松竹創業120周年
秀山祭九月大歌舞伎
歌舞伎座
朝11時から、昼夜の間が30分で、終了が21時過ぎ、10時間にぎっしり詰まった
超高密度公演。さすが秀山祭、感情の機微、波が観客席に押し寄せる。
ベテランの重厚感、負けてない若手の成熟。
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<昼の部>
一、双蝶々曲輪日記 新清水浮無瀬の場
魁春さんの都がかわいくて、機知に富んで腹が据わっててすごく魅力的。
梅玉さんの与兵衛、軽やかな中にいろいろあった人生の重さが透ける。
とてもとても大人なカップル。
与兵衛の傘、鳥がぶら下がっていてかわいい。
この傘でメアリーポピンズしてた。
二、新歌舞伎十八番の内 紅葉狩
金太郎さんの山神が、予想を超えるすばらしさ。
三、競伊勢物語
これは初見だなぁ、と思ったら「歌舞伎座では半世紀ぶりの上演」とのこと。
物語の素材は非常に典型的な古典悲劇なのですが。
何か現代の感性を感じるところがあった。主要人物がみんな優しいからかな。
ほんとうに優しくて、他人を思いやってばかりいる人たちで。
めぐりめぐって辛い成り行きに。
でもそこに「誰かのため」という芯があって、浄化の清涼感がほの香る。
菊之助さんの娘信夫、翻弄され哀しみながらも運命を受け入れていく。
東蔵さんの母小由との、勘当されようとしての遣り取りが切ない。
東蔵さんの終盤の嘆きが圧巻、吉右衛門さんの紀有常の、一通りでない
受け止めの様とともに。重厚。
<夜の部>
一、通し狂言 伽羅先代萩
玉三郎さんの政岡は、前半は受身・耐える感じ、「でかしゃった」でも
まだ蓄積が続いて、裡に積もった感情が八汐成敗で放出される。
竹の間、着物の赤と内掛けの配色のコントラストが、「時代劇」の一役柄に
埋没しない存在感。
菊之助さんの沖の井が超カッコいい。声が気質を物語る。
八汐はベテラン立役がやるのが常(それで少し喜劇エッセンスが入る)ですが、
今回歌六さんは「立役の役者さんがやってる」感じではなくて、八汐そのもの。
うまい。
児太郎さんの小槙も御殿の空間で他の役者さんに負けてない。
ビジュアルのハイライトは「床下」。
荒獅子男之助、松緑さん。徹底的に型で魅せる。 お声もすてき。
吉右衛門さんの仁木弾正が、こわい悪。引っ込み、悪の美、痺れた。
「対決・刃傷」は染五郎さんの細川勝元、流れるような長台詞がすごい。
言いよどまない正義の人。停滞を打ち破る爽快感。
負傷した外記に、後日の安心を告げ、その死の価値を高く高く意識させて
いく思いがじんじん来る。「外記、めでたいのぅ」で涙。
「花水橋」や「刃傷」の立回りの構成の美しさも記憶に残る。
ねずみさんもすごかった。
あと、鶴千代の子役さんの発声に舌巻いた。
(2015.9.19)