本日、同業の友人とちょっと話題になったのだが、舞台技術や音響業務をやっていると、表現者(バンドメンバーとか、制作部門)から追加の発注がよくある。また、臨時で劇場の技術(所謂「小屋付き」)をやっていても、利用者サイドからの技術給付のオーダーや、催事の進行に応じた半ば演出めいたオーダーがあって、物理的に無理な行為要求であればあっさり断れるのだが、しかし、催事が始まってしまっていた場合など、催事の流れ上で断れない場合が時々ある。
で、その場合に発生する舞台技術者によるサービス追加や、機材の追加(この場合、大抵は単純に機材を貸し出すのではなく、仕込みや事後の撤去が労務として発生するわけで・・)については、事前の仕様の変更や、新たな労務が確実に発生するのであるから、別途、法律行為上の整理が必要ではないかと思う。
そこで我々(2流ではあるが、一応は、その道で食っているプロであるし・・)商法上の商人が行う商行為としての報酬請求権があるのかどうか、少し調べたい。なお、「商人」、「商行為」の定義については、商法解説書、行政書士試験の参考書などを参照したが、サイト検索で下記のわかりやすいHPを見つけたので、参照されたいと思う。
http://sikaku.kenkou-jyouhou.net/index.php?%E5%95%86%E8%A1%8C%E7%82%BA%E3%81%A8%E5%95%86%E4%BA%BA
先ず、商法512条によると、「商人がその営業の範囲内において他人のためにある行為をなしたるときは、相当の報酬を請求することを得。」とあり、商人の報酬請求権と呼ばれる。
その要件は:
(1) 商人の行為であること
(2) 営業の範囲内:営業およ付属的営業行為
(3) 他人のため:法律効果が他人に帰属する
しかし、上記はあくまで商行為であることが要件(上記の何れかに該当する場合にはじめて「報酬を請求することを得」ということ)であって、一般に、民法上では他人のための行為は、報酬に結びつかない。
例として
(1)委任: 民648受任者は特約あるにあらざれば委任者に対して報酬を請求することを得ず
(2)準委任: 法律行為にあらざる事務に委託 民656で民648を準用
(3)寄託: 民665で民648を準用
商法512条に基づいて、当初の開発対象が拡大したことによる追加費用請求を認めた事例は以下のものがある。
概要は・・・Xは、通信販売業のYから販売管理システム等の開発を一括請負 6500万円(税別)で受託し、開発が開始した。しかし、開発当初から、開発範囲に相違があることが判明した。順次、開発導入されたシステムに対し、YからXに対し、多項目にわたる修正・改善要求が出された。Xはこれらの修正・改善要求に対応し、追加費用として3150万円(税込)を請求する旨の見積書を提出したが、Yはこれを支払わなかったため、訴訟を提起した。
Yに追加費用の支払い義務があるか、裁判所の判断
・・・本件のようなシステム開発作業においては、作業を進める中で当初想定していない問題が明らかになったり、より良いシステムを求めて仕様が変更されたりするのが普通であり、これらに対応するために追加の費用が発生することはいわば常識であって、追加費用が発生しないソフトウェア開発など希有であるといって過言ではないところ、本件開発契約がそのような希有なものであったことを推認させるような事情は全くない。・・・
つまり、追加費用が発生するのは常識だと。
見積書を提示したというだけでは、3150万円の追加支払の合意が成立していないとしつつも
・・・しかしながら、追加費用額について確定的な合意がないからとって、追加費用の支払義務がないとはいえない。
前記のとおり、本件のようなソフトウェア開発作業においては、当初の契約の際に想定されていない追加作業が発生するのがむしろ通常であるから、追加作業の発生が明らかになった時点で、注文者が請負人に対して、当該追加作業の費用を負担する意思がないこと又は一定の限度額を明示してそれ以上の費用を負担する意思がないことを明らかにしないまま、当該追加作業を行うことに承諾を与えた場合には、当事者間に追加費用の額についての明確な合意が成立していない場合であっても、注文者は当該追加作業についての相当の報酬を支払う義務を負うと解するのが相当である(商法512条)。
つまり・・・商法512条により、明確な合意が成立していなくとも「相当報酬支払義務」が生ずる・・・としたうえで・・・本件では、前記のとおり、平成11年12月3日の段階で、少なくとも、本件開発契約におけるY側の現場担当者であるBやDは、このままXないしAとの間で本件システムの開発作業を進めれば、当初の見積書(甲4)に記載された以上の費用を要することを認識していたことが明らかであるにもかかわらず、BもDも、本件開発契約の続行自体については一切疑問や懸念を述べることなく作業を継続している・・・
・・・などの事情から支払義務があるとした。
ところが、反対の判例もある。
以下は、商法512条の規定に基づく報酬金の請求を否定した事例である。
平成21(ワ)8813、事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
2 争点(2)(原告が被告に対し、商法512条の報酬金を請求することができるか)について
