城北文芸 有馬八朗 小説

これから私が書いた小説をUPしてみようと思います。

慇懃無礼part2

2022-04-22 11:03:07 | 小説「慇懃無礼」

 自動車教習所の人が組合事務所に勧誘のビラを持ってきた。隣の支部からの紹介だという。私の働いている支部は組合員の減少で専従者が置けなくなり、自動車を運転する人がいなくなってしまった。毎日使われない自動車を見ていると、早く免許をとったほうがいいと思うようになっていた。バイクで三十分程かかるのだが、他支部の紹介だから悪いところではなかろうと思い、行ってみることにした。
 郊外だから多少地所は広いのかと思って行ってみると、さして大きくもない川のふちにあって、狭そうな教習所だった。大雨が降ると川が氾濫して水びたしになりそうなところだった。教習所ってのはこういうところにつくられるものなのだろうかとふと思った。事務所は二階にあって、一階は待合室だった。これなら川が氾濫しても大丈夫だ。
 受付の女性は若くて、ちょっと魅力的だった。パソコンのようなものに向かってキーボードをたたいていた。私が彼女の前に立っても気がつかないのか、キーボードをたたいていた。色白のグレーの制服がピタリと体の線に沿っていた。私は二十年前に会ったことのある大スーパーの支店の事務員を思い出した。その人は黒い服を着て、黒い網タイツをはいていた。
 カウンターのうしろを見ると、年配の女性の事務員が書類を見ていた。涼しそうな薄水色の半袖シャツを着ていた。下は白っぽいスラックスだったか、黒のスカートだったか、思い出せない。シャツは腰の外に出ていた。実用以外の何も感じない。二種類の制服があるらしい。ずいぶん感じが違うものだと思った。
 受付の女性は私と向き合うと、「紹介ですか」と尋ねた。私はなぜかドキッとして頭が混乱した。組合事務所に営業に来た人は、これから組合員優待のチラシを作るので職場に配ってもらえないかと言っていた。「紹介です」と言えば少し安くなるのかなという思いが、取り乱した頭の中で点滅していたが、私の口からは「紹介ではありません」という言葉が発せられていた。
 渡された袋の中身をあとで家に帰って見てみると、「紹介カード」というのが入っていて、そのカードを持って行った人は料金が割り引かれることになっていた。
 黒っぽい背広を着た男性社員が受付の女性を呼び止め、何事かささやいていた。


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