引越に関する変更や
荷解き中心の7月は、
指名をもらったところや、
緊急で困っているようなところ以外、
仕事を入れなかった。
そんな7月の間に、
ヨーグルトの世界では、
新製品が売り出され、
『脂肪0(ゼロ)』なる、
ヘルシーで酸っぱそうな(笑)のが、
スーパーで平積みされだしたりして。
なもんだから、
8月から本格的なリズムで、
仕事をし始めた私の、
最初に選択した販売は、
M治乳業の『脂肪0』の試食販売だった。
8月5日。電車の中で商品の資料を読み込んで、遠方のスーパーへ。
★
教えられた売り場に行くと、『脂肪0』、たった5つ。
試食で1パック開けると、売るモンは4つしかない。
「やりぃ、楽勝!」……な訳がない。
これは、自分で品出ししろということか?
と、思って、在庫のある冷蔵庫の中を見てみるが、そこにもない。
困惑して戻ってみると、メーカーの営業さんがいた。
私が疑問を投げかける前に、
「まぁまず、自分で食べてみて」と勧められる。
――やっぱ、これを売るのかなぁ……。2便が来るのかなぁ……。
つぶやきにくい状況の中、試食。
……まずい。あちきの好みじゃねー。
「思ったより、おいしいですね。
果物とか入れるといいかも(な、なんとかなるのかも……)」
「そうでしょ?自分の好みにできるでしょ?」
そのおべっかを
おべっかと気づいていないような感じで答えるメーカーさん。
味の話は、早めに切り上げようと考えると、
聞きそびれていたことが、復活。
「あの……でもこれ、試食の割には、販売個数が少なく思えるんですけど……」
2,3秒の間の後、
メーカーさんの顔が上に引っ張られるように引きつった。
「あっ!!この試食、2週間前にやったわ!!こっちのヨーグルトの方やわ」
メーカーさんは、『脂肪0』の横にある違うシリーズのヨーグルトを指差した。
なぁ~んだ。そうだったのかぁ~……いやまてよ?
よかったような気もするが、
じゃあ、私が一口だけ食べた、
この450gの『脂肪0』はどうするの?
「もちろん買い取ってくれていいから。後でお金を派遣会社に請求して。
おうちに持って帰って、食べてな」
わーい!わーい!……と、喜べない。
美味しくないから(私には)。
幸い、本当に売ることになったヨーグルトは、
過去に何回か仕事をしたことがあったので、
取り立ててリニューアルをしたわけでもないようだったので、
資料を読まなくても、
商品知識もちゃんとインプット済みだったのでよかったけど。
「電車の中で、せっかく『脂肪0』のお勉強をしたのに、
残念だなぁ。
まぁいっか。明後日にも『脂肪0』の仕事は入れてたし、
近場だから、行く途中でお勉強って訳にもいかなかったんだから、
今日、電車の中で資料を読んでたことは、きっと活かされるさ」
と、なんとか『脂肪0』に対するモチベーションは、
持続の方向を維持させて。
やがて、慌てんぼうなメーカーさんは帰り、店は開店した。
★
「この地域のお客さんは上品だなぁ。
試食しないし、断り方もやんわりとしてて。
子どもも無闇に食べようとしないし」
商売上がったりな地域なのに、
そういうところでボーっとつっ立っているほうが好きという、
マネキンのプロには到底なれない心根の私のケータイが、
ウェストポーチの中で、ブルブルと震えだした。
派遣会社からだった。
待たせているお客がいる訳でもないので、
お昼休憩を待たずに、
バックヤードへ引っ込んで、かけなおすと、
「明後日の仕事なんだけど、代わってもらわれへん?」
と、ほぼ懇願される声で持ちかけられた。
明後日と言えば、もうひとつ予定していた『脂肪0』の仕事の日だ。
『脂肪0』がしたいわけじゃないけど、
代わりにして欲しい仕事の内容が嫌だった。
もういい加減、足を洗いたいと思っている仕事(このお話は後日)。
少々粘り気のある声で、私は答える。
「えぇ~、他に代わりの人いないんですか?
明後日のところ、近所だし、従業員さんもいい人だし、
頑張ろうと思ってたとこなんですけど……」
ダダをこねる。
しかし、派遣会社側も食い下がる。
急に入ってきた仕事を、どれだけ引き受けていくかで、
この不況の仕事不足をなんとか繋いでいるところもあるのだろう。
かなり粘られる。
なので聞いてみる。
「そこって、日給いくらですか?」
答える派遣会社。
精神的苦痛を伴う仕事の割りに、
(働く時間が短いので)日給も安いのだ。その仕事は。
「その仕事って、しんどいところでありながら、日給も安いでしょ?