(1) 商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において、その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず、委託がない場合であっても、商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には、第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが、後者の場合には、その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず、上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁、同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁、同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
そこで、上記見地に立って、本件について検討する・・
・・<中略(下記事実認定についての検討部分(2))>・・
(3) 上記(2)の認定事実によれば、原告は、ネズミの防除を専門とする業者としての立場から、被告製品について様々な意見を述べ、被告も、原告の意見を参考にし、その相当部分を取り入れて、被告製品を開発したことが認められる。しかしながら、上記(2)ウのとおり、被告製品は、そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。)、Aによる上記の様々な意見やアドバイスも、共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって、必ずしも被告に利益を与える意思で、被告のために行われたものと認めることはできない。
したがって、本件において、原告は、客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから、被告に対し、商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。
原告は、本件において、特許法35条3項ないし5項との均衡からしても、商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが、特許法35条3項ないし5項は、いわゆる職務発明についての規定であり、本件とは前提とする状況が全く異なるから、原告の上記主張も採用することができない。・・・<以上判旨>というもの。
つまり、商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には、第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが、この場合には、その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず、上記意思の認められることが要件である。
また、「~共同開発者としての原告自身(商人自身)の利益を図るために行われた~」と言える場合には、商法512条の適用がないというのである。
何か、2つ目の判例は理解できるが、最初の判例の意味は、なかなか微妙な感じである。
で、その場合に発生する舞台技術者によるサービス追加や、機材の追加(この場合、大抵は単純に機材を貸し出すのではなく、仕込みや事後の撤去が労務として発生するわけで・・)については、事前の仕様の変更や、新たな労務が確実に発生するのであるから、別途、法律行為上の整理が必要ではないかと思う。
そこで我々(2流ではあるが、一応は、その道で食っているプロであるし・・)商法上の商人が行う商行為としての報酬請求権があるのかどうか、少し調べたい。なお、「商人」、「商行為」の定義については、商法解説書、行政書士試験の参考書などを参照したが、サイト検索で下記のわかりやすいHPを見つけたので、参照されたいと思う。
http://sikaku.kenkou-jyouhou.net/index.php?%E5%95%86%E8%A1%8C%E7%82%BA%E3%81%A8%E5%95%86%E4%BA%BA
先ず、商法512条によると、「商人がその営業の範囲内において他人のためにある行為をなしたるときは、相当の報酬を請求することを得。」とあり、商人の報酬請求権と呼ばれる。
その要件は:
(1) 商人の行為であること
(2) 営業の範囲内:営業およ付属的営業行為
(3) 他人のため:法律効果が他人に帰属する
しかし、上記はあくまで商行為であることが要件(上記の何れかに該当する場合にはじめて「報酬を請求することを得」ということ)であって、一般に、民法上では他人のための行為は、報酬に結びつかない。
例として
(1)委任: 民648受任者は特約あるにあらざれば委任者に対して報酬を請求することを得ず
(2)準委任: 法律行為にあらざる事務に委託 民656で民648を準用
(3)寄託: 民665で民648を準用
商法512条に基づいて、当初の開発対象が拡大したことによる追加費用請求を認めた事例は以下のものがある。
概要は・・・Xは、通信販売業のYから販売管理システム等の開発を一括請負 6500万円(税別)で受託し、開発が開始した。しかし、開発当初から、開発範囲に相違があることが判明した。順次、開発導入されたシステムに対し、YからXに対し、多項目にわたる修正・改善要求が出された。Xはこれらの修正・改善要求に対応し、追加費用として3150万円(税込)を請求する旨の見積書を提出したが、Yはこれを支払わなかったため、訴訟を提起した。
Yに追加費用の支払い義務があるか、裁判所の判断
・・・本件のようなシステム開発作業においては、作業を進める中で当初想定していない問題が明らかになったり、より良いシステムを求めて仕様が変更されたりするのが普通であり、これらに対応するために追加の費用が発生することはいわば常識であって、追加費用が発生しないソフトウェア開発など希有であるといって過言ではないところ、本件開発契約がそのような希有なものであったことを推認させるような事情は全くない。・・・
