もうひとつ、巨大大型スーパーでの、
子どもの話。
★
その女の子は、
ひとりで訪れて、牛乳をもらって、
すぐさま立ち去った。
天然パーマのクリクリ髪で、
衣服のどこかに(どこやったかなぁ……)
ヒョウ柄を身につけた、
普段着だけど、どこかファッショナブルな(親の趣味だろうね)
おしゃれな感じの小学低学年ぐらいの女の子だった。
で、クレームの元になるので、
スーパー側には釘を打たれていたのだが、
つい、クセで、
その女の子が二回目に来たときは、
「沢山の人に渡したいから、一回だけにしてね」と、
試飲を断った。
しかし、
「どうしても、のどが渇いたから」と、
女の子はしばらくして
もう一回訪れてきて、
3回目を訴えてきた。
そこまでいうなら仕方ない。
早く立ち去ってほしい意味もあったので、
「しゃあないなぁ」といって、
ちょっとだけ牛乳を入れて差し出した。
女の子は牛乳を飲んだ。
飲み終えて黙っているので、
「『ありがとう』ぐらいは言わんとあかんやろ」
と、いうと、無反応。
っていうか、硬直してる??
ねじが止まったみたいに、女の子が固まっていた。
「ちょっと?ちょっと?」とその状態に私がパニクる。
★
本当に、下手したら、
1分ぐらいあったんじゃないかなぁ。
女の子は真空状態だった。
(ひょっとして、ああいう状態って「ひきつけ」っていうのかなぁ……)
「……はっ!!」と言って女の子は
気がついた。
「大丈夫?なんか固まってたけど」
と、聞くと、
「時々ああなるねん。
もうな、目も見えてへんし、耳も聞こえなくなるねん」
「じゃあ、声かけてたのもわかれへんかったん?」
「うん」
と、女の子は言う。
そして、
「お願い。もう一杯だけちょうだい」と
牛乳を所望する。
さすがに断れない。
私はカップに多めに牛乳を入れた。
「飲んでもいいけど、目の前に立ってもらうと、
仕事になれへんから、
こっちの裏側に回ってくる?」
と、試食台の裏側へ彼女を促した。
どうやら彼女は、それが嬉しかったようで。
★
「時々、ああなるねん。
もうな、真っ白やねん。何も聞こえへんし、
息するのも忘れてるねん。
薬も飲むねんけどな、めっちゃキライやし、
苦手や~」
女の子、堰を切ったように饒舌。
私は、行き交うお客さんを気にしつつ相手をする。
「カプセルちゃうの?」
「粉薬」
「オブラードに包んでもらったら?」
「それでも同じやから、がまんしてるねん」
「へぇ~、オトナなことするんやなぁ」
会話は続く。
「今日は車できたんか?家族でか?」
「おかあさんと車で」
「おうちどこらへんなん?」
「う~ん……大阪城の近く……」
――あ、オトナの社交辞令な会話の切り口だったわねぇ……。
と思っていたら、
「うちな、ここのペットショップで働いてるねん」
と、女の子が言ったのを聞き損ねて、
「え?ペットショップに住んでるの?」と
私が聞き返したら、
「どうやって住むのんさぁ!ペットショップで!」
とツッコンデきたので、
「こうゲージに入って、ワンワン……」とボケをかます。
女の子げらげら笑う。
どうやら、体調は本当に落ち着いたようで。
★
「のどか湧いてもうたわ。もう一杯頂戴」
と女の子また牛乳を所望する。
「もう落ちついたんやろ。ちょっとだけやで」
と女の子にまたちょっとだけ牛乳を注いであげる。
その間にも、行き交う人に「牛乳いかがですかぁ~」と
私は声をかける。
女の子はじっとみている。
「働いている人見るのは好き?」と聞いてみる。
「うん」と彼女は言う。
「それはええこっちゃ」と私は答える。
答えながらトレーの上にふたつほどカップを並べる。
すると女の子は、
横に重ねてあったカップを
バンバカ、バンバカ、トレーに並べて、
「はよ注ぎや!」と促してくる。
「なんや?手伝ってくれるんか?ありがとうやなぁ~」
予想もしていなかった行動だったので、
妙に私は照れてしまった。
「カップが裸で寂しがってる。はよ注ぎや!」
と、女の子はえらく光った言葉を返してきた。
「あんた、めっちゃ上手いこと言うねぇ。
イカシてるわ。
そういうの、あんたのええとこかもしれんなぁ。
でも、冷たい牛乳を
お客さんに渡したいから、いっこだけ入れとくだけでいいねん。
やから、このままにしとくわ」
私は彼女の表現に感動しながらも、
理由を言って断った。
んでもって、そのカップをひろげたところで、
手元に置いていた分がなくなった。
「このカップがなくなったら、一度裏へ行くから、
お母さんのところへ戻りぃや」
と言ったら、
「そしたら、最後にもう一杯だけちょーだい!!
