ノーラ・エレン・グロース著/佐野正信訳『みんなが手話で話した島』(早川書房)
聾者やそれに関わる人たちの間ではかなり有名な本らしいですが。読書会の課題本になり、私は初めて知りました。
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マサチューセッツ州、ボストンの南に位置するマーサズ・ヴィンヤード島では、かつて生まれつき耳が聞こえない遺伝性聾の人が多く、親類や隣人には必ず聾者がいたという状態が200年以上続いた。
そのため住民の全てが手話を使いこなせたし、聾者は健聴者と変わらない生活を営んでいたという。
奇跡のようなこの島を綿密に調べあげた人類学者によるノンフィクション。
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著者は、まだろう者が多くいた子供時代を覚えている高齢住民に丁寧な聞き取り調査をしています。
のっけから凄いと舌を巻くのは、島の住民が聾者をどう思っていたか聞いたときの高齢男性のこんな言葉でした。
「別にどうとも思っていませんでした。他の人とまったく同じでしたから」p17
つまりここではコミュニケーションの不都合は無く、聾者だからと差別することはもちろん、特別親切な配慮をされたこともなかったわけです。
ある80代の女性も、当時の聾者の社会的地位をよく表す言葉を“断固とした口調でこう答えた”といいます。
「あの人たちにハンディキャップなんてなかったですよ。ただ聾というだけでした」p21
そして、先に思い出すのは彼らが腕のいい漁師だったとか、冗談好きな人だったなど個人の人柄で、聾者だったことは言われないと思い出さないほどでした。
これは目からウロコというか、この本でもっとも感動的かつ象徴的なエピソードではないでしょうか。
人が「障害者」になるか否かは、社会全体の遇し方如何にかかってくるということにハッとさせられました。
ただそれは、それだけ聾者が多かったからで、だから結局は少数になれば切り捨てられていく現実も突きつけられてつらいのですが。
読書会では、聞き取りした話の中で印象的だったエピソード、健聴者だけど手話を使っていたら聾者と勘違いされた伊達男の話とか、みんなで集まったとき猥談を手話でしていたとか、下世話でも活き活きした暮らしが感じられる話が数多く、話題になりました。