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花日和 Hana-biyori

『海辺のカフカ』上下 聞き終わり

著:村上春樹(新潮社/2002年9月刊行の小説)

audibleにて。正月休みのころに聴き終わった。木村佳乃のくせのない朗読が聴きやすい。朗読は『騎士団長殺し』の高橋一生が最高だと思っていたけれど、こちらのほうがよりフラットで私が求める「朗読」という感じがしたくらいだ。

終わりの予測が全然つかない不思議な話なので、先が気になって大掃除をしながらどんどん聴いた。

***

15歳になったばかりの少年、田村カフカ(自称)が家出する場面からはじまる。同時に、戦時中に起こった児童集団昏睡事件のエピソードが交互に展開され、これらがどうつながるのかという興味で物語に引き込まれていく。

四国の「甲村図書館」にたどり着いた少年の運命も気になるけれど、戦時中の事故で「頭が悪くなった」と言う60代の男性・ナカタさんのパートも、語り口のトーンが全然ちがっていておもしろい。字が読めないナカタさんだが、猫と会話する描写は完全に浮き世ばなれしている。

一方で、読書好きな少年カフカと、図書館司書の大島さんとの本についての会話は落ち着いて深みがあり、大島さんの描写は美しかった。

『騎士団長殺し』にも出て来たメタファー、理不尽な戦争や殺人、黄泉の国を往来するような要素があった。著者のテーマなのだろうか。

聴き終わった直後はなんだかよくわからん…という感じだったけど、全体としては面白く楽しめたと思う。

さいごまで、不思議な現象の現実的で合理的な説明はされないんだろうな、と思っていたけどやっぱりそうだった。その答えは、メタファー(暗喩)に満ちた作品全体を通して、読み手が自分なりに汲み取るしかないのだろう。

たとえば、父親に呪いのような予言を言われ続けたカフカは、酷い虐待被害者とみることができる。それは、猫殺しジョニー・ウォーカーによる暴力や、戦争の暴力、佐伯さんの恋人が受けた暴力にも共通する、無意味で圧倒的な暴力だ。

そういう、この世に存在する理不尽で絶対的な悪を生み出すのが、大島さんが大嫌いな「想像力のない人間」だという指摘をしているようにも感じた。

メタファーの示すところは解釈が色々あると思うけど、分からないなりに考えたり想像したりすることが大事なのだろうと思う。













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