の能力向上」を掲げ、在日米軍と自衛隊による司令部間の連携強化や基地の共同使用などを打ち出した。自衛隊の役割を拡大し、米軍との「融合」を進める。沖縄の普天間飛行場(宜野湾市)の移設先など基地再配置の方針も明記し、「地元に与える負担を軽減する」こともうたった。日本政府は、普天間移設先ヘリポートの工期は5年をめどとしている。事業費は数千億円を見込んでいるという。
2プラス2は大野防衛庁長官、町村外相、ラムズフェルド米国防長官、ライス米国務長官が出席。来年3月までに「最終報告」をまとめ、再編の実施計画を決めることで合意した。町村外相は記者会見で「来年3月まで難しい仕事を日本政府を挙げてやっていかないといけない」と語った。
中間報告は、普天間飛行場の移設先について「沖縄県内でなければならない」と結論づけ、沖縄県名護市の「キャンプ・シュワブ海岸線の区域と近接する大浦湾の海域」に長さ1800メートルのヘリポートを造ることを盛り込んだ。県内移設を選んだ理由には、米海兵隊の緊急事態への対応能力の維持を挙げた。
一方、負担軽減策として沖縄に駐留する海兵隊の半数に当たる7000人の削減も明記した。キャンプ・コートニーにある第3海兵遠征軍司令部の要員を中心にグアムなどへ移転させる。ただ、第12海兵連隊(砲兵)など実戦部隊は削減対象外。国外移転の経費は「日本政府が、適切な資金的な措置を見いだす検討を行う」と、日本側が負担することを示した。
中間報告は今年2月の「日米共通戦略目標」に基づき、日本有事や周辺事態、国際協力の各場面で「日米の役割・任務の分担」を定めている。
日本有事や周辺事態では米軍に対する「切れ目のない支援」を約束。イラクのような復興支援や国際救援活動についても「二国間協力が、同盟の重要な要素」とした。
協力を強化する分野としては、(1)無人偵察機による情報収集(2)警戒監視レーダーで弾道ミサイル関連の情報共有(3)高速輸送艦などによる輸送協力――などをあげている。
日本有事などを想定した「共同作戦計画」作成を進める方針も示した。
また、キャンプ座間(神奈川県)に米陸軍第1軍団司令部を改編した「統合作戦司令部」を受け入れ、陸自の機動運用部隊などを統括する中央即応集団(新設)と「共存」させる。米軍横田基地(東京都)にも、空自航空総隊司令部(同)を移転させ、弾道ミサイルに共同対処する「共同統合運用調整所」を設ける。
米海軍厚木基地の空母艦載機部隊(約60機)を岩国基地(山口県)に移転させ、岩国へ移転予定だった普天間飛行場の空中給油機を海自鹿屋基地(鹿児島県)へ移す。
◇中間報告の骨子
●日米同盟の能力を向上させ、地元負担を軽減
●司令部間の連携強化や基地の共同使用、共同訓練の拡大による能力向上
●キャンプ座間に米陸軍第1軍団司令部を改編した統合作戦司令部と、陸自中央即応集団司令部を設置
●米軍横田基地に空自航空総隊司令部を移し、共同統合運用調整所を設置
●米軍厚木基地の空母艦載機部隊を岩国基地に
●米軍普天間飛行場をキャンプ・シュワブ沿岸に
●在沖海兵隊7000人を削減、グアムなどに移す
<引用おわり>
キャンプ座間に米軍の「統合作戦司令部」がアメリカ本土から移転し、横田基地にも空自と共同で「共同統合運用調整所」が設置されるというものである。(沖縄の海兵隊の削減は事実上米軍基地縮小には結びつかないものだそうだ)
こうした米軍再編の背景をまとめると、次のようになる。
①世界的な米軍兵力の再配置とハイテク化によって兵力の削減を図る。
②東アジアから中東にかけて、米軍の機動的な展開を可能にするために日本の基地を強化する。
③日本の自衛隊との連携を強化し、削減された米軍兵力の補完勢力とする。
というようなことが見えてくる。すでに新ガイドライン以後、周辺事態法などで米軍再編に合わせて自衛隊の位置づけを変更してきている。その総仕上げが憲法改正なのであろう。しかし、自民党の改正案は、基本的に9条の「戦争放棄」をそのまま維持し、自衛隊の現状を追認するだけのものであるという人もいる。憲法改正によって何が変わるのかよく検討してみたい。
設問1)憲法改正と米軍再編がどうして結びつくのか?
設問2)自民党の改正案では「集団的自衛権」について、どのような解釈になっているのか?
設問3)自民党の改正案が成立したら、どのような変化が起こると考えられるか?