ぐるぐる・ぶらぶら

歌舞伎と映画と美術と読書の感想

【読書】日本人はなぜ存在するか

2013-12-25 00:00:56 | 読書記録

「日本人」というのは、どういった根拠に基づいてそう呼ばれるのか、
法の規定や人々の思うであろうところを列挙し、哲学・歴史学・心理学・
認知科学等々による論証を引きつつ、実はそれほどには確かでないと、
著者はいう。

それは、「日本人」に限った話ではないのだが、他国と比較してより
厳密さの薄い定義のようだ。

批判やシニカルな視点で著しているのではない。
おそらく著者は、いわゆる日本人が、「日本人」という定義への拘りが
強くなりすぎることへの懸念をもってこれを書いたのではないだろうか。

科学・思想が未発達な状況においては、二極化して善悪・甲乙を断じる
ことは容易だし、進歩に必要なことだったのだろうけれど、様々なことが
判明したり過去の記録が蓄積された現代においては、選択肢が多すぎる。
「選ばなくてはならない」という新しい不自由、と著者は指摘する。

特定の価値観を以ってしないと、言い換えれば、何かに拘らないと、
選択できない。
拘りの重点は多様化・重層化して、複数人の間での一致がどんどん
難しくなっている。
択一の難しさ。
それゆえ起こる迷いや混乱や軋轢を、あらゆる場面に見出すことができる。

民俗学の視座は、優しい。
ある姿を見、どうしてそうなのかを紐解き、根本にある人の心を
みつめる民俗学的な視点は、二極型の思想とは異なる世界を作るのに
必要なもののように思われた。

----
日本人はなぜ存在するか
與那覇 潤 著
集英社インターナショナル
http://www.shueisha-int.co.jp/archives/3006 より
歴史学、社会学、哲学、心理学から比較文化、民俗学、文化人類学など、
さまざまな学問的アプローチを駆使し、既存の日本&日本人像を根本から
とらえなおす!

(2013.12.22)


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【文楽】博多座 文楽公演 昼の部

2013-12-24 14:02:53 | 文楽

◆解説 文楽を楽しもう(豊竹 靖大夫)
 
◆近松生誕三六〇年 近松門左衛門 作
  女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)

女房お吉    吉田 和生
河内屋与兵衛  桐竹 勘十郎
河内屋徳兵衛  吉田 玉女
徳兵衛女房お沢 吉田 勘彌

「徳庵堤の段」

豊竹 咲甫大夫
竹澤 宗助

騒動の場。
自分が思ったようにふるまう人々と、常識的で他人を気遣うお吉との
対比が際立つ。
片肌脱いだり、蹴飛ばしたりといった動作の表現のテンポがよくて
こういう場面は随所に人形遣いの技が駆使されているんだろうな。

「河内屋内の段」

中 豊竹 睦大夫
   豊澤 龍爾   
奥 竹本 津駒大夫
   鶴澤 寛治

津駒大夫がすばらしかったです。

「豊島屋油店の段」

切 豊竹 咲大夫
   鶴澤 燕三

娘たちのしぐさが愛らしい。
母に髪をやってもらう場面は情愛に満ちている。
そうしている中で折れる櫛の歯。
あるいは世話女房として夫に従いながらも意見もするいい夫婦
の表現の中でさりげなく置かれた「立ち酒」のシーン。
温かい一家のやりとりの中に差し挟まれる験の悪いことがらに、
この先の悲劇が思われてやるせなさが上ってくる。

そうしてやってくる河内屋の夫婦。
彼らは息子が行う非道など想像だにせずに、ひたすら子供を思う親。
その辺りののギャップがドキドキを強める。

殺しの場面、凄惨。
滑り方がすごい。早いし長い。
逃げ惑うときの足の動きの切迫感。
追い討ちをかける切羽詰った義太夫。
息を呑むとはこのこと。

歌舞伎での上演よりも、人物像がシンプルで、それが却って
人の業の重さや巡り合わせの不幸、根底にある静謐を感じます。
与兵衛は本性は弱いが強気のフリをしている暴れ者だし、
お吉本人の罪のなさ、巻き込まれる立場の気の毒さが強い。

