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Nicomachusの園 Ⅱ

2006年度総合倫理演習の問題とコメント 

第十二回 椎名林檎「アイデンティティ」について

2006-10-06 10:36:41 | Weblog
今回は椎名林檎の「アイデンティティ」を取り上げる。昨年も「幸福論」を取り上げて考察した。(こちら)いまは「東京事変」というグループの一員で復活・再登場した椎名であるが、やはり単独アーティスト時代の楽曲はいまでも異彩と凄みをはなっていることに変わりはない。それと椎名の曲のタイトルは哲学的なものが多い。「ストイシズム」とか「罪と罰」「輪廻ハイライト」などなど、まるで「倫理」の教科書に出てくるみたいなタイトルばかりである。しかもインディーズのバンドが意味もわからずに使っているような歌詞のごまかしではけっしてないのである。

人気のあった当時はなんとなく遠ざけていたが、いま、聞き直してみると、これがなかなかすごい。楽曲としては「本能」が一番だと思うのだが、歌詞がちょっと授業で取り上げるには差し障りがある。

そこで今回は「アイデンティティ」である。(歌詞は、こちらから)

「何処に行けば良いのですか
君を信じて良いのですか
愛してくれるのですか
あたしは誰なのですか
怖くて仕方が無いだけなのに」

まさに青年期の「同一性不安」を表現している歌詞である。他人を信じていいのか、自分は誰なのか。そうしたアイデンティティの葛藤をそのままストレートに言い表している。
さらに

「是迄多くの眼がちやほやとひたすらあたしを肯定した
様々な合図でてきぱきと姿を見破らなくちゃあならない
優れていて劣っていて数だとか、レヴェルとか」

この最後の部分が難解だけど、こういう「アイデンティティ」の解釈は見事だと思う。「同一性」というのは、他者を媒介にした自己肯定であり自己否定でもある。
「アイデンティティ」とは「自分は自分である」「自分は何である」という意識(自己意識)のことである。それは自己認識・自己判断ではあるが、つねに他者との関係、他者のまなざしの中にある「自己」でもあるということだ。

椎名林檎はこの曲で、「アイデンティティ」の問題をどのようにとらえたのか考察してみたい。

(設問1)「怖くて仕方が無いだけなのに」とは何を意味しているのだろうか。

(設問2)「様々な合図でてきぱきと姿を見破らなくちゃあならない 優れていて劣っていて数だとか、レヴェルとか」の部分はどういう意味か。

(設問3)なぜこの曲のタイトルが「アイデンティティ」なのか。