日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

呪いの睨み

2008年04月21日 | お仕事な日々
久々に、屈辱的な思いをさせられた、
クマ(試食魔のことをそう呼ぶのだそうです)に出くわした。

あぁ~!!!悔しい!!!

     ★

クマは、大概、
購入するものを、手に持っていないどころか、
買い物かごすら持たない。
また、
周囲に売られているものにも、
目を向けない。

だから、実に、
スーパー内では不自然で、わかりやすい。

試食品だけを見つめて、そこへ向かってまっしぐらに、
やってくる。

私の横のお菓子売り場のエンドに、
特売のプリッツの試食分が、
無人で置かれていて、
40代後半~50代前半であろう、
アウトドアな感じの格好をした、
ジローラモを変な日本人にしたような、
その男の食べっぷりは、
まさにハチミツのついた手を舐める「クマ」そのもので、
気づいた瞬間から「こいつに食わせるのは、嫌だ~!!!」
と、心の底から叫んだ。

と、いっても、
マネキンは試食させるしかない。
クマに狙われたマネキンは、
食べさせるしかないのだ。

でも、理屈より感情に
支配される体質の私は、
拒絶反応から、
クマに背を向けるようにして、
試食のパンを切っていた。

細長いパンを8等分、
切っては皿に置いて、
爪楊枝を刺していく。

4切目を置いたところで、
競輪選手がつけているような
ゴム手袋が視界に入って、
パン2切れ分を、
爪楊枝無視で、取ったのが見えた。

車の排気ガスで煤けているような、
ゴム手袋で、パンを2切れ。

カッ!となって、見上げた先に、
やはり、プリッツのところにいた、クマの顔。

「空気の、エアーのガスがあって」

状況とは、全く関係ない話をし始めた。

訓練されていない脳やからだとは、
悲しいもので、
深層で思っていることよりも、
そんな、
表面的なものに、反応していく。

状況とは全く関係ない話をされると、
それと、今の状況を、
結び付けようと努力する。

「空気があって、エアーがあって、
その缶の中に半分こう……溜まってて……」

ガス缶の売り場を探しているのか?
という、目星をつけながら、
聞こう聞こうと、脳が、からだが、
反応している。

その反応が、感情を押さえつける。

感情下では、感情下で、
『一個パンを戻せと言いたいが、
汚いゴム手袋で触られたパンでは、
戻せと言いにくい!!!』
と、葛藤してて。

その状況も、感情を押さえつけてくる。

二重、三重と、マネキンにロックをかけてくる、
このクマ、
こいつ、
マネキンに対して、マニュアル化した接し方をしている。

この屈辱感は、
間違いなく、心に真っ黒なシミをつける。

意味不明なハナシを終えて、
クマが背を向けた時、
ようやく、ロックが解除され始めた。

微かな怒りに震えながら、
その背に、ようやく、
独り言のような低いつぶやきで、

「何いっとるんじゃ、意味不明なんじゃ、あほか」

と、聞こえるか聞こえないかの声で言う。

そして、呪う。

マネキンの立場では、
殴ることも出来ないし、
何か文句を言い返すこともできない(いや、思わず言ってますが……)。

例えそれが正統であっても、
スーパーもメーカーも、派遣元も、
味方してくれることは、まずない。

出来ることと言えば、
顔で感情を示すことだけ。

その間だけ、他のお客さんのことは、無視した。

動くことも何もせず、
ただ、ひたすら、
その男の背を睨み付けた。

『こっちを振り向け。あたしの目を見ろ』

ありったけの「念」を送る。

こういうのって、大概通じる。
3メートルほど離れたところで、
不意に男は振り向いた。

男と私の間には、
魚の群れのように客が行きかっているのに、
ちゃんと男と私は目が合った。

男はすぐ目を逸らし、
俯き下限になって、少しニヤケて、
人ごみの中に消えた。

この微かな一撃は、
多分、大きな打撃にはならなかっただろう。

だが、もし、
これから何度も出会うことになるのなら、
私は、
その度に呪いの睨みを利かせる。

そうやって、
薄いシミを濃いシミへ、
おちるシミから、おちないシミへ、
塗り重ねていくつもりだ。

『試食魔』に感じるものは、
いつだって、悪意でも、空腹でもない。
心のいびつさばかりだ。

シミになるものを持って、初めて彼らは、
どんなかたちであれ、「心」を意識するだろうから。

でもでも、やっぱり、悔し~!!!!

やっぱり、あの呪いだけで、
なんか、あいつには、災いが起きて欲しいなぁ~!!

そんでもって、やっぱりやっぱり、
もう二度と、会いたくないぞ~!!!!!

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