東京で一番高い山として知られる雲取山の尾根続きに、
雲取山より50mばかり高い、標高2077mの飛竜山がある。
非常に奥の深い山である。
梅雨であって梅雨でない快晴続きの日曜日、
早朝4時に起き、いつものようにオフロードバイクを駆って、
青梅街道の奥へ。
適度に荒れた後山林道のダートを楽しみつつ、終点まで走った。
そこから山小屋の三条の湯まで、少し歩く。
ほとんどのハイカーが右へ、
すなわち雲取山へ歩を進めるなか、
いきなりの急勾配に始まる左へと、登った。
登山道はいかにも登山道で、まったくケレン味がない。
ひたすら登る。
新緑がイメージした以上に、むせ返らんばかりだ。
春ゼミの合唱がうるさいほど、
まるでカエルの大合唱にように響き渡り、
渓流の瀬音が次第に遠のいていく。
やがて空が見える。真っ青な、どこまでも高い空。
高い空に流れる筋雲が、空の青と緑に映えて、実に印象的だ。
いつの間にセミの声が聞こえなくなり、
代わりにウグイスの初鳴きだ。
け、きょ、け、きょ、け、け、け、け、け・・・・
スターカットでぎこちなく鳴くその声に、
思わず頑張れと囁いてしまったが、これは半分は自分に向けてのこと。
吐く息は荒く、運ぶ足は重く、汗が額からポツポツと落ち続ける。
途中、ミヤマツツジの花びらが、登山道に散り落ちていた。
そして登るにつれ、その赤紫色の花が満開に咲きこぼれている。
なにやら時間を遡っているかのようだ。
やがて、空へと続くように道が開けた。
雲取山から続く尾根の道に出たのだ。
陽射しが明るく、緑がますます若く瑞々しく、
まるで桃源郷かと思わせるような、よい分岐道。
このあたりまで来ると、ウグイスの声も
ちゃんと大人の唄になっている。
一瞬、ああ、こんな緑滴る樹々の下で眠っていられたら、
と思った。そう、散骨してもらうなら、こんなところだ。
そこからの登山道には、嬉しいことに、
ぽつぽつと、石楠花の花が迎えてくれている。
ああ、しかし、すでに盛りを過ぎているぞ、
もう少し早い時期に来ればよかったか・・・・
そう思いつつさらに登ると、そこから頂上までは
なんと満開の石楠花街道と化したのである。
ここでもまた、高度によって時間が戻っているかの錯覚だ。
両側に低く、紅色の、薄いピンクの石楠花の花々が、
いま真っ盛りの風情で咲き誇っているではないか。
まさに石楠花のトンネルであった。
こうして登ること3時間半。
頂上は樹木に被われ、その合間から
未だ真っ白な富士山が望めるだけ。
しかし、すぐ下ったところに禿岩という、
180度の大パノラマが広がる展望の地があった。
すでに午後の陽射しに煙りがちではあるが、
左に雲取山、奥多摩の大岳、富士、大菩薩、遠く八ヶ岳、
そして金峰山、甲武信岳と右に連なる見事な景観に
ただただ、見惚れるばかりであった。