私をナーバスにする、
そのパートさんのことを、
苗字の特徴からここでは「げーさん」と呼ぶ。
★
作業をしていると、
もうひとりのマネキンさんが来た。
「この店初めてですか?」と聞いてくる。
1年チョイぶりなので、慣れてはいない、と答える。
相手さんの方は、
やはりどこかの違うチェーン店で、
品出しの仕事を経験済みで、
この店は初めてだという。……やっぱり。
「○○(私が品出しをするメーカーのパン)の量、多くないですか?」
いや、あなたが任されたところも大概だと思うけど、
そうじゃないのよ。問題なのは。
「それよりも嫌なのは、
テキトーに品物を並べてって言われているけれど、
実際に適当に並べだしたら、
『それはここに置かないで、こっちにおいて』って感じで、
移動をさせられるっていう、二度手間、三度手間があるってことよ。
品物はこんなに多いのに」
と、ついしゃべって、後悔した。
なにもこの人に、
そんな先入観を植え付けなくったって、と。
★
どこのスーパーでも、とまでは、
断言できないけれど、
例えばスティック状の細いパンとか、
ロール状のコロコロしたパンとかが、
複数入っているパンの品物の場合は、
下段に置くとか、
細長い菓子パンは、
縦より横に置いたほうが、
量的には多くおけるだとか、
そういう大雑把なことは、
経験や、教えてもらうことにより、
身についていく。
だけどね。
その店のパンのセールをするとき、
どれが売れ筋商品でメインに置き、
どのくらいの発注しているのか、というのは、
単発でくるマネキンには、さっぱりわからない。
だから、「テキトーに」と言われても、
どのくらいの空間を意識しながら、
品物を置いていいのかよくわからないのだ。
この自由度は、マネキンにとってはキツイ。
もっと具体的に言うとね。
え?必要ないって?
……いや、やっぱ言いたいのよ(笑)
★
想像してくださいね。
あなたの背丈ぐらいに
積み上げられたパン箱があります。
それが6列あったとします。
その中のある1列の分を、
上から順に、
手で持ち上げては、中身を見ます。
見れるのはせいぜい3段ぐらいまでです。
(だんだん重くなりますから)
上から3段分は、すべてクリームパンだったとしましょう。
あなたは陳列できるだけ陳列しようと、
品出しを始めます。
さて、ここで唐突ですが問題です。
このクリームパンは、売れ筋商品なのでしょうか?
……わからない。そうですね。わからないですね。
ですが、無理矢理ですが、どれかを選択してみてください。
①売れ筋商品なのだと思い、2列に並べる。
②売れ筋商品ではないと思い、1列に並べる。
③わからないから、お店の人(ここでは「げーさん」ですね)に聞く。
チチチチチ……正解は、う~ん、③でしょうね。③が無難です。
でもね、極端な言い方をしますが、
③を何回もするって、つらいっすよー。
自由すぎて、わからないものが多すぎるのって、つらいっす。
でね、ある程度経験をつんでいると、
「あぁ、ここのお店のチェーン店は、
いつも△△シリーズのパンをメインに出しているよな。
そのシリーズの中には、クリームパンもあった。
ってことは、このクリームパンは、そんなに発注していないはず。
なので、②でやってみよう!」
と、考えたりして、
開店までの限りある時間の中で、
店の人に余計な手間をかけさせないためにも、
ここはひとつ、手間を省きますか、と、自己判断したりする(私はね)。
ところがところが、
個々のお店で、売れ筋商品が違う場合もあったりするから。
あなたは、3つのパン箱の中にある、
クリームパンを、
陳列台に一列に並べて、残りは在庫として、よけました。
しかし、だんだん不安になってきたのです。
あなたの目線ほど積み上げられてる
6列のパン箱の、
3列目に取り掛かった頃、
また同じクリームパンが出てきたのです。
(トラックから降ろされる時、微妙に順番はめちゃくちゃになるから)
えっ!!こんなにこのクリームパンがあるなんて!!
そこでようやく、あなたは、げーさんに聞いてみます。
すると、げーさんは、粘っこい声で言います。
「あぁ~その商品はよく売れるから、2列で陳列して欲しかったのよ」
……して欲しかった???
