花日和 Hana-biyori

職責と仕事

尾木ママこと尾木直樹さんの『教師の本分』(毎日新聞社)を読んでいて、1章で胸がいっぱいになってしまいました。まだ50ページしか読んでいませんが。

「生徒と我が子の入学式、どっちが大事か?」と副題があり、これだけでピンとくる人もいるはず。数年前、埼玉の県立高校の女性教諭が、自分の勤務先の入学式を休んで我が子の高校の入学式に出席し、賛否両論が起こりました。

尾木ママはこれに、自身のブログでやんわりと「いかがなものか」と批判したところ、思いがけず大炎上してショックを受けたそうです。

当時、私は「学校が有休を許したのだからいいのでは」と感じ、騒ぎ立てること自体がいかがなものか、と思った程度でした。

しかしこれは、実際に高校の教育現場で働き、実情を知っているならば確かに良くないことだそうです。高校生は、必ず志望校に落ちて不本意で入学してくる子がクラスに10人くらいはいる。表情を見れば一目で分かり、教師が1日目にその子たちにフォローや励ましの言葉をかけられるかどうかで、今後の3年間が違うといいます。

その女性教師の子も、不本意で入学するため不安があり、付き添ってもらいたかったようです。しかし尾木ママによれば、そうであれば尚更自立のためにもいかない方が良かった。自分の子は家で長時間かけてケアしてあげられるけれど、担任になったクラスの子たちは接する時間が短い。ワークライフバランスとかブラック企業という話ではなく、そこをきめ細やかに見ていくのが「教師としての職責」ではないか、と説いています。

職責というと、滅私奉公をよしとする日本の風潮を美化しているかのようですが、すべてを仕事に捧げろと言っているのではなく、ケースごとに考える必要があるとしています。NHKのど自慢に出るために保護者会の日に有休を取った例では、「おおいにけっこう」とのこと。

確かに、なんでも杓子定規に批判や勝手な判断を下すのはおかしいし、どんな問題も、できるだけていねいに一つ一つの事柄を考えていくべきでしょう。


もとい、教育現場の実際を知っている人からすれば、入学式を休むことは消防士が火事場から逃げ出すに等しい行為だったかもしれません。

今さらこの女性教師を責める気はないのですし、そうしているとうっかり自己犠牲を美化してしまいそうにもなるので注意は必要でしょう。先日、朝ドラの『半分青い』を見ていてこんなエピソードがありました。

主人公の親友が、東日本大震災で看護師として患者さんに最後まで付き添っていたために津波で亡くなってしまったというもの。用意周到に携帯で遺言まで残して。これはネットで物議を醸しました。

確かにあれは職責をまっとうする姿だったわけですが、私は、子供がいるのだから、いくら仕事でも生き残るすべを最後まで模索すると思ったので、ああまで覚悟しきった遺言はちょっと違和感がありました。まあ、ドラマなので目くじらを立てることではありませんが。

遺言はドラマ的にやりすぎの感がありましたが、思い返せばあれは職業倫理というやつだなと。本書には、こんな記述がありました。

――お互いの職務に関して職責を遂行するという信頼関係が前提にあってこそ、現代社会は成り立っているのです。本来、モラルとか道徳とは、そういう社会性を帯びたものです。
 いつも他人のために自分を犠牲にしろと言っているのではありません。みずからの仕事にベストを尽くすべきであって、それが前提にあって社会はつながり、構築されていると私は考えます。それが崩れたとしたら、いったいこの社会はどうなってしまうことでしょうか。 引用P33より


消防士の夫を持つ人が友人にいまして、彼女は夫から、「大災害が起きたら家にはいられないので、家や子どもたちを頼む」と言われているそうです。自分の家族より職責をまっとうしなくてはならないし、そうしてくれるおかげで安心な社会が守られている。と考えさせられました。

公務員でなくても、職務・職責はいわば仕事上のプライドでもあります。自分が必要とされる喜びも含まれるでしょう。難しい問題ですが、常に慎重に考えていくことだと思います。

* * * 

この章の最後に、尾木ママ自身が結果的に職務放棄(子どもの交通事故で修学旅行の付き添いに行けず)したときのことを書かれていますが、周囲の先生方の助けによって、よりよい教育的なものになったそうです。その箇所を読んでいて、ちょっと泣きそうになりました。
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