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異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説『呆け茄子の花 その八』

2016年04月20日 02時06分41秒 | 小説『呆け茄子の花』

こころにむち打ち出勤し続けた尚樹はとうとう出勤出来なくなった。

なんとか、デスクの上の携帯電話に手を伸ばして直属の上司に電話した。

上司は何のためらいもなく尚樹の訴えを認めてくれた。

その日、出勤しなくても良くなった安堵感でベッドからすぐに起き上がることが出来た。

これは尚樹自身も不思議に思った。

「なぜ体がこの様な反応をするのか?」

数日後、尚樹はかかりつけの内科医に相談した。

「そりゃあ、尚樹さんあんな酷い目に遭って、ただで済まないでしょ」

と、事も無く言い放った。

そこで尚樹は『ドグマチール』という薬を処方してもらった。

だが、尚樹の症状は上向くことはなかった。

尚樹の疾病は、医師や尚樹自身の想像もしないものだったのだ。

 

 

その九に続く

 


小説『呆け茄子の花 その七』

2016年04月17日 21時52分03秒 | 小説『呆け茄子の花』

大三郎の件の前から尚樹の精神中枢は異常を行き足していた。

退院後二ヶ月して会社から『出社命令』が出て50%を焼けただれた体で出社した。

更衣室で数人の同僚と一緒になったが皆尚樹の体を見て絶句した。

付け加えておくが、大三郎はこの先も尚樹の体を一度も見ることはなかった。

体の傷もさることながら、精神をも焼かれたといっても良い。

尚樹にとって一番の衝撃は、爆発事故と同じ場所で同じ仕事をしたことだ。

これが「ダメ押し」となって、尚樹の脳裏に深く刻み込まれることとなる。

これ以後、尚樹は同じ作業に二の足を踏みながらも自分にむち打ちながら、

約一年続けることとなる。

そして、いつもの出勤の日に尚樹は起き上がれなくなった。

「行かなくてはいけない・行って嫌な目を見たくない」という

葛藤をベッドの中で毎日繰り返していた。

 

 

その八に続く

 

 

 


小説『呆け茄子の花 その六』

2016年03月25日 16時52分00秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹は専務・大三郎から別の日に呼び出され、

「これ以上、会社に対して賠償を求めない」旨のただ一枚の紙切れに署名捺印した。

これの紙切れに後々になって尚樹が「後悔の念」で苦しめることになる。

しかし、この会社とのやり取りが終わったことによって、

尚樹の「腹」は決まった。

尚樹はその年の10月20日付けで退社することを決め、会社にも届けを出した。

それまでは、有給休暇を取り事実上、退社日の一ヶ月前程から会社を休んでいた。

尚樹の元に先輩から連絡があり、「送迎会をするから来てくれ」といわれた。

会社ともめたことで、断ろうかとも思ったが「立つ鳥跡を濁さず」と教えてくれた

上司の言葉が浮かび、出席することとした。

会場は尚樹が住む田舎には珍しい洒落たイタリアンで行われた。

会の始めに尚樹は一言を求められたが、

当たり障りのない言葉で12年半を締めくくった。

実は尚樹の精神は退院後、2~3ヶ月くらいから異常を来していた。

 

 

 


小説『呆け茄子の花 その五』

2016年03月19日 11時34分10秒 | 小説『呆け茄子の花』

話しを元に戻そう。

大三郎との話を終えた尚樹はひとり心の中で

「(いくらが適正なのか・・・)」と反復し続けた。

尚樹は親にも友達にも相談すること無く、

2回目の大三郎との話し合いに着くことになる。

初めての話し合いから1ヶ月が過ぎた。

また突然に直属の上司から「専務が呼んでいる」と言われ、

尚樹は胸中に何かを秘めながら会議室へと向かった。

2回目の話し合いはすでに会議室のイスへ腰掛けていた。

尚樹は一応「専務・大三郎」を立ててドアを開けた後、

直立で深々と頭を下げたが、内心は180°違っていた。

「(この逆玉が!)」尚樹内心は結構毒持ちである。

「失礼します。」と真向かいの席に座り、

その後、大三郎が口を開けた。

「この前の話しなんですけど、決まったかな?」

尚樹は「ええ、・・・」と間を置いた。

「専務はどうお考えです?」まずは相手の手の内を知ろうというのだ。

「そうですね、私は一千万から一千五百万円と考えています。」

尚樹は、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

一生、片足で生きていかねばならない者に対する金額ではない。

尚樹は怒りを内包しながら出来るだけ静かに絞り出すように言った。

「専務、それは本当にそうお考えですか?」

大三郎は半笑いで「尚樹くんそうですよ。」

尚樹は、怒りをぶつけようか、しまいか、選択の時間も置かず言い放った。

「専務、ひと一人の人生を変えておいて、そんな不誠実な回答は無いでしょ!!」

大三郎の「半笑い」は続いていた「じゃあ、いくらがいいの?」

尚樹は具体的な数字は出さずに「今言った額の倍以上は要るでしょ」

尚樹は内心自分のことを「(俺は金の亡者か?)」と思いつつ言ったのだ。

大三郎は「それは会社として出せないな、もう少し考えてくれないかな?」

大三郎が金額についてこの様に即答出来るのも『会社の金庫番』の役を

牛耳ってているからだ。

尚樹自身このとき既に冷静ではなく、持ち帰って考え直しても良かったのだが

反射的に口をついて金額を言った。

「では、二千万円でいかがですか?」

大三郎は間髪入れず「いいですよ、では次の話し合いまでに詳細を詰めておきますので

尚樹くんは判子を持ってきてください。」

話し合いは、30分掛からなかったが尚樹には一時間ぐらいに感じられた。

尚樹のその日の疲労感は並ではなかった。

 

その六につづく

 

 

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小説『呆け茄子の花 その四』

2016年03月18日 04時23分05秒 | 小説『呆け茄子の花』
ここで尚樹自身について触れておこう。

尚樹は今年31歳になり、今の会社に就職したのは高校卒業時だった。

なので、今年はちょうど10年となり、祝えるような年であったが、

尚樹はそんなことを気にする余裕は無かった。

尚樹の実家は両親が尚樹の幼少時に離婚し、尚樹は母に引き取られた。

だが、「女の腕一本」では、『豊かな生』は望むべきもなかった。

しかし、それが原因でいじめに遭うこと無かった。

それは尚樹持ち前の『明るさ』であった。

それも今回の事故で『仮面の笑顔』になった。

幼少ながら尚樹の笑顔は『本当の笑顔』であったが今回はさすがに堪えきれなかった。

笑顔も激減し、やっと出た笑顔もどこか引きつったものがあった。

それは、尚樹を徐々に襲ってきた『うつ病』のサインであったが、

その知識も無かったが、後にイヤと言うほど味わうこととなる。








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その五につづく