◆日高川入相花王

清姫 豊竹 呂勢大夫
船頭 竹本 文字久大夫
ツ 豊竹 咲寿大夫
レ  竹本 小住大夫
    鶴澤 清治
  鶴澤 清志郎
    鶴澤 清馗
    鶴澤 清公
    鶴澤 清允
清姫 豊松 清十郎
船頭 吉田 玉志

ダイナミック。
川を渡るところの表現に舌を巻く。

変化のタイミング、いつか?いつか?と思いながら注視し、
おお、来た!、、、戻った、、来た!、、1人の人間が
人と化身を行ったり来たりして同一の者であることが知れる。
継ぎの部分がみごとでした。

(2013.12.22)


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気になる本 2013/12/16-23

2013-12-17 23:14:05 | 気になる本

2013/12/21

女優きもの/家庭画報特選きものSalon編集部/2,100円/世界文化社

郷土人形西・東 民俗文化に魅せられて/不破 哲三/2,100円/里文出版

「おネエことば」論/クレア・マリィ/2,100円/青土社

2013/12/20

盛り場はヤミ市から生まれた/橋本 健二/2,940円/青弓社
   敗戦直後、非公式に流通する食料や雑貨などが集積し、人や金が行き来する
   空間として形成されたヤミ市は、戦後の都市商業を担う人々を育て、新たな
   商業地や盛り場を形成した。ヤミ市が戦後日本に与えたインパクトを描く。

歌舞伎型の真髄/渡辺 保/2,730円/KADOKAWA
   型の芸術といわれる歌舞伎。型が違えば、動きはもとより、役者の扮装、
   舞台装置、登場する人物の人物像までが大きく異なる。歌舞伎評論の泰斗が
   膨大な文献をひもときながら、人気20演目の型の違いや変遷を追う。

死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」/長沼 毅/945円/講談社ブルー・バックス
   超高温、超高圧、高塩分、強放射線、強重力…。過酷な環境をものともしない
   極限生物たちの驚異の能力と、不可解きわまる進化。そこにある、「不安定な
   炭素化合物」として40億年も続いた生命という現象の本質に迫る。

気候変動はなぜ起こるのか グレート・オーシャン・コンベヤーの発見/ウォーレス・ブロッカー /903円/講談社ブルー・バックス
   海洋は水温と塩分濃度の違いによって、約1000年のオーダーで沈み込みと
   湧昇をしながら地球規模の大循環をしている。これを「グレート・オーシャン
   ・コンベヤー」と名付け、ミステリアスな気候変動との関係を明らかにする。

記憶のしくみ 下 脳の記憶貯蔵のメカニズム/ラリー・R.スクワイア、エリック・R.カンデル/1,680円/講談社ブルー・バックス
   記憶するとはどういうことなのか? ノーベル賞学者による新しい脳と記憶の
   テキスト。下は、意識した記憶、短期記憶と長期記憶、学習と分子機構の関係
   から、記憶の本質に迫る。【「TRC MARC」の商品解説】

信頼と裏切りの社会/ブルース・シュナイアー/4,410円/NTT出版
   社会は信頼をもとに構築されている。一方、社会の中には必ず、信頼を悪用
   して自分の利益にしようとする裏切り者がいる。コンピュータ・セキュリティ
   の第一人者が、社会における信頼の重要性とその働きを包括的に考察する。

「行動観察」の基本/松波 晴人/1,890円/ダイヤモンド社
    言葉は語らない、行動はすべてを語る-。マーケティング、製品・サービスの
    企画&開発などに役立つ「行動観察」について、豊富な事例をもとに、行動
    観察が必要とされる背景から学問的な根拠、実践方法までを解説する。

「勇気」の科学 一歩踏み出すための集中講義
  /ロバート・ビスワス=ディーナー/1,680円/大和書房
    「勇気」は、誰もが習得できる「困難な状況に立ち向かう行動意志」。今、
    自分を変えるための「勇気」を学ぼう。心理学の実践分野の第一人者による、
    最先端の科学的成果を盛り込んだ、一歩踏み出すための集中講義。

グローバリゼーション・パラドクス 世界経済の未来を決める三つの道
  /ダニ・ロドリック/2,310円/白水社
    ハイパーグローバリゼーション、民主主義、そして国民的自己決定の3つを、
    同時に満たすことはできない。この世界経済のトリレンマをいかに乗り越えるか?
    世界的権威が、資本主義の過去・現在・未来を診断する。

