久しぶりのエントリとなるが、今回は、以下の判例を題材に、指名競争入札について考えてみたい。なお、判決文の引用が多く(“つまみ食い”)になっていることをお許しいただきたい。
平成17(受)2087
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年10月26日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集等巻・号・頁 集民 第221号627頁
原審裁判所名 高松高等裁判所
原審事件番号 平成16(ネ)277
原審裁判年月日 平成17年08月05日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33712&hanreiKbn=01
判決要旨引用・・
判示事項
村の発注する公共工事の指名競争入札に長年指名を受けて継続的に参加していた建設業者を特定年度以降全く指名せず入札に参加させなかった村の措置につき上記業者が村外業者に当たることを理由に違法とはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例
裁判要旨
村の発注する公共工事の指名競争入札に昭和60年ころから平成10年度まで指名を受けて継続的に参加し工事を受注してきていた建設業者に対し,村が,村外業者に当たること等を理由に,同12年度以降全く指名せず入札に参加させない措置を採った場合において,(1)村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという実際の運用基準は村の要綱等に明定されておらず,村内業者であるか否かの客観的で具体的な判定基準も明らかにされていなかったこと,(2)上記業者は,平成6年に代表者らが同村から県内の他の町へ転居した後も,登記簿上の本店所在地を同村内とし,同所に代表者の母である監査役が居住し,上記業者の看板を掲げるなどしており,平成10年度までは指名を受け,受注した工事において施工上の支障を生じさせたこともうかがわれないことなど判示の事情の下では,指名についての上記運用及び上記業者が村外業者に当たるという判断が合理的であるとし,そのことのみを理由として,村の上記措置が違法であるとはいえないとした原審の判断には違法がある。
<以上、一先ず引用終わり>
△補足意見1、反対意見2 がある。
参照法条 地方自治法234条1項,地方自治法234条2項,地方自治法234条6項,地方自治法施行令167条,地方自治法施行令167条の11,地方自治法施行令167条の12,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令7条1項2号,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令7条1項3号
さて、補足意見が、当を得ていると思われるので、以下に引用したい。
・・・<前略>
山間へき地の過疎の村である木屋平村における公共工事の状況は,反対意見が指摘するような実態であることを否定するものではないが,理由もなく不適正かつ不合理な指名回避の措置がされてはならないことは当然である。
(2) 上記法律の制定趣旨は,公共工事についての機会均等の保障,競争性の低下防止,透明性及び公正性の確保等にあり,公共工事をめぐる談合や行政との癒着の是正,入札及び契約の適正化の促進は,時勢の求めるところであり,かつ自明の理でもある。本件において,公共工事の入札及び契約の適正化を促進すべき主体と入札参加者指名の主導権者が村長であることはいうまでもない。そのような立場にある村長の不適正かつ不合理な措置は,同法の趣旨に照らしても到底看過することができない。また,そのような措置を受けた場合の上告人の救済手段は本件訴訟等の司法手続をおいて他にないことも事実である。
(3) 一方,上告人は,長年にわたり村内業者として指名及び受注の実績があり,平成6年の村外転居後も村内業者か村外業者かの判定は微妙な状況にあった。
このような状況の下において,木屋平村が,上告人につき主たる営業所が村内にないという事実から形式的に村外業者に当たるとし,そのことのみを理由として,平成12年度以降一切上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば,それは社会通念上著しく妥当性を欠くものであり,その措置に裁量権の逸脱があったことは明らかである<後略>・・・引用終わり。
上記補足意見は即ち、仮に村内業者を優先して指名する旨の基準があったとしても、法律の趣旨は、機会均等の保障,競争性の低下防止,透明性及び公正性の確保等にあるのであるから、理由もなく不適正かつ不合理な指名回避の措置がされてはならない、と言うのである。
そして、・・・被上告人が上告人を指名しなかった理由として主張する他の事情の存否,それを含めて判断した場合に指名しなかった措置に違法があるか,違法があるとした場合の違法な指名回避の時期や損害等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻す必要がある・・・と論じている。
これに対し、反対意見(少数意見)の主要部分は・・・
地方自治法施行令167条の12第1項が,「普通地方公共団体の長は,指名競争入札により契約を締結しようとするときは,当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから,当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない。」と規定するにとどまるのであるから、その範囲内における指名を普通地方公共団体の長の裁量にゆだねていると解している。
このような考えは、随意契約によることが許される場合に関する「最高裁昭和57年(行ツ)第74号同62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁」に拠っている。
