村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

『ねじまき鳥クロニクル』の英語版は改訂版である

2015-04-08 22:27:40 | 村上春樹を英語で読む
『ねじまき鳥クロニクル』原著は三分冊で1994-5年に刊行された。それに対して英語版は一冊本で1997年に刊行された。英訳者Jay Rubinの著書『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』(p.407)によると、全訳原稿も準備されたそうであるが、実際に刊行されたのは縮約版である。英語版にはTranslated and adapted from the Japanese by Jay Rubin with the participation of the author(著者の参加を得てJay Rubinにより日本語から翻訳、改作された)とある。つまり、ある意味で改訂版である。若草書房の根本氏は、英語版の方が作品の出来としては良いのではないか、と言っている。
 この作品によって村上はアメリカでブレークするわけであるが、逆に言えばこの作品の時点では、まだ、同じく三巻本の『1Q84』の英語版のような完訳版は出してもらえなかった、ということである。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に関しては、英訳で省略された部分を拙著『村上春樹はどう誤訳されているか』第4章で詳説した。
 さて、本項では、『ねじまき鳥クロニクル』の原作と英語版がどのように異なるのかを具体的に示していく。
 筆者は文学研究者ではないので、試みていないが、以下で説明する縮約版『ねじまき鳥クロニクル』の文学的評価をどなたかやっていただけないであろうか。村上春樹で、論文を書こうとしている学生にとって面白いテーマになると思うのですが。
 何回かに分けての連載になる予定であるが、まとめて読みたいとおっしゃる方は、拙著『村上春樹はどう誤訳されているか』第2章をご覧いただくと幸いである。コマーシャルである。

 今回は「章立て」について。

原著第1部は十三章からなり、英語版も十三章からなる。原著第2部は十八章からなるが、英語版第2部は十六章からなる。原著第3部は四十一章からなるが、英語版第3部は三十九章からなる。
 英語版において、章単位で省略されているのは、原著第2部15(正しい名前、夏の朝にサラダオイルをかけて焼かれたもの、不正確なメタファー)と、原著第3部の26(損なうもの、熟れた果実)である。
 原著第2部18(クレタ島からの便り、世界の縁から落ちてしまったもの、良いニュースは小さな声で語られる)は章としては省略されているが、その一部が英語版第3部に組み入れられている。
 また、英語版第3部は原著第3部の3(冬のねじまき鳥)から始まる。原著第3部の1(笠原メイの視点)はその一部が英語版第3部の5に組み入れられて、章としては省略されている。原著第3部の2(首吊り屋敷の謎)は英語版第3部の7に移動されている。
 そこで、第2部の英訳版の章番号は15,16が原著の16,17と対応し、第3部の英語版の章番号は1から6までは原著とは2つ、8から24までは1つ、25から39までは2つずつずれることになる。