昭和の時代に育った人間にとってはそう珍しいことでもないかもしれないが、自分が子供の頃、普段は無駄遣いをしないようにと言われていたのに、本を買うというとほとんど何も言わずにお金を渡してくれた両親。小学生の頃、ある雑誌社の発行した分厚い年鑑を買いたいといった時はさすがにまだ早いと反対されるかと思ったが(決して豊かではなかったにもかかわらず)すぐに買ってくれたことには驚いた。親もどこからかそのたぐいの本を買っていたのだろうが、自分の欲しい年鑑を何も言わずに買ってくれたのがうれしく、しばらくの間朝から晩まで取り出してみていたらそのうちに表紙の部分が取れてしまい、母親に修理してもらったことがあった。これが自分の記憶に鮮明に残る最初の本の購入。
そのためなのか、今でもつい本を衝動買いしてしまうことがある。そういうことだから大きな書店に行くのは要注意だ。気になる本があると、分不相応な本でも買ってしまう。しかし、不思議とそういった放蕩には後悔の気持ちがわいてこない。最後まできちんと読み切ったものもあれば、しばらく積読というものもある。たとえ積読になっていてもそのうちいつかは読むからと言って正当化する。しかし最近になってだんだんとそのための時間が無くなっていることに気が付いた。だからいつまでこんな言い訳ができるかは疑問だ。ただ、よほどの稀覯本でも買い漁らない限り、本を買って身上を潰したという話は聞かない(聞こえてこない)から、この浪費はまだ許されるとも思ったりして。
そんな衝動買いに近い形で最近手に入れたのが、イギリス三ツ星レストランのシェフにして王室の担当シェフも務めたヘストン・ブルメンタール著「図説 英国王室の食卓史」。全体で300ページ、いかにカラフルな絵や写真200点ほどが満載とはいえ税込みで4,180円というのは高く、どう見ても贅沢な買い物ではあるが、この本は、一般には質素と言われるイギリス王室の食事と有名な国王とのかかわり、そしてそれらの国王にまつわる歴史とが見事な融合した、楽しい読み物になっている。
こうしてイギリス王室の歴史を、彼らが食した食事および食卓の様子を通してみると意外な面白い事実が浮かび上がってくる。どんな人間であれ、食べないでは生きてゆけない。この事実の前には国王も庶民も違いはない。食への執着も、あるいは食のもたらした悲喜劇も。違いがあるのは、どこでどのようにして何を食べたか、だろうか。
この本、確かに少し無駄遣いのところはあるが、一日数ページづつ、食後のデザートを一口味わうようにしながら読んでいくのが、元を取る最良の方法のように思う。というわけでまだ初めの30ページほどしか進んでいない。
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