城北文芸 有馬八朗 小説

これから私が書いた小説をUPしてみようと思います。

慇懃無礼part5

2022-04-22 10:56:42 | 小説「慇懃無礼」


 実施訓練。はじめて自動車を運転する。
 横に男の人が背を丸めてすわっている。ATはやさしいのだが、最初はブレーキの加減がわからないので、急ブレーキになる。教官が肩を丸めてつんのめっている。
 みきわめ印がもらえないと、何度も同じ練習をくり返す。くり返す度に余分の教習料を払うことになるので、教習料をふんだくるためにわざとむずかしくしているのではないかと腹立たしくなることもある。
 仮免前に二度も連続失敗して、いつまでたったら終わるのか、今度もだめかと思いながら、親切そうな教官に当たることを夢見ていた。来たのはこわそうな顔をした男だった。ブルドックという言葉がよく当てはまりそうな顔だった。ちなみに、私の知る限り、すべての教官は男だった。
 「そこは急に曲がっちゃいけないって、何度言ったらわかるんだよ」
 教官の中には不快な印象を与える人もいる。もっとわかりやすく教えろと言いたくなる。待合室で若い女性が友だちらしい女性に、嫌いな教官の話をしていて、「涙が出てきたよ」と言っていた。さもありなんと思った。
 人は見かけによらぬもの。人相とは丸きり違うことがままある。ことに男の場合は何例も見てきた。こわい男でも、一面ではやさしい面を見せることもある。おれ自身がこわい顔をしている。が、外では話もできないほどのシャイである。
 「ラインを踏んでるぞ。ポールの位置が離れ過ぎている」
 やれやれ、まただめだなと、おそるおそるこわい顔をのぞきこむ。ブルドックのような顔をした教官はむずかしい顔をして何やら紙に書いている。そして、おもむろに、シャチハタを取り出し、ハンコを押した。その時、ちらっとニャッとした。


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