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花日和 Hana-biyori

読書会『燕は戻ってこない』#3


若干ネタバレありの『燕は戻ってこない』(桐野夏生)オンライン読書会備忘録の続きです。

けっこう端折って口調も変えてます。間違っていたら教えて下さい。

このたびは「身ごもらない基」って言葉が耳に残りました。

***

●はづきさん
みんな言ってるんですけど、なんか異常に読みやすい。

自分の場合は視点人物となる3人(リキと草桶夫妻)、他のキャラクターもいますが、割と全員にそれぞれちょっとずつ共感できる。言ってることは分からんでもない、みたいな部分があった。

話のテーマとして生殖医療が貧しい女性を搾取するとか、自分が絶対に身ごもらない基はすごく身勝手な考えだとか、そういうものを含みつつ、つるつる読めてしまう。

なので本当はもっと考えて読まなきゃいけない社会問題的なテーマがしっかり入っているのに、顔と名前だけ知ってる知り合いの身の上話を好奇心半分、心配少し、あとは人ごと感でふんふんと聞いて終わってしまった感じがします。

■リアルだけどラストはファンタジー

けっこう大それた事をしているけれど、視点人物3人の腰が定まってないのは逆にリアル。絶対に子どもが欲しい基も妊娠が発覚したら浮かれ半分不安半分みたいにもなるし、自分の体が一番変化するリキもどうしようってなるし。

はじめは全然蚊帳の外だった悠子も、途中もう別れようかなってなるのも、生まれてみたらよし二人で育てるかって、あっさり手のひら返すのもリアルだった。

そういうどうしようもない感じでもにゃもにゃ進んでいくのが、それこそ地に足のついたリアル感があるなと思っていた。

なので一番最後はちょっと飛躍というかファンタジーみたいになっちゃって、ん?って感じはある。

ファンタジーで投げっぱなしだけど、ある意味希望的な終わり方にしていた。それは身勝手な思惑で生まれた二人の子供がこれから苦労して不幸な目に遭いますよ、とするよりは、楽観的にポーンと投げちゃった方が、子供たちに与えられるエールみたいなものとして正しいのかなと。


■「子に継がせたい」は一種の不老不死願望かも

お金持ちとか政治家とか、企業を起こした人とかが自分の血縁にその財産を継がせるのは、一種の不老不死願望みたいなものかなと思ったことはある。

自分の血と肉を分けた子供にそれが伝わっていくなら、言ってみれば自分がずっと生きていくようなもんだと。死んだ後の財産を適当には出来なくて、この人に絶対継がせたいという意思がある。それはやっぱり自分が続いていくことを念頭に置いてるんだろうなと。

そういう意味で基も、バレー一家で生まれたサラブレットの自分が2世で、3代目はどうなるか、「自分の遺伝子のバージョンアップを見てみたい」とか正直にぶっちゃけていて非常に傲慢。でも身ごもらない体であれば自分の感覚としては分からないのかも。

もし自分の遺伝子を継ぐ存在がこの世にもう一つ生まれるなら、それがどんな風に育っていくのかを見たいという欲望は、ちょっと分からないでもない。

ただすごく傲慢なのは、健常な子が生まれてくることを疑ってもいない。だからたぶん、子供の素晴らしい面を見たら「さすが俺の子」、そうでもないところは「やっぱりあの女の子だから」と思うだろうし、むしろこの先が読みたい。

この先をリアルに書くと多分嫌なことしか出てこなさそうだから、このファンタジーな終わり方なのかなと。

■読みやす過ぎる弊害

あと本当に読みやすすぎて、本来考えなきゃいけないことも、ただのエンタメで読んでしまったんじゃないかという不思議な座り悪さがずっとある。

本当に生殖医療のことを考えたいんだったら、もっとちゃんとしたドキュメンタリーでも読んだほうがいいかもしれないとか、ちょっと考えたりもしました。

***

ありがとうございました!

私も、読みやすいのは良いけれど逆に不安にもなり同感です。そしてどの登場人物の思いもちょっとずつ分かるって気持ち、私もありました。それだけ説得力のある文章ってことでしょうね。


 
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