
午前九時の町は
凪いだ海の静けさに似た音
人々は朝から昼へ
飛び込もうと助走している
わたしはどこへ行こうか
何を感じて
何を見つめようか―

巨木の声だけが聴こえる
いつもの公園は
風の通り道
しゃらしゃら
さわさわ しゃら
細い葉同士が擦れあい
互いを思いやっているかのように
やさしい会話が絶えず交わされていた
まるでそれは
むずかしい言葉の無い
親と子のやりとりのようだった

町中を歩いて
ようやく目があった
うす紅と紅色をした
百日紅のブーケ
青空によく映えて
いつもより町が鮮やかに見えた
鮮やかな町が
とてもやさしい存在に思えた

百日紅のなみだが
足もとに散らばっている
きみはいつから咲いていて
いつから 泣いていたんだろう
わたしは
どれだけ俯きながら
毎日を歩いていたんだろう
世界は こんなにも明るかったのに
こんなにも そばにあったのに

時には立ち止まって
空を見上げる時間も大切だと
知っていたが
いつからか いつの間にか
忘れてしまっていた
(この花束をあなたにも見せたかった)
きれいな花を見つけた時
大きな空を見上げた時も
そんなことばかりを思っている

町角にただよう
おだやかな時の流れは
ゆるやかな風となり
通り過ぎてゆく
花の香を
想いのかけらを
次の町へと 引き連れて
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