ダライ・ラマ般若心経を語る (角川ソフィア文庫)/ダライ・ラマ/714円/KADOKAWA

2013/12/18

近松浄瑠璃の作劇法/原 道生/14,700円/八木書店古書出版部
    中世的な物語世界を近世的に捉え直した時代物、庶民の生きざまに悲劇を
    見出した世話物など、現代でも度々上演される近松悲劇のドラマツルギーを
    究明する。【「TRC MARC」の商品解説】

猟奇 復刻版 3巻セット浜田雄介 監修/63,000円/三人社

原始仏典 2第5巻 相応部経典 第5巻/中村 元 (監修/10,500円/春秋社

パリのヴィンテージロマンティック図案/2,310円/パイインターナショナル

子どもと悪/河合隼雄、河合俊雄/903円/岩波書店

滅亡へのカウントダウン 人口大爆発とわれわれの未来 下/アラン・ワイズマン/2,100円/早川書房
    人間は成長なしに繁栄できるか? 人口減少に転じた日本の希望とは?
    世界的な環境ジャーナリストが、20余カ国を旅しながら考える。人類が
    直面する「人口過剰」の実態に迫るノンフィクション。索引・参考文献付き。

認知症ケアの突破口/梅本 聡/1,890円/中央法規出版
    なんでもやってあげる介護から脱却し、日常生活支援へ-。それはすなわち、
    活きて、生きる姿を支援すること。さまざまなエピソードから、認知症ケアや
    支援専門職の役割について考える。『おはよう21』連載をもとに書籍化。

2013/12/17

大江戸商売ばなし (中公文庫)/興津 要/740円/中央公論新社
    棒振り商いから大店、大道芸に至るまで、あらゆる商売で賑わう江戸の町。
    江戸っ子たちの売買は軽快な掛け合いで、時に人情が溢れでる。当時の活気を
    今に伝える川柳や流行の小咄とともに、江戸の商いや日常を紹介する。

こうしてテレビは始まった 占領・冷戦・再軍備のはざまで/有馬 哲夫/2,940円/ミネルヴァ書房

精神医療ダークサイド (講談社現代新書)/佐藤 光展/903円/講談社

2013/12/16

男性論 ECCE HOMO (文春新書)/ヤマザキ マリ/798円/文藝春秋


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【映画】利休にたずねよ

2013-12-11 23:29:46 | 映画

後半よかった。

12時間時代劇的な風味。
前半、秀吉と利休の出会いから蜜月と確執に至る様子を時系列で示す。

海老蔵さんの宗易(利休)所作は美しいし、老け姿も頑張ってたし
中谷美紀さんの宗恩もたおやか。
着こなす着物の生地合い・艶・色がなんとも美しく、
建物、部屋の光量も味わい深いのですが。
ワクワクしない。

大森南朋さんの藤吉郎/秀吉は、今までに様々な役者が演じた中でも
かなり新鮮な部類だと思う(いい意味です)。
ゆえに、あの構成のあの配置で使うのは勿体ない気もした。

後半の回想の若い利休=與四郎が生き生きとしていていい。
最初の方、女郎屋で階段転げた辺りはあまりに"分かり易い"演出で、
「えー、これ、どうしよ」。
しかし" 高麗の女" と出会った以降、ぐぐっと惹きつけられました。
エピソードそのものには、うーん、と思うところもあれど、
與四郎の純情、海老蔵さんのせりふも表情もよくて素直に感動。

そして團十郎さんの紹鴎の、なんだろうこの、おなかのなかが
宇宙空間くらいありそうな奥深い存在感。
観てよかったと思う。

(2013.12.11)


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気になる本 2013/12/02-15

2013-12-10 23:08:30 | 気になる本

2013/12/12

コンテンポラリー・アート・セオリー/筒井 宏樹 編集/2,205円/イオスアートブックス

2013/12/11

教会の怪物たち ロマネスクの図像学/尾形 希和子/1,995円/講談社(講談社選書メチエ)
    ロマネスク教会に跋扈する恐ろし気でコミカル、猥雑な怪物たち。なぜ
    それは聖堂内に描かれるのか? そして何を意味するのか? 「単なる装飾」
    として片付けられてきた怪物たちを、民族学や心理学的アプローチを加え読み解く。