しかし、判決文にもあるとおり、指名競争入札の参加者の資格については,契約を締結する能力を有しない者等についての制限があるほか,地方公共団体の長は、あらかじめ指名競争入札に参加する者につき、契約の種類及び金額に応じ、工事、製造又は販売等の実績、従業員の数、資本の額その他経営の規模及び状況を要件とする資格を定めて公示しなければならず(地方自治法234条6項,同法施行令167条の11第2項,3項,167条の5)、また、平成13年4月1日からは、指名競争入札の参加者の資格について公表することが義務付けられている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号、同法施行令7条1項2号)。さらに、地方公共団体の長は、資格を有する者のうちから入札に参加させようとする者を指名し(地方自治法234条6項,同法施行令167条の12第1項)、同日以降、地方公共団体が指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準を定めたときは、これを公表することが義務付けられていることからすれば、指名競争入札に参加しようとする者が、当該公表した要件に該当する場合には、少なくとも指名されるという期待利益の存在を強める要素にはなり得るだろう。
本判例は、難しい(微妙な)事例を裁いたものだが、下級審で検討されていない部分を差し戻したところは見事であり、妥当だと思う。
なお、その後地裁レベルでも、水戸地裁下妻支部(2010年9月15日)において、旧総和町長選で当選者の対立候補を支持したため、町と合併後の古河市の公共工事の指名競争入札で指名から違法に排除されたとして、市内の建設会社2社が市に対し、計約5680万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が「指名回避は裁量権の逸脱または濫用で違法だ」と原告の主張を認め、市に計約1940万円の賠償を命じている。
判決では、町長選後に指名を外された業者があることから「対立候補の支持を契機に指名業者選定で恣意的な権限行使があったと推認できる」という判断である。
ここで注目すべきは、自治体に対していっそう踏み込んでいるところである。
即ち、恣意的ではないと主張する被告を、状況証拠から見てその恣意を『推認できる』としているのであるから、言わば、“指名外しを行った側にこそ、その正当な理由の立証責任がある”としている点である。
この判決が妥当だとすれば、少なくとも、指名の際の行政の自由裁量は完全に崩れる。
つまり「指名の基準」とは、“指名できる基準”ではなく、指名しない場合には反対解釈して「××でない場合には指名しなければならない・・」、と読まなければならないことになる。まあ、これにはその筋からは若干の“待った”がかかりそうではあるが・・・。
いっその事、指名の基準に「“当選した市長を応援した事業者であること”」という1条を入れておいては如何か?・・・(←これは冗談!)。
平成17(受)2087
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年10月26日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集等巻・号・頁 集民 第221号627頁
原審裁判所名 高松高等裁判所
原審事件番号 平成16(ネ)277
原審裁判年月日 平成17年08月05日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=33712&hanreiKbn=01
判決要旨引用・・
判示事項
村の発注する公共工事の指名競争入札に長年指名を受けて継続的に参加していた建設業者を特定年度以降全く指名せず入札に参加させなかった村の措置につき上記業者が村外業者に当たることを理由に違法とはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例
裁判要旨
村の発注する公共工事の指名競争入札に昭和60年ころから平成10年度まで指名を受けて継続的に参加し工事を受注してきていた建設業者に対し,村が,村外業者に当たること等を理由に,同12年度以降全く指名せず入札に参加させない措置を採った場合において,(1)村内業者で対応できる工事の指名競争入札では村内業者のみを指名するという実際の運用基準は村の要綱等に明定されておらず,村内業者であるか否かの客観的で具体的な判定基準も明らかにされていなかったこと,(2)上記業者は,平成6年に代表者らが同村から県内の他の町へ転居した後も,登記簿上の本店所在地を同村内とし,同所に代表者の母である監査役が居住し,上記業者の看板を掲げるなどしており,平成10年度までは指名を受け,受注した工事において施工上の支障を生じさせたこともうかがわれないことなど判示の事情の下では,指名についての上記運用及び上記業者が村外業者に当たるという判断が合理的であるとし,そのことのみを理由として,村の上記措置が違法であるとはいえないとした原審の判断には違法がある。
<以上、一先ず引用終わり>
△補足意見1、反対意見2 がある。
参照法条 地方自治法234条1項,地方自治法234条2項,地方自治法234条6項,地方自治法施行令167条,地方自治法施行令167条の11,地方自治法施行令167条の12,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令7条1項2号,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律施行令7条1項3号
さて、補足意見が、当を得ていると思われるので、以下に引用したい。
・・・<前略>
山間へき地の過疎の村である木屋平村における公共工事の状況は,反対意見が指摘するような実態であることを否定するものではないが,理由もなく不適正かつ不合理な指名回避の措置がされてはならないことは当然である。