いっぱいいっぱい注いで、ちょーだい!!」
というので、
「わかった。バイト代として、あげるわ」
と、ナミナミ注いであげた。
そして立ち去る間際、
「なぁ、ファッションかも知れんけどさ、
ジーパンの上からパンツのゴムんとこ、見えてるで。
キュッキュとあげな!キュッキュと!」と、
ジェスチャーつきで「キュッキュ!」と言ったら、
げらげら笑って、彼女も「キュッキュ!」と言いながら、
ジーパンを上げた。
元気に走って去って行く彼女を見て、
ほっともしたし、少し寂しい気持ちにもなった。
★
それからしばらくして。
女の子は母親と一緒に私のところに現れた。
だが、丁度その時、
試飲は『エサ』状態の忙しさで、
牛乳を注ぎまくっていて、何にも声をかけれなかった。
わざわざ来てくれたこと、
嬉しかったけど、そういう顔も見せれないほどで、
少し気になったけれど、
どんな関係においても、
別れる時って、結構こういうもんだしな、と開き直った。
彼女もまぁわかっているだろう。
一体どういう病気なのか知らないけれど、
治るのならば、一日でも早く治ってほしいと、
最後に祈って、
この一期一会を締めくくった。
子どもの話。
★
その女の子は、
ひとりで訪れて、牛乳をもらって、
すぐさま立ち去った。
天然パーマのクリクリ髪で、
衣服のどこかに(どこやったかなぁ……)
ヒョウ柄を身につけた、
普段着だけど、どこかファッショナブルな(親の趣味だろうね)
おしゃれな感じの小学低学年ぐらいの女の子だった。
で、クレームの元になるので、
スーパー側には釘を打たれていたのだが、
つい、クセで、
その女の子が二回目に来たときは、
「沢山の人に渡したいから、一回だけにしてね」と、
試飲を断った。
しかし、
「どうしても、のどが渇いたから」と、
女の子はしばらくして
もう一回訪れてきて、
3回目を訴えてきた。
そこまでいうなら仕方ない。
早く立ち去ってほしい意味もあったので、
「しゃあないなぁ」といって、
ちょっとだけ牛乳を入れて差し出した。
女の子は牛乳を飲んだ。
飲み終えて黙っているので、
「『ありがとう』ぐらいは言わんとあかんやろ」
と、いうと、無反応。
っていうか、硬直してる??