風姿花伝 新訳/世阿弥/998円/PHP研究所
    「初心忘るべからず」「秘すれば花」…。今も使われる言葉の本当の意味とは?
     稽古や演技、興行の要諦や芸道の奥義を伝える相伝の書、世阿弥の「風姿花伝」
    を、観世宗家・観世清和が繙く。【「TRC MARC」の商品解説

2013/12/10

色彩がわかれば絵画がわかる/布施 英利/945円/光文社(光文社新書)
    名画に潜む、精緻に計算された色彩美とは? 色の基本的な原理をはじめ、
    北欧デザインの色彩、遠近法との緊密な関係、印象派の絵画における「光」の
    見方などを紹介する。色彩という観点から美術鑑賞の知性を養える一冊。

日本幻想文学事典/東 雅夫/1,680円/筑摩書房(ちくま文庫 日本幻想文学大全)
    作家事典と作品案内の両面を兼ね備えたレファレンス・ブック。幻想文学史
    を彩る文豪や鬼才たちの生涯と代表作の数々を、年代順に解説する。
    『幻想文学』掲載の識者による「日本幻想文学オールタイム・ベストテン」も併録。

回避性愛着障害 絆が稀薄な人たち/岡田 尊司/882円/光文社(光文社新書)

江戸・東京88の謎 /春日 和夫/714円/大和書房(だいわ文庫)

システムという存在 /山下 和也/1,365円/晃洋書房(シリーズ文明のゆくえ)

場所の哲学 近代法思想の限界を超えて/大塚 正之/1,470円/晃洋書房(シリーズ文明のゆくえ)

2013/12/07

独身男の家計簿 年収・意識でみる消費活動 調査報告書
  /日本経済新聞社産業地域研究所/8,400円/日本経済新聞社産業地域研究所

2013/12/06

術 新装版/綿谷 雪/3,360円/青蛙房
    仙術、呪文と護符、真言秘密の魔法、火渡りと鉄火術・熱湯術、
    空中浮揚術と飛行器巧、占卜の方技、五行と干支、九星術、占星術、
    手相術…。さまざまな「術」の来歴と現実を考証する。見返しに図あり。

2013/12/04

骨董の言葉 一〇七七の用語と五二の成句/伊藤 順一/2,500円/展望社
    仏教美術、陶磁器、金工、木工、漆工芸、青銅器、ガラス工芸、織物、
    古民具、人形、書画などに関する用語を50音順に配し、簡潔に解説する。
    骨董・古美術成句集も収録。【「TRC MARC」の商品解説】

名物裂ハンドブック/淡交社編集局/1,260円/淡交社
    掛物の表装、茶入の仕覆、帛紗、小物類に至るまで幅広く用いられる
    茶の湯の「裂地」。織り方、文様など裂地の基礎知識を解説し、代表的な
    名物裂100点を収録。裏千家歴代宗匠好み裂や、裂地を楽しむ拝見の
    所作も紹介する。【「TRC MARC」の商品解説】

生命とリズム/三木 成夫/893円/河出書房新社(河出文庫)
    人間はどこから生まれ、どこへゆくのか。イッキ飲みや朝寝坊、ツボ、
    お喋りに対する宇宙レベルのアプローチから、生命形態学の原点である
    論考まで、「三木生命学」のエッセンスを集成。エッセイ、論文、講演を
    収録する。〔「人間生命の誕生」(築地書館 1996年刊)の改題,
    「胎児の世界と〈いのちの波〉」「呼吸について」を加える〕

2013/12/03

瞽女と七つの峠/国見 修二/1,400円/玲風書房
    何故盲目の瞽女さんは、峠を越えることができたのか。関田峠、富倉峠、
    平丸峠など、高田瞽女が通った信州への7つの峠を詩とエッセー、オール
    カラーの写真で紹介する。ガイドマップ付き。【「TRC MARC」の商品解説】

