花日和 Hana-biyori

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』丸山正樹/文春文庫(2011年単行本発売、2015年文庫化)

2つの殺人事件をめぐるミステリーであり、聴覚障害者の生きる世界を垣間見せてくれる人間ドラマでもある。当事者ではなく「コーダ」“両親ともにろう者である聞こえる子”という、特殊な立場から語られるのが、客観性と新鮮味、深みがあってよかった。

*** あらすじ

高卒で警察事務をしていた43歳の荒井尚人は、仕事も結婚にも失敗し求職難のため渋々「手話通訳士」の資格を取る。彼の両親と兄はろう者で、幼いときから手話で「通訳」をしてきた荒井だが、その立場は家族の中で孤独を感じるものだった。

手話通訳士として仕事を始めた頃、埼玉県内の公園で30代の男が殺された。重要参考人として浮上したのは、17年前に荒井が通訳をした殺人事件のろう者被告人だった。荒井は当時のしこりを抱えながら、事件の真相を調べ始める。

***

ろう者(聞こえないだけで話せないわけではないという意味で当事者が自らを称する言葉)、聴者、コーダ(両親がろう者の聴こえる子)、という言葉を初めて知った。手話には主に日本手話、日本語対応手話の2種類があること、手話が日本語とは文法も違うひとつの言語であることなども。今まで知らなくてごめんなさいという感じだ。

コーダはろう者という少数派の中で更に少数派なのだ。ろう者より生きづらくはないが、ろう者には理解できない別の葛藤があり、それが物語全体を動かす原動力のようなものになっていたと思う。

「日本手話」は、抽象的な表現も可能な母国語足り得るひとつの“言語 ”で、自信をもって自分を表現したり思考力を育てるために必要、という説明が何より興味深かった。ろう者が手話を体得していないのは言葉を獲得していないのと同じで、筆談すらままならなくなるというのは考えたこともなかった。確かにそういうものだろうし、母国語習得の意味深さを考えさせられた。
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