本作は、諜報機関の暴走と内部告発者、という(マスコミがよくやる
ような)ステレオタイプのドラマ仕立てに見えることを慎重に避けて、
本質的な問題を"暴露"している。
カメラ(ローラ)は、記者(グレン)によるスノーデンからの聞き取りや、
公開に際しての極めてデリケートな要素の相談を軸に、"暴露"の
準備段階からその後までを追う。
常に緊張がつきまとう。
情報通信のプロではない記者に対する説明、の形で、すなわちかなり
噛み砕いて語られる盗聴・監視の実態。開いた口が塞がらない。
スノーデンを援護する人々や、スノーデン以前に戦っていた人々に
共通する視点は、国家権力によるプライヴァシーの侵害がもたらす
自由の抑圧への対抗である。
そういう健全な対抗力があることがUSの強さだと思うのだけれど、
それをあらゆる手段でねじ伏せようとする国家権力が透けて見える。
監督の危機意識はその辺りにもあるのではないだろうか。
スノーデンが語る "以前のインターネットは自由であり、誰もが
意見を表明できる場だった" という話。
「インターネット・ガバナンス」に書かれていた懸念を思い出した。
恐れが、自由を抑圧しようとしているのかも知れない。
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/citizenfour/
(2016.6.19)
以下雑感。
良し悪しは別として、NSAがそこまで"やっちゃった"雰囲気が頭に
浮かんだりした。
想像:
9.11の発生を看過したという大きな失敗の責めを受けたCIAが、
再発は絶対にならん、とNSAに指示を飛ばす。
テロリストの潜伏は巧妙。全部のデータを洗わないと・・・
「データの中身を全部"意識"するわけじゃないし、アラートが
出たところだけ見るのだから問題ないでしょ(技術者と官僚)」
大トラブル後の行き過ぎた再発防止策、国家権力に限らず、
どんな組織でもそういうことをやりかねない…。
さておき。
データは全部保存されている。
過去に遡って、後付けで被疑者を「検索」することもできる。
一定条件に対する一致から、その人物が不適切な行為をしていた
という仮説に基づいて、対抗措置を起動する可能性への懸念。
…今は、そこが自動化されていないからまだいい。
対抗措置を起動するまでの間、たとえ恣意的な力が働いたりするに
せよ、人的な意思決定が何段か入っているのだから。
AIが入って、意思決定の何段かが自動化されたらどうなんだろう。
そういう"嫌な予感"もこの映画から受け取った。
「そう簡単に自動化しないでしょ」?
技術者は、時に、純粋に目的達成に邁進する。達成度の高さに陶酔する。
システムの向こうにいる「人」を忘れて。
組織が、目的の与え方を間違えれば、そうなる可能性は常にあるだろう。