2013/12/02

生命40億年全史 上巻/リチャード・フォーティ/945円/草思社(草思社文庫)
    生命が誕生した40億年前の遙かなる地球の姿を、大英自然史博物館の
    古生物学者が再現する。
    上は、塵から生命が生まれ、豊饒の海で進化を重ね、陸地に上がるまでを綴る。
生命40億年全史 下巻/リチャード・フォーティ/945円/草思社(草思社文庫)
    下は、森が誕生し、さまざまな動物たちが大地を駆け抜け、そしてホモ・サピエンスが
    誕生した歴史をひもとく。【「TRC MARC」の商品解説】

江戸人の性/氏家 幹人/683円/草思社(草思社文庫)
    江戸社会は性におおらかで、多彩な性愛文化が花開いた。だがその背後には、地震、
    流行病、飢饉、犯罪という当時の「生の危うさ」があった。豊富な史料から、奔放で
    切実な江戸の性愛を覗き見る。〔「江戸の性談」(講談社文庫 2005年刊)の改題,
    一部加筆修正〕【「TRC MARC」の商品解説】


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【歌舞伎】柿葺落 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 昼の部・夜の部 2013年12月

2013-12-07 23:36:53 | 歌舞伎

歌舞伎座新開場柿葺落
十二月大歌舞伎
仮名手本忠臣蔵

◆昼の部(3階B席 下手寄り前方)

 大序  鶴ヶ岡社頭兜改めの場
 三段目 足利館門前進物の場・松の間刃傷の場

  
  菊之助さんの塩冶判官、静謐ななかに内面の滾りを滲ませる。
  すっきりと背姿が塩冶の人格を映すような美しさ。
  染五郎さんの桃井若狭之助とともに、個の情動が起こす波乱に納得感。

  
  海老蔵さんは、よく務めたと思います。
  睨みはあえて封じてもよかったんじゃないかと。
  先月のが、自分の人生すら遊戯にしてるような危うい高位インテリだとすれば、
  今月のは、意気地の悪い中間官僚ふう。これはこれで生々しい。

  それぞれ持ち味を生かしていて良かったのですが、
  片方を大御所にして胸を借りる組み合わせの方がもっと味が出たかも。
  若手同士だと全体がまとまりにくいのだな。重力場がないというか。
  そういう意味で重鎮の方々というのは凄いんだと思う。

  七之助さんの顔世御前は、知性が高くて内面が見え難いタイプ。きれい。

 四段目 扇ヶ谷塩冶判官切腹の場、表門城明渡しの場

  勅使が来てから切腹までの時間が短めだったような気がするのは気のせいか。
  割と塩冶がサッパリ目に思える。(まだか、の焦りから諦めへの反転が
  さらりとしている印象)。
  
  敵討ち=復讐なんだと思うけど、今回の三段目は「果たせなかったアレを
  完遂する指令」の印象深し。塩冶の意思が通ってる感じなんです。

  塩冶と大星の意思疎通がハッキリしている故か、開城までの騒動が付け足し
  っぽく感じたりもする。大星が迷ってないので。

 浄瑠璃 道行旅路の花聟

  玉三郎さんのおかると海老蔵さんの勘平。
  美しい。
  センチメンタルジャーニーです(←我ながら語彙の貧困が悲しい)。
  むっちゃ繊細な勘平をやわらかく包むおかる。

◆夜の部(3階A席 上手寄り2列目)

 五段目 山崎街道鉄砲渡しの場、二つ玉の場
 六段目 与市兵衛内勘平腹切の場

  染五郎さんは勘平を、とてもとても丁寧に演じていた印象。
  続けざまに寄せ起こる尋常ならざる出来事、大望と失望・悔恨。
  観る方は一緒に揺さぶられます。
  七之助さんのおかる(薄幸)との別れのシーンが切ない。

  吉弥さんのおかやはそこはかとない「ちゃんと」感があって、
  百姓感薄め。でも後半の愁嘆場の感情は痛いほど。

  
  亀蔵さんの判人源六のリズム・軽すぎない軽さと、
  萬次郎さんの一文字屋お才の安定感が絶妙。

  獅童さんの斧定九郎、私の頭の中では派手なBGMが掛かっていた。

 七段目 祇園一力茶屋の場

  玉三郎さんのおかる、なぜにこれほど可憐で可愛ゆらしいのでしょう。
  このひんやりとした怜悧とふんわり感のブレンドは一体なんだろう。凄い。

  海老蔵さんの寺岡平右衛門、出だしは声色が「ちょっと外郎売っぽい?」と
  思っていましたが、玉三郎さんとのコンビネーションに至っては
  優しい兄貴ぶりと憎めない思い上がり者らしさがよく出ていてよかった。

