
昨夜街に出るといつも最後にぶら下がる店(
JACARA)で
広大付属病院の外科医さんと知り合った。
8年半前に大腸ガンの手術をしてもらった田中外科医のことを想い出し
訪ねてみると良くご存知とのコト。
当時の事が次々に想い出されついつい長話となった。
執刀医として自己紹介されたとき、看護士さんに
「この先生『ドラえもん』っていうニックネームなんですよ」
「手を見てみたら判りますよ」
言われるまま彼の手を見て正直ゾッとした。
照れながら自分の前に差し出された彼の手のひらは、
パーをして開いているのにグーをしてるくらい指が短い。
そのバランスの良くない(ごめんなさい)短くてぶっとい手を見て
正直執刀医を変えてもらいたいと思ったくらいだった。
しかし、その眼光は美しく澄んでいてキラキラしている。
「大変な手術になります。一緒に頑張りましょうね!」
一語一句を丁寧に噛み締めながらもその声は穏やかだった。
「よろしくお願いします」
自然に自分の口がそう言っていた。
大腸の最終コーナー「S状結腸」という所が10数センチドロドロに、
グアム島の海に一杯居る「ナマコ」を背割りして内側にひっくり返した様な
チョーグロテスクな状態に癌化した部位は素人の自分でも
「ヤバイ」ことは充分に理解できていた。
しかし、長い手術の後に田中医師から出た言葉は、
「やれることは全部やりましたし、それ以上にやりたいことも全部やりました」
「あとはあなたが抗がