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村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

「ストリーキング」と「ストライキ」

2015-05-02 18:09:38 | ことばの意味を実感する
一時「ストリーキング」という現象が話題になったことがありました。通りなどを裸で走り抜けることです。英語でstreakingですが、この言葉自体に「裸」の意味はありません。英語のstreakは「線状にさっと移動する」ことを表します。つまり、「ささっと走り抜けていく」ことです。そこで、古英語の時代から17世紀ころまで、streakは「一行、一筆」の意味でした。書家が、筆を素早く動かしている様子を思い浮かべて下さい。
 今の英語では、漢字の「一画」をstrokeで表しますが、この語はstreakと同系です。これも筆をさっと動かしていることです。水泳やテニスなどの競技で用いられる「ストローク(stroke)」という語も同様です。腕が素早くさっと動いているのです。テニスで「ストローク」をするのは、ボールを「打つ」時です。そこで、この語が13世紀に英語に入ったときには「打つこと、一撃」の意味でした。脳卒中の「発作」も英語でstrokeですが、これは中世において病気が天罰と思われていたことの表われで、「(天からの)一撃」と考えられたからのようです。そういえば、「雷(lightning)」が「落ちる」場合も同系のstrikeですが、これも「(天からの)一撃」でしょう。
 野球で審判が言う「ストライク(strike)」は、もともと「打て」の意味のようですが、バットの動きが、筆を素早く動かしている様子とよく似ています。つまり、テニスの「ストローク」と同じです。また、「鉄は熱いうちに打て」の「打て」は、「上から下へ」のイメージですが、英語でStrike while the iron is hotです。これを見てもわかるとおり、英語のstrikeは上のstreakやstrokeと同系で、この語の古英語の時代から15世紀ころまでの意味の一つは「進む」でした。これも、「線状にさっと移動する」ことを表しています。「時計が12時を打った」もThe clock struck twelveですが、これは除夜の鐘を鳴らしているところを思いうかべると、なぜstrikeが用いられているか理解できるでしょう。そう言えば、「マッチを擦る」もstrike a matchですが、これも同様です。また、アメリカの作曲家ジョージ・ガーシュインの曲にStrike Up The Bandがあります。この場合のstrike upは「(演奏を)始める」の意味ですが、演奏を始める時にタクトを振る動作が、マッチを擦る動作と似ていなくもないでしょう。バンドに火を付けると考えてもいいのではないでしょうか。
 さて、日本語で「スト」と略される「ストライキ」も英語ではstrikeですが、なぜ、この語が、仕事を拒否することになるのでしょうか。これは海事用語でstrikeが「帆を下ろす」ことを表すことから来ているようです。帆が下の方へ「線状にさっと移動する」のです。「帆を下ろす」ことは、船を止めることですから、船員が仕事を拒否して「同盟罷業」になるのです。ただし、これは「一説」のようです。