現在、陸海空自衛隊が運営する入浴施設は岩手6、宮城14、福島3の計23カ所。うち米軍から提供されたシャワーが4カ所あり、空自松島基地の風呂も使われているが、主力は野外入浴セットだ。1日約1200人が入浴できる。
陸自は1970年度に採用した。本来は野営する隊員用で、欧米の軍にはない日本独自の装備。全国に約30セットある。演習やイラクなどへの海外派遣で使われ、被災者支援としては95年の阪神大震災などで活躍した。
原発事故で約700人が避難する福島県郡山市の複合施設「ビッグパレットふくしま」。深緑色のテントに「男湯」「女湯」ののれんが掛かり、「練馬の湯」と白抜きされたオレンジ色ののぼりがはためく。運営するのは陸自第1後方支援連隊(東京・練馬)だ。各部隊は広島なら「もみじ」のように、地名や名物を風呂に冠している。
女湯にはベビーベッドやアヒルのおもちゃも。隊員なら1度に30人ほど入るが、ゆったりできるよう10人程度に調整する。
「湯加減はいかがですか」。こまめに声をかけ、温度を測り、アカをすくう。湯上がりには飲み物も勧める。
待合テントには3匹の小ガメが入った水槽を置く。別の部隊では焼いた餅や風船、スナップ写真を配ったりもした。訓練では夜間に防弾チョッキと銃を身に着けて設営し、テントも擬装するが、ここではサービスに徹する。
練馬の湯を訪れるのは1日約300人。震災翌日に左ひざを大けがした福島県富岡町の萩原一郎さん(78)は「車いすを押してくれ、ギプスがぬれないようビニールで覆って背中まで流してくれた。妻にもやってもらったことないよ」と隊員の心遣いに目を細める。
「お客さんの名前を覚えるようにし、笑顔を大切にしている。体だけでなく心もすっきりしてもらいたい」と入隊2年目の三宅知恵子陸士長(23)。
避難所からアパートに移ってからも「大きなお風呂がいい」と通う人や、仲良くなった隊員に会いに、車で子供を連れてくる親もいる。
女性4人を含む隊員11人の責任者、村川道雄3曹(26)は04年の中越地震や07年の中越沖地震でも入浴支援をしたが、「今回は長期の派遣で地元の方との絆が深まっている」と話す。隊員ら自身は残り湯を使い、施設の倉庫で寝る。
入浴支援利用者はピークの4月上旬には1日1万4000人に上った。今も1日約6000人が汗を流し、累計では90万人を超え、92日間で約52万人が利用した阪神大震災の倍に近づいている。【毎日新聞抜粋】