  幸四郎さんの由良之助は「隠さない」。望みがぶれない人なんだろうな。

  錦吾さんの斧九太夫、安定。

  亀三郎さん・赤垣源蔵、やっぱお声、好きだわ。
  もっといっぱい台詞を聴きたくなる。

  
  小山三さん可愛らしくお元気そうで、お姿拝見するだけでもほっかり幸せ。

  出語りは竹本愛太夫さんと豊沢淳一郎さん。
  役者さんの動きと息を合わせて効果を生む様子を見るのが好き。
  お三味線は、漫画の集中線とか擬音文字(例えが下手…)みたいに
  情景を強調していて、演者のお姿が見えると更に効果が極まりますね。
  

 十一段目 高家表門討入りの場、奥庭泉水の場、炭部屋本懐の場

  獅童さんの小林平八郎が怪人ぽかった。個性的。
 
(2013.12.7)


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【文楽】大塔宮曦鎧/恋娘昔八丈 国立劇場 2013年12月

2013-12-05 00:11:56 | 文楽

国立劇場 12月文楽公演
1等席(下手舞台近く)←義太夫が見えない

◆大塔宮曦鎧
  六波羅館の段
  身替り音頭の段

復活上演、明治以来とのこと。

忠義と親子の愛情、じわり。
太郎左衛門がどっしりと格好いい。
右馬頭の館での輪舞が幻想的で不思議な魅力。

◆恋娘昔八丈
  城木屋の段 
  鈴ヶ森の段

お駒の愛らしいことと言ったら、もう、たまらん。
丈八の強烈なアクション(笑)や台詞(義太夫)も楽しい。

(2013.12.4)


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【映画】かぐや姫の物語

2013-12-01 22:13:36 | 映画

美しい映画である。
水彩の絵本のような手描きの味わい、「日本むかし話」の佳作に見られる
ような、静から転ずるところの劇的なアクション、音楽。

受け止め方に迷う映画でもある。

公式HPにある「この世は生きるに値する」のメインメッセージは
上=聖・月世界と、下=俗・人間界の対比のインパクトによって
弱められてしまっているようにも思う。

それよりもむしろ、途中のエピソードに気持ちを奪われた。

ある環境条件におかれた者が、それを心ならずも受容しつつも
尊厳を保つことの大切さとか、

おのおのが持つ人それぞれの欲求は、それが自己本位な理由でなかった
としても、他者においては幸福ならざる成り行きをもたらすものだ、とか、

外部的(社会的)な価値観と、個人の価値観が対立しているときに
折り合いをつけるべきなのか、自己の欲求を貫くべきなのか、とか、、

問いは沢山投げかけられている。
どこかのサイトに「女性は身につまされる」みたいな評があって、否定は
しないけど、社会的価値観(と多数が信じていること)に縛られている人は
男女問わず何かしらひびくものがあるのではないかな。
響かないとしたら、ほんとうに自由に生きているのでない限り、
自分に課せられた暗黙の束縛に不感症になっていることを疑う方がいい。

----
かぐや姫は、地上を思うゆえに地上に堕とされ、地上にある枠組みに
取り込まれてそれを嫌い、枠組みを出ようとして図らずも天上に
戻されて再び天上の枠組みに取り込まれる。
永遠に、望む自由、完全な自由など、ない中で、それでも生きていくものだ、
という暗喩を読むのは考えすぎか。

----
竹から生まれてから都に行くまでに出てくるエピソードは、関与する他者を
己が必要に応じて作り変えるエイリアン、ある種の誘惑者に見えたのだ
けれど。(ゆえに翁が「姫」としたのは非常に正しいよな)。
完全体(≒神)として影響範囲を拡大していくにつれ、己が影響力に耐え難く
なっていく、認知と神経の病理の表現に思われる瞬間もありました。

(2013.12.1)

追記: 帝にご無体された瞬間の表情がもの凄くて、苦笑しつつ共感。


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