と、いうわけで、
クリームパンの横においていたジャムパンを移動させて、
スペースを作り、
新たに出てきたクリームパンを横に並べて、
2列にしたりするのです。
「手間」という言葉の具体的な感じ、わかります?
……まぁね、不可抗力だとは思うのですよ。こういうことは。
どこで仕事をしたって、
こういうこは、よくあるのです。
でもね、「して欲しかった」という、
小さなひとことが、
消化されずに、胸に残るのです。これが一番いけない。
ひとつひとつは小さくても、
いくつもいくつも、胸に積もってくるわけです。
そして仕事上、
私としてはやりにくい、
げーさんの性格や気性の輪郭が、
浮かび上がって、こびりついてくるのです。
ちなみに、もし、①を選択したならばってのを、
考えてみましょう。
先ほどは、
積み上げられたパン箱の最初に、
クリームパンを3箱見つけ、
しばらくすると、また見つけたという、
設定でしたね。
これを今度は、一番最初に、
6箱見つけたとします。
あなたは、
「むむむ……、これは、結構ここのお店で売れるんだな。
って、ことは、2列で陳列して、残りは在庫ってことにするかぁ~」
と、判断したとします。
しかし、だんだん品出しをしていくうちに、
様々な種類の菓子パンが出てきて、
最後のほうには、
陳列台はすべて埋まって、
出せなくなった種類のパンがでてきたのです。
「しまった!」と反省しながら、
あなたは、げーさんに声をかけます。
すると、
「このクリームパン、そんなに出さなくてもいいのに!
1列分だけにして、後は在庫でいいんよ!
どうせ、お客さんがすぐ買っていくから、
どんどん出せばいい話やねんから!!
……あぁ、もう開店前やのに!!
本当は、もっと真ん中の方に出して欲しいけど、
時間が無いから、とりあえず、そのクリームパンの一列分だけひいて、
そこに置いて!!」
と、癇癪を起こしたような声で言われる訳です。
反省しながら聞くだけに、
これらの言葉はキツイ。実にキツイ。
……どうでしょう。少しはリアルに、
げーさんを実感していただけたでしょうか?
私は書いていくうちに、
自分の直感的な仕事のやり方とか、
指示を仰ぐときのタイミングの悪さとかを、
書くことで、あぶりだしてしまい、
方向が変わって、軽くへこんできましたが(笑)
要するにげーさんの言う「テキトーに」は、
信用しきれないってことです。
★
「テキトーに」と言われても、
「げーさんだったら、どう品出しするだろう」という想定のもと、
置くのが一番無難なんだけど、
そんなことは、
織田信長と豊臣秀吉の関係じゃあるまいし、不可能。
私は、げーさんに心酔しきったサルじゃないので、
気の利くことは思い浮かばないし、
ましてや、草履を温めておくなんて、粋な計らいもできない。
もちろん、げーさんも、そこまでは求めていないでしょう。
おそらく、げーさんの方針は、
品物の量や種類が多いので、
とりあえず、好きなように品出しをさせて、
ある程度のところでチェックして、
修正させて、というやり方なわけで。
指示と見せかけて、げーさんは指示をしない。
修正とか、注意で、人を動かそうとするタイプ。
一時の付き合いで仕事をするマネキンに対して、
確かにそういうほうが、合理的なのかもしれない。
そういう方針には、ある一定の理解をしているつもりです。
ですが、
「相手も自分と同じレベルで、わかっている」という、
前提でものを話したりするので、
ちょっとした大ボケをすると、
ふっと嫌な表情でため息を漏らされたり、
強い口調で「そうじゃなくって」なんて言われたりすると、
普通以上に萎縮して、
ただでさえ、そんなに状況判断が得意では無いのに、
もっと、何をどう動けばいいのか、わからなくなってくる。
で、今回もお約束どおりに。
品出しをし始めて、しばらくすると
頭ごなしに、
「このパン、ここに置かんといて」と、
注意が飛んできた。
しかし、ここからが、前回とは違う展開で。
……つづく(あぁもう終わっちゃいたいのに!!)