ねじが止まったみたいに、女の子が固まっていた。
「ちょっと?ちょっと?」とその状態に私がパニクる。
★
本当に、下手したら、
1分ぐらいあったんじゃないかなぁ。
女の子は真空状態だった。
(ひょっとして、ああいう状態って「ひきつけ」っていうのかなぁ……)
「……はっ!!」と言って女の子は
気がついた。
「大丈夫?なんか固まってたけど」
と、聞くと、
「時々ああなるねん。
もうな、目も見えてへんし、耳も聞こえなくなるねん」
「じゃあ、声かけてたのもわかれへんかったん?」
「うん」
と、女の子は言う。
そして、
「お願い。もう一杯だけちょうだい」と
牛乳を所望する。
さすがに断れない。
私はカップに多めに牛乳を入れた。
「飲んでもいいけど、目の前に立ってもらうと、
仕事になれへんから、
こっちの裏側に回ってくる?」
と、試食台の裏側へ彼女を促した。
どうやら彼女は、それが嬉しかったようで。
★
「時々、ああなるねん。
もうな、真っ白やねん。何も聞こえへんし、
息するのも忘れてるねん。
薬も飲むねんけどな、めっちゃキライやし、
苦手や~」
女の子、堰を切ったように饒舌。
私は、行き交うお客さんを気にしつつ相手をする。
「カプセルちゃうの?」
「粉薬」
「オブラードに包んでもらったら?」
「それでも同じやから、がまんしてるねん」
「へぇ~、オトナなことするんやなぁ」
会話は続く。
「今日は車できたんか?家族でか?」
「おかあさんと車で」
「おうちどこらへんなん?」
「う~ん……大阪城の近く……」
――あ、オトナの社交辞令な会話の切り口だったわねぇ……。
と思っていたら、
「うちな、ここのペットショップで働いてるねん」
と、女の子が言ったのを聞き損ねて、
「え?ペットショップに住んでるの?」と
私が聞き返したら、
「どうやって住むのんさぁ!ペットショップで!」
とツッコンデきたので、
「こうゲージに入って、ワンワン……」とボケをかます。
女の子げらげら笑う。
どうやら、体調は本当に落ち着いたようで。
★
「のどか湧いてもうたわ。もう一杯頂戴」
と女の子また牛乳を所望する。
「もう落ちついたんやろ。ちょっとだけやで」
と女の子にまたちょっとだけ牛乳を注いであげる。
その間にも、行き交う人に「牛乳いかがですかぁ~」と
私は声をかける。
女の子はじっとみている。
「働いている人見るのは好き?」と聞いてみる。
「うん」と彼女は言う。
「それはええこっちゃ」と私は答える。
答えながらトレーの上にふたつほどカップを並べる。
すると女の子は、
横に重ねてあったカップを
バンバカ、バンバカ、トレーに並べて、
「はよ注ぎや!」と促してくる。
「なんや?手伝ってくれるんか?ありがとうやなぁ~」
予想もしていなかった行動だったので、
妙に私は照れてしまった。
「カップが裸で寂しがってる。はよ注ぎや!」
と、女の子はえらく光った言葉を返してきた。
「あんた、めっちゃ上手いこと言うねぇ。
イカシてるわ。
そういうの、あんたのええとこかもしれんなぁ。
でも、冷たい牛乳を
お客さんに渡したいから、いっこだけ入れとくだけでいいねん。
やから、このままにしとくわ」
私は彼女の表現に感動しながらも、
理由を言って断った。
んでもって、そのカップをひろげたところで、
手元に置いていた分がなくなった。
「このカップがなくなったら、一度裏へ行くから、
お母さんのところへ戻りぃや」
と言ったら、
「そしたら、最後にもう一杯だけちょーだい!!
いっぱいいっぱい注いで、ちょーだい!!」
というので、
「わかった。バイト代として、あげるわ」
と、ナミナミ注いであげた。
そして立ち去る間際、
「なぁ、ファッションかも知れんけどさ、
ジーパンの上からパンツのゴムんとこ、見えてるで。
キュッキュとあげな!キュッキュと!」と、
ジェスチャーつきで「キュッキュ!」と言ったら、
げらげら笑って、彼女も「キュッキュ!」と言いながら、
ジーパンを上げた。
元気に走って去って行く彼女を見て、
ほっともしたし、少し寂しい気持ちにもなった。
★
それからしばらくして。
女の子は母親と一緒に私のところに現れた。
だが、丁度その時、
試飲は『エサ』状態の忙しさで、
牛乳を注ぎまくっていて、何にも声をかけれなかった。
わざわざ来てくれたこと、
嬉しかったけど、そういう顔も見せれないほどで、
少し気になったけれど、
どんな関係においても、
別れる時って、結構こういうもんだしな、と開き直った。
彼女もまぁわかっているだろう。
一体どういう病気なのか知らないけれど、
治るのならば、一日でも早く治ってほしいと、
最後に祈って、
この一期一会を締めくくった。