……他をあたってください。自分で決めたところへ仕事へ行きます」
普段は、日給はそこそこもらえたら、がめつくは考えていない。
が、断るために、そこを盾に押し切った。
派遣会社に折れてもらって、仕事場のヨーグルト売り場へ戻る。
★
それから30分は経っていただろうか。
またケータイがブルブル震えた。
今度は派遣会社のちょっとお偉い気味の社員さんからだった。
「稲田さん(ここでは仮名)、明後日の仕事先の日給いくら?」
あぁ、そこからきたか……やばい……。私は答える。
「わかった。その日給を出すから、どうしても行ってほしいの。
っていうのもね、稲田さん、あの機械、使えるんだよね。
それを使える人が、すごく少ないのよ。だから頼める人がとても限られてて、
さらに、都合がつく人が、もう稲田さんしかいないの。
お願い!!助けると思って!!」
あの機械……使えるって言っても……の、話は、また後日なんだけど……、
使えるってほどのものでは……ああああぁあぁぁ。
「わかりました。引き受けます」
やはり切り札は、派遣会社側が持っていたのね。
と、いうわけで、2つ取っていた、
私の『脂肪0』の仕事は、
あっという間に幻となった。
味は嫌ってても、仕事としては、そんなに嫌ってはいなかったのにさ。ぐっすん。
★
その日の仕事が終わって。
一口だけ食べて、幻の試食品となった、
買上の『脂肪0』は、
苦肉の策で、
牛乳とハチミツとバナナと一緒に、
ミキサーにかけて、
バナナラッシーにして、なんとか食べきった(いや、飲みきった)。
そう。……それをそうやってなんとか捨てずに使い切った頃、
それはまた、訪れた。
8月19・20日。二日連続『脂肪0』の仕事。
近場だったこともあり、選択する。
「二度あることは三度ある」「三度目の正直」。
さて、どっちだったのでしょう?
時間なので、つづく。
荷解き中心の7月は、
指名をもらったところや、
緊急で困っているようなところ以外、
仕事を入れなかった。
そんな7月の間に、
ヨーグルトの世界では、
新製品が売り出され、
『脂肪0(ゼロ)』なる、
ヘルシーで酸っぱそうな(笑)のが、
スーパーで平積みされだしたりして。
なもんだから、
8月から本格的なリズムで、
仕事をし始めた私の、
最初に選択した販売は、
M治乳業の『脂肪0』の試食販売だった。
8月5日。電車の中で商品の資料を読み込んで、遠方のスーパーへ。
★
教えられた売り場に行くと、『脂肪0』、たった5つ。
試食で1パック開けると、売るモンは4つしかない。
「やりぃ、楽勝!」……な訳がない。
これは、自分で品出ししろということか?
と、思って、在庫のある冷蔵庫の中を見てみるが、そこにもない。
困惑して戻ってみると、メーカーの営業さんがいた。
私が疑問を投げかける前に、
「まぁまず、自分で食べてみて」と勧められる。
――やっぱ、これを売るのかなぁ……。2便が来るのかなぁ……。
つぶやきにくい状況の中、試食。
……まずい。あちきの好みじゃねー。
「思ったより、おいしいですね。
果物とか入れるといいかも(な、なんとかなるのかも……)」
「そうでしょ?自分の好みにできるでしょ?」
そのおべっかを
おべっかと気づいていないような感じで答えるメーカーさん。
味の話は、早めに切り上げようと考えると、
聞きそびれていたことが、復活。
「あの……でもこれ、試食の割には、販売個数が少なく思えるんですけど……」
2,3秒の間の後、
メーカーさんの顔が上に引っ張られるように引きつった。
「あっ!!この試食、2週間前にやったわ!!こっちのヨーグルトの方やわ」
メーカーさんは、『脂肪0』の横にある違うシリーズのヨーグルトを指差した。
なぁ~んだ。そうだったのかぁ~……いやまてよ?
よかったような気もするが、
じゃあ、私が一口だけ食べた、
この450gの『脂肪0』はどうするの?