そのパートさんのことを、
苗字の特徴からここでは「げーさん」と呼ぶ。
★
作業をしていると、
もうひとりのマネキンさんが来た。
「この店初めてですか?」と聞いてくる。
1年チョイぶりなので、慣れてはいない、と答える。
相手さんの方は、
やはりどこかの違うチェーン店で、
品出しの仕事を経験済みで、
この店は初めてだという。……やっぱり。
「○○(私が品出しをするメーカーのパン)の量、多くないですか?」
いや、あなたが任されたところも大概だと思うけど、
そうじゃないのよ。問題なのは。
「それよりも嫌なのは、
テキトーに品物を並べてって言われているけれど、
実際に適当に並べだしたら、
『それはここに置かないで、こっちにおいて』って感じで、
移動をさせられるっていう、二度手間、三度手間があるってことよ。
品物はこんなに多いのに」
と、ついしゃべって、後悔した。
なにもこの人に、
そんな先入観を植え付けなくったって、と。
★
どこのスーパーでも、とまでは、
断言できないけれど、
例えばスティック状の細いパンとか、
ロール状のコロコロしたパンとかが、
複数入っているパンの品物の場合は、
下段に置くとか、
細長い菓子パンは、
縦より横に置いたほうが、
量的には多くおけるだとか、
そういう大雑把なことは、
経験や、教えてもらうことにより、
身についていく。
だけどね。
その店のパンのセールをするとき、
どれが売れ筋商品でメインに置き、
どのくらいの発注しているのか、というのは、
単発でくるマネキンには、さっぱりわからない。
だから、「テキトーに」と言われても、
どのくらいの空間を意識しながら、
品物を置いていいのかよくわからないのだ。
この自由度は、マネキンにとってはキツイ。
もっと具体的に言うとね。
え?必要ないって?
……いや、やっぱ言いたいのよ(笑)
★
想像してくださいね。
あなたの背丈ぐらいに
積み上げられたパン箱があります。
それが6列あったとします。
その中のある1列の分を、
上から順に、
手で持ち上げては、中身を見ます。
見れるのはせいぜい3段ぐらいまでです。
(だんだん重くなりますから)
上から3段分は、すべてクリームパンだったとしましょう。
あなたは陳列できるだけ陳列しようと、
品出しを始めます。
さて、ここで唐突ですが問題です。
このクリームパンは、売れ筋商品なのでしょうか?
……わからない。そうですね。わからないですね。
ですが、無理矢理ですが、どれかを選択してみてください。
①売れ筋商品なのだと思い、2列に並べる。
②売れ筋商品ではないと思い、1列に並べる。
③わからないから、お店の人(ここでは「げーさん」ですね)に聞く。
チチチチチ……正解は、う~ん、③でしょうね。③が無難です。
でもね、極端な言い方をしますが、
③を何回もするって、つらいっすよー。
自由すぎて、わからないものが多すぎるのって、つらいっす。
でね、ある程度経験をつんでいると、
「あぁ、ここのお店のチェーン店は、
いつも△△シリーズのパンをメインに出しているよな。
そのシリーズの中には、クリームパンもあった。
ってことは、このクリームパンは、そんなに発注していないはず。
なので、②でやってみよう!」
と、考えたりして、
開店までの限りある時間の中で、
店の人に余計な手間をかけさせないためにも、
ここはひとつ、手間を省きますか、と、自己判断したりする(私はね)。
ところがところが、
個々のお店で、売れ筋商品が違う場合もあったりするから。
あなたは、3つのパン箱の中にある、
クリームパンを、
陳列台に一列に並べて、残りは在庫として、よけました。
しかし、だんだん不安になってきたのです。
あなたの目線ほど積み上げられてる
6列のパン箱の、
3列目に取り掛かった頃、
また同じクリームパンが出てきたのです。
(トラックから降ろされる時、微妙に順番はめちゃくちゃになるから)
えっ!!こんなにこのクリームパンがあるなんて!!
そこでようやく、あなたは、げーさんに聞いてみます。
すると、げーさんは、粘っこい声で言います。
「あぁ~その商品はよく売れるから、2列で陳列して欲しかったのよ」
……して欲しかった???