つまり、追加費用が発生するのは常識だと。
見積書を提示したというだけでは、3150万円の追加支払の合意が成立していないとしつつも
・・・しかしながら、追加費用額について確定的な合意がないからとって、追加費用の支払義務がないとはいえない。
前記のとおり、本件のようなソフトウェア開発作業においては、当初の契約の際に想定されていない追加作業が発生するのがむしろ通常であるから、追加作業の発生が明らかになった時点で、注文者が請負人に対して、当該追加作業の費用を負担する意思がないこと又は一定の限度額を明示してそれ以上の費用を負担する意思がないことを明らかにしないまま、当該追加作業を行うことに承諾を与えた場合には、当事者間に追加費用の額についての明確な合意が成立していない場合であっても、注文者は当該追加作業についての相当の報酬を支払う義務を負うと解するのが相当である(商法512条)。
つまり・・・商法512条により、明確な合意が成立していなくとも「相当報酬支払義務」が生ずる・・・としたうえで・・・本件では、前記のとおり、平成11年12月3日の段階で、少なくとも、本件開発契約におけるY側の現場担当者であるBやDは、このままXないしAとの間で本件システムの開発作業を進めれば、当初の見積書(甲4)に記載された以上の費用を要することを認識していたことが明らかであるにもかかわらず、BもDも、本件開発契約の続行自体については一切疑問や懸念を述べることなく作業を継続している・・・
・・・などの事情から支払義務があるとした。
ところが、反対の判例もある。
以下は、商法512条の規定に基づく報酬金の請求を否定した事例である。
平成21(ワ)8813、事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
2 争点(2)(原告が被告に対し、商法512条の報酬金を請求することができるか)について
(1) 商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において、その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず、委託がない場合であっても、商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には、第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが、後者の場合には、その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず、上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁、同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁、同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
そこで、上記見地に立って、本件について検討する・・
・・<中略(下記事実認定についての検討部分(2))>・・
(3) 上記(2)の認定事実によれば、原告は、ネズミの防除を専門とする業者としての立場から、被告製品について様々な意見を述べ、被告も、原告の意見を参考にし、その相当部分を取り入れて、被告製品を開発したことが認められる。しかしながら、上記(2)ウのとおり、被告製品は、そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。)、Aによる上記の様々な意見やアドバイスも、共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって、必ずしも被告に利益を与える意思で、被告のために行われたものと認めることはできない。
したがって、本件において、原告は、客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから、被告に対し、商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。
原告は、本件において、特許法35条3項ないし5項との均衡からしても、商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが、特許法35条3項ないし5項は、いわゆる職務発明についての規定であり、本件とは前提とする状況が全く異なるから、原告の上記主張も採用することができない。・・・<以上判旨>というもの。
つまり、商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には、第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが、この場合には、その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず、上記意思の認められることが要件である。
また、「~共同開発者としての原告自身(商人自身)の利益を図るために行われた~」と言える場合には、商法512条の適用がないというのである。
何か、2つ目の判例は理解できるが、最初の判例の意味は、なかなか微妙な感じである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます