フローベールが自ら全生涯をかけて作り出した作品だと言った「聖アントワヌの誘惑」が岩波文庫リクエスト復刊と銘打って発売されたのでさっそく読んでみた。1940年初版の渡辺一夫によるこの訳書は75年の歳月を経ても瑞々しい。
この作品がゲーテのファウストの反対極にあるという渡辺のあとがきにも賛同できる。虚無感の極致に会って、知性の限界と人間の宿命というテーマは極めて今日的でもある。ボヴォリー夫人のような通俗小説とも呼ばれる作品をものにする作者が、これほどまでに虚無的な戯曲を制作することには改めて驚きを禁じ得ない。
いかにも難解なこのような作品に時々は立ち向かうのも悪くはないように思う。
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