と、いうわけで、
クリームパンの横においていたジャムパンを移動させて、
スペースを作り、
新たに出てきたクリームパンを横に並べて、
2列にしたりするのです。
「手間」という言葉の具体的な感じ、わかります?
……まぁね、不可抗力だとは思うのですよ。こういうことは。
どこで仕事をしたって、
こういうこは、よくあるのです。
でもね、「して欲しかった」という、
小さなひとことが、
消化されずに、胸に残るのです。これが一番いけない。
ひとつひとつは小さくても、
いくつもいくつも、胸に積もってくるわけです。
そして仕事上、
私としてはやりにくい、
げーさんの性格や気性の輪郭が、
浮かび上がって、こびりついてくるのです。
ちなみに、もし、①を選択したならばってのを、
考えてみましょう。
先ほどは、
積み上げられたパン箱の最初に、
クリームパンを3箱見つけ、
しばらくすると、また見つけたという、
設定でしたね。
これを今度は、一番最初に、
6箱見つけたとします。
あなたは、
「むむむ……、これは、結構ここのお店で売れるんだな。
って、ことは、2列で陳列して、残りは在庫ってことにするかぁ~」
と、判断したとします。
しかし、だんだん品出しをしていくうちに、
様々な種類の菓子パンが出てきて、
最後のほうには、
陳列台はすべて埋まって、
出せなくなった種類のパンがでてきたのです。
「しまった!」と反省しながら、
あなたは、げーさんに声をかけます。
すると、
「このクリームパン、そんなに出さなくてもいいのに!
1列分だけにして、後は在庫でいいんよ!
どうせ、お客さんがすぐ買っていくから、
どんどん出せばいい話やねんから!!
……あぁ、もう開店前やのに!!
本当は、もっと真ん中の方に出して欲しいけど、
時間が無いから、とりあえず、そのクリームパンの一列分だけひいて、
そこに置いて!!」
と、癇癪を起こしたような声で言われる訳です。
反省しながら聞くだけに、
これらの言葉はキツイ。実にキツイ。
……どうでしょう。少しはリアルに、
げーさんを実感していただけたでしょうか?
私は書いていくうちに、
自分の直感的な仕事のやり方とか、
指示を仰ぐときのタイミングの悪さとかを、
書くことで、あぶりだしてしまい、
方向が変わって、軽くへこんできましたが(笑)
要するにげーさんの言う「テキトーに」は、
信用しきれないってことです。
★
「テキトーに」と言われても、
「げーさんだったら、どう品出しするだろう」という想定のもと、
置くのが一番無難なんだけど、
そんなことは、
織田信長と豊臣秀吉の関係じゃあるまいし、不可能。
私は、げーさんに心酔しきったサルじゃないので、
気の利くことは思い浮かばないし、
ましてや、草履を温めておくなんて、粋な計らいもできない。
もちろん、げーさんも、そこまでは求めていないでしょう。
おそらく、げーさんの方針は、
品物の量や種類が多いので、
とりあえず、好きなように品出しをさせて、
ある程度のところでチェックして、
修正させて、というやり方なわけで。
指示と見せかけて、げーさんは指示をしない。
修正とか、注意で、人を動かそうとするタイプ。
一時の付き合いで仕事をするマネキンに対して、
確かにそういうほうが、合理的なのかもしれない。
そういう方針には、ある一定の理解をしているつもりです。
ですが、
「相手も自分と同じレベルで、わかっている」という、
前提でものを話したりするので、
ちょっとした大ボケをすると、
ふっと嫌な表情でため息を漏らされたり、
強い口調で「そうじゃなくって」なんて言われたりすると、
普通以上に萎縮して、
ただでさえ、そんなに状況判断が得意では無いのに、
もっと、何をどう動けばいいのか、わからなくなってくる。
で、今回もお約束どおりに。
品出しをし始めて、しばらくすると
頭ごなしに、
「このパン、ここに置かんといて」と、
注意が飛んできた。
しかし、ここからが、前回とは違う展開で。
……つづく(あぁもう終わっちゃいたいのに!!)