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村上春樹を英語で読む

なぜ、こう訳されているのかを考える。

「金権政治」と「冥王星」

2015-05-08 16:03:14 | ことばの意味を実感する
「金権政治」は英語でmoney politicsと言いますが、ラテン語に由来するplutocracyで表わすこともできます。頭のplutoは、「富、金」の意味なのですが、もともとは「溢れる」の意味です。そこで、「溢れる富」を表すようになりました。残るcracyは、訳語上は「政治」に当たるのですが、意外なことに、この部分は英語のhardと同系です。もともとは「固い」の意味です。語頭の音の変化は、「韓流」という言葉を、日本語風に「かんりゅう」と読む人もいれば、韓国語風に「はんりゅう」と読む人がいるのと同じです。そこから「力、支配」になり、「政治、政体」を表すようになりました。つまり、plutocracyは「金支配」です。ちなみに、「民主主義」の「デモクラシー(democracy)」のcracyももちろん同じです。(「デモクラシー」については次項参照)
 また、「蟹座」は英語でcancerですが、この語もcracyと同系で、「(蟹の殻が)堅い」のです。ちなみに、cancerは病気の「癌」でもありますが、これは病変部分の血管や組織が蟹の脚に似ているからです。
ところで、plutoを大文字で始めると準惑星の一つの「冥王星」を指します。「冥」の字は「死者の面を覆う巾」『字通』で、そこから「暗い、深い」の意味になり、「冥界、冥土」のように、死後の世界を表すようになりました。そこの「王」が「冥王」です。太陽系の一番遠くにある準惑星がplutoと名付けられていることを実感するには、「遙か彼方にある死後の世界」のイメージが必要です。また、その惑星に「冥」の字が付くのも当然でしょう。
 それでは、上の「富」とどう関係があるのでしょう。ブラッド・ピット主演のハリウッド映画「トロイ」をご覧になった方はご存知でしょうけれど、古代ギリシャでは人が亡くなるとその目の上にコインを置いて火葬する習慣がありました。死後の世界(=冥界)へ行ってもお金に困らないようにということです。死者がそのようにお金を持ってくるので、「冥王」はそれを取り上げ「富」を持っているのです。日本にも「地獄の沙汰も金次第」という言い回しがありますが、このような発想は万国共通なのでしょう。
 上で、plutoはもともと「溢れる」である、と言いました。空から溢れてくるものと言えば、「雨」です。英語にpluvialという形容詞があり、意味は「大雨の」です。頭のpluがplutoと同系です。水が溢れると「雨」になり、金が溢れると「富」になるのです。アメリカの昔の歌にPennies From Heavenがあります。Ev’rytime it rains, it rains pennies from heaven.(雨が降るときはいつも、天からお金が降ってくるようだ)と始まります。「天からお金が雨のように降ってくる」わけです。西欧文化で、「雨」と「富」とが、「溢れる」の意味を仲介として、深いところで繋がっていることを実感させる曲です。