米紙が取材した認知症の「新しい予防法」
は投薬ではなかった…
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認知症の新薬を待つより、その危険因子を除外することに注力すべきだ
という考え方が世界的に優勢になってきているという。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」が認知症予防の最前線を取材した。
「認知症予防」のためにランセット委員会が示した12の危険因子を米国在住の日本人医師が解説
認知症患者が世界人口の高齢化にともなって増えている。
だが、大いに期待されていたアルツハイマー病の薬「クレネズマブ」も
臨床試験で有効性が見られないことがわかり、
またひとつ残念な結果に終わってしまった。
公衆衛生の専門家や研究者らは、遅ればせながらでも
違うアプローチに注意を向けるときだと主張している。
つまり法外な値段の素晴らしい新薬よりも、未治療の高血圧や難聴、喫煙といった、
すでに知られている危険因子を除外することに照準をしぼるべきだというのだ。
「効く薬があればよかったのですが、それだけが前に進む道ではありません」
と言うのは、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの精神科医であり、
認知症予防に関するランセット委員会の長を務めるジル・リビングストン博士だ。
修正可能な危険因子を重視することが「概念の劇的な変化」を意味すると言うのは、
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経学者フーリオ・ロハス博士だ。
すでに広くアクセスできて、強固なエビデンスもある行動や介入に照準をしぼることで、
「認知症の進行の仕方を私たちがどう理解するかを変えているのです」とロハスは言う。
「視力障害」も認知症の修正可能な危険因子
最新の修正可能な危険因子は、アメリカでのある視力障害の研究で特定された。
研究者らは「健康・退職研究」のデータを使い、
現在の認知症件数の62％はいずれかの危険因子を除外すれば防げたものであり、
そのうちの1.8％、数にして約10万件は健全な視力があれば防げたと見積もった。
それはかなり小さい割合ではあるが、わりと容易に治せるものでもあると言うのは、
米ミシガン大学の眼科医で公衆衛生の研究者ジョシュア・エーリックだ。
この研究論文の主筆者でもある。 というのも、視力検査や、眼鏡の処方、
白内障の手術はわりと低価格であり、アクセスしやすい介入だからだ。
「世界的に見れば視力障害や失明の8～9割は早期発見と治療によって
回避できるのにいまだ取り組まれていない」とエーリックは述べている。
影響力のあるランセット委員会が修正可能な危険因子に
注目する流れを牽引しはじめたのは2017年のことだ。
医師、疫学者、公衆衛生の専門家らがチームを組み、
高質な研究を何百も見直し分析して、世界中の認知症で
大半の主原因となる9つの危険因子を特定した。
高血圧、低い教育水準、難聴、喫煙、肥満、
うつ、運動不足、糖尿病、低度の社会的接触だ。
2020年、委員会は3つをさらに加えた。
アルコールの過剰摂取、外傷性脳損傷、大気汚染だ。
こうした因子が除外されれば世界中の認知症件数の4割は理論的に防げる、
もしくは発症を遅らせることができると委員会は計算した。
ランセット委員会がレポートを更新する際、
視力障害も修正可能な危険因子のリストに加えることをエーリックは願っており、
それはたしかに委員会の議題に入っていると委員長のリビングストンも述べている。