「もちろん買い取ってくれていいから。後でお金を派遣会社に請求して。
おうちに持って帰って、食べてな」
わーい!わーい!……と、喜べない。
美味しくないから(私には)。
幸い、本当に売ることになったヨーグルトは、
過去に何回か仕事をしたことがあったので、
取り立ててリニューアルをしたわけでもないようだったので、
資料を読まなくても、
商品知識もちゃんとインプット済みだったのでよかったけど。
「電車の中で、せっかく『脂肪0』のお勉強をしたのに、
残念だなぁ。
まぁいっか。明後日にも『脂肪0』の仕事は入れてたし、
近場だから、行く途中でお勉強って訳にもいかなかったんだから、
今日、電車の中で資料を読んでたことは、きっと活かされるさ」
と、なんとか『脂肪0』に対するモチベーションは、
持続の方向を維持させて。
やがて、慌てんぼうなメーカーさんは帰り、店は開店した。
★
「この地域のお客さんは上品だなぁ。
試食しないし、断り方もやんわりとしてて。
子どもも無闇に食べようとしないし」
商売上がったりな地域なのに、
そういうところでボーっとつっ立っているほうが好きという、
マネキンのプロには到底なれない心根の私のケータイが、
ウェストポーチの中で、ブルブルと震えだした。
派遣会社からだった。
待たせているお客がいる訳でもないので、
お昼休憩を待たずに、
バックヤードへ引っ込んで、かけなおすと、
「明後日の仕事なんだけど、代わってもらわれへん?」
と、ほぼ懇願される声で持ちかけられた。
明後日と言えば、もうひとつ予定していた『脂肪0』の仕事の日だ。
『脂肪0』がしたいわけじゃないけど、
代わりにして欲しい仕事の内容が嫌だった。
もういい加減、足を洗いたいと思っている仕事(このお話は後日)。
少々粘り気のある声で、私は答える。
「えぇ~、他に代わりの人いないんですか?
明後日のところ、近所だし、従業員さんもいい人だし、
頑張ろうと思ってたとこなんですけど……」
ダダをこねる。
しかし、派遣会社側も食い下がる。
急に入ってきた仕事を、どれだけ引き受けていくかで、
この不況の仕事不足をなんとか繋いでいるところもあるのだろう。
かなり粘られる。
なので聞いてみる。
「そこって、日給いくらですか?」
答える派遣会社。
精神的苦痛を伴う仕事の割りに、
(働く時間が短いので)日給も安いのだ。その仕事は。
「その仕事って、しんどいところでありながら、日給も安いでしょ?
……他をあたってください。自分で決めたところへ仕事へ行きます」
普段は、日給はそこそこもらえたら、がめつくは考えていない。
が、断るために、そこを盾に押し切った。
派遣会社に折れてもらって、仕事場のヨーグルト売り場へ戻る。
★
それから30分は経っていただろうか。
またケータイがブルブル震えた。
今度は派遣会社のちょっとお偉い気味の社員さんからだった。
「稲田さん(ここでは仮名)、明後日の仕事先の日給いくら?」
あぁ、そこからきたか……やばい……。私は答える。
「わかった。その日給を出すから、どうしても行ってほしいの。
っていうのもね、稲田さん、あの機械、使えるんだよね。
それを使える人が、すごく少ないのよ。だから頼める人がとても限られてて、
さらに、都合がつく人が、もう稲田さんしかいないの。
お願い!!助けると思って!!」
あの機械……使えるって言っても……の、話は、また後日なんだけど……、
使えるってほどのものでは……ああああぁあぁぁ。
「わかりました。引き受けます」
やはり切り札は、派遣会社側が持っていたのね。
と、いうわけで、2つ取っていた、
私の『脂肪0』の仕事は、
あっという間に幻となった。
味は嫌ってても、仕事としては、そんなに嫌ってはいなかったのにさ。ぐっすん。
★
その日の仕事が終わって。
一口だけ食べて、幻の試食品となった、
買上の『脂肪0』は、
苦肉の策で、
牛乳とハチミツとバナナと一緒に、
ミキサーにかけて、
バナナラッシーにして、なんとか食べきった(いや、飲みきった)。
そう。……それをそうやってなんとか捨てずに使い切った頃、
それはまた、訪れた。
8月19・20日。二日連続『脂肪0』の仕事。
近場だったこともあり、選択する。
「二度あることは三度ある」「三度目の正直」。
さて、どっちだったのでしょう?
時間なので、つづく。