村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

「抽斗」と「テープレコーダー」の関係性

2015-12-31 10:47:26 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

二人が引き上げてしまうと、牛河は机の抽斗を開けてテープレコーダーのスイッチを切った。
After they had left, Ushikawa pulled open a desk drawer and switched off the tape recorder inside.

原文にないinsideが追加されている。日本語頭の我々は、抽斗の「中に」テープレコーダーが入っているものと思うが、英語頭の訳者にはinsideが必要なのであろう。


「煙草には火はついていない」は英語で?

2015-12-31 10:26:02 | 村上春樹を英語で読む
以前にも挙げた例であるが、再掲する。

『1Q84』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

「煙草は吸わないでいただけますか、牛河さん」と背の低い方の男が言った。
 牛河はデスクをはさんで向かい合っている相手の顔をしばし眺め、それから自分の指に挟まれたセブンスターに目をやった。煙草には火はついていない。
“I wonder if you would mind not smoking, Mr. Ushikawa,” the shorter man said.
Ushikawa gazed steadily at the man seated across the desk from him, then down at the Seven Stars cigarette between his fingers. He hadn’t lit it yet.

「煙草には火はついていない」がHe hadn’t lit it yetと訳されている。原文では「牛河は」で始まった文が、「火はついていない」と主語が変わっているが、英語頭の訳者にはそれが不自然と感じられて、主語が統一されている、と考える。

「秘密が漏れる」は概念である。

2015-12-31 09:57:59 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。連続した会話であるが、(1)(2)と番号をふる。下はそれぞれの英訳である。

(1)「秘密を守ることは私の仕事の基本中の基本です。心配することはないです。話が私の口から外に漏れるようなことは絶対ありません」
“Keeping secrets is what my profession is all about. There is nothing to worry about. I assure you that no one else will ever hear about this from me.”

「(秘密が)漏れる」はhear about thisと訳されている。

(2)「もしその秘密が漏れて、情報の出所があなたであることがわかったら、何かと不幸なことになります」
“If it does get out, and we find out that you were the source, this could lead to something unpleasant.”

「秘密が漏れて」はget outと訳されている。「出ていく」と訳されているので、直訳に近いと考える。
 (2)の「秘密が漏れて」は仮定の話なので、「概念」であるので、ほぼ直訳と言える訳になっているが、(1)の「(秘密が)漏れる」は話者の決意で「実体」と考える。「実体」としては「秘密が漏れる」ということは、「漏れる」だけではなく、「誰かに知られる」ことを含む。そこで、(1)ではno one else will ever hear about this(誰もこれについて知ることはない)と訳されていると考える。


「ズボンの膝」(2)

2015-12-31 09:28:39 | 村上春樹を英語で読む
本ブログ3月27日の記事の続編である。


『神の子どもたちはみな踊る』に次のような箇所がある。

順子は右手で三宅さんのチノパンツの膝の上あたりをぎゅっと強く握りしめた。
With her right hand, she gripped Miyake’s knee as hard as she could through his chinos.

原文では「場所」を「握りしめ」ているのだが、英語では「チノパンツを通して」「膝」を「握りしめ」ている。

「用事」は英語で?

2015-12-30 11:25:41 | 村上春樹を英語で読む
『1Q84』に次のような箇所がある。下はその英訳である。

もし小松の方に用事があれば、電話をかけてくるだろう。電話がかかってこなければ、それは用事がないということだ。
If Komatsu had something he needed to discuss, then he would surely call. No calls simply meant he didn’t have anything to talk about.

一つ目の「用事」がsomething he needed to discuss、二つ目の「用事」がanything to talk aboutと訳されている。「電話をかけてきた」ということは、小松が天吾と何かについて「議論」したいからで、より特定的なdiscussが用いられているが、「電話がかかってこない」の場合は一般的なtalk aboutが用いられている。
 何かが「ある」場合は「特定的な語」が用いられ、「ない」場合は「一般的な語」が用いられているような気がするが、今後の課題である。