(2) 上記法律の制定趣旨は,公共工事についての機会均等の保障,競争性の低下防止,透明性及び公正性の確保等にあり,公共工事をめぐる談合や行政との癒着の是正,入札及び契約の適正化の促進は,時勢の求めるところであり,かつ自明の理でもある。本件において,公共工事の入札及び契約の適正化を促進すべき主体と入札参加者指名の主導権者が村長であることはいうまでもない。そのような立場にある村長の不適正かつ不合理な措置は,同法の趣旨に照らしても到底看過することができない。また,そのような措置を受けた場合の上告人の救済手段は本件訴訟等の司法手続をおいて他にないことも事実である。
(3) 一方,上告人は,長年にわたり村内業者として指名及び受注の実績があり,平成6年の村外転居後も村内業者か村外業者かの判定は微妙な状況にあった。
このような状況の下において,木屋平村が,上告人につき主たる営業所が村内にないという事実から形式的に村外業者に当たるとし,そのことのみを理由として,平成12年度以降一切上告人を指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば,それは社会通念上著しく妥当性を欠くものであり,その措置に裁量権の逸脱があったことは明らかである<後略>・・・引用終わり。
上記補足意見は即ち、仮に村内業者を優先して指名する旨の基準があったとしても、法律の趣旨は、機会均等の保障,競争性の低下防止,透明性及び公正性の確保等にあるのであるから、理由もなく不適正かつ不合理な指名回避の措置がされてはならない、と言うのである。
そして、・・・被上告人が上告人を指名しなかった理由として主張する他の事情の存否,それを含めて判断した場合に指名しなかった措置に違法があるか,違法があるとした場合の違法な指名回避の時期や損害等について更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻す必要がある・・・と論じている。
これに対し、反対意見(少数意見)の主要部分は・・・
地方自治法施行令167条の12第1項が,「普通地方公共団体の長は,指名競争入札により契約を締結しようとするときは,当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから,当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない。」と規定するにとどまるのであるから、その範囲内における指名を普通地方公共団体の長の裁量にゆだねていると解している。
このような考えは、随意契約によることが許される場合に関する「最高裁昭和57年(行ツ)第74号同62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁」に拠っている。
しかし、判決文にもあるとおり、指名競争入札の参加者の資格については,契約を締結する能力を有しない者等についての制限があるほか,地方公共団体の長は、あらかじめ指名競争入札に参加する者につき、契約の種類及び金額に応じ、工事、製造又は販売等の実績、従業員の数、資本の額その他経営の規模及び状況を要件とする資格を定めて公示しなければならず(地方自治法234条6項,同法施行令167条の11第2項,3項,167条の5)、また、平成13年4月1日からは、指名競争入札の参加者の資格について公表することが義務付けられている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号、同法施行令7条1項2号)。さらに、地方公共団体の長は、資格を有する者のうちから入札に参加させようとする者を指名し(地方自治法234条6項,同法施行令167条の12第1項)、同日以降、地方公共団体が指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準を定めたときは、これを公表することが義務付けられていることからすれば、指名競争入札に参加しようとする者が、当該公表した要件に該当する場合には、少なくとも指名されるという期待利益の存在を強める要素にはなり得るだろう。
本判例は、難しい(微妙な)事例を裁いたものだが、下級審で検討されていない部分を差し戻したところは見事であり、妥当だと思う。
なお、その後地裁レベルでも、水戸地裁下妻支部(2010年9月15日)において、旧総和町長選で当選者の対立候補を支持したため、町と合併後の古河市の公共工事の指名競争入札で指名から違法に排除されたとして、市内の建設会社2社が市に対し、計約5680万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が「指名回避は裁量権の逸脱または濫用で違法だ」と原告の主張を認め、市に計約1940万円の賠償を命じている。
判決では、町長選後に指名を外された業者があることから「対立候補の支持を契機に指名業者選定で恣意的な権限行使があったと推認できる」という判断である。
ここで注目すべきは、自治体に対していっそう踏み込んでいるところである。
即ち、恣意的ではないと主張する被告を、状況証拠から見てその恣意を『推認できる』としているのであるから、言わば、“指名外しを行った側にこそ、その正当な理由の立証責任がある”としている点である。
この判決が妥当だとすれば、少なくとも、指名の際の行政の自由裁量は完全に崩れる。
つまり「指名の基準」とは、“指名できる基準”ではなく、指名しない場合には反対解釈して「××でない場合には指名しなければならない・・」、と読まなければならないことになる。まあ、これにはその筋からは若干の“待った”がかかりそうではあるが・・・。
いっその事、指名の基準に「“当選した市長を応援した事業者であること”」という1条を入れておいては如何か?・・・(←これは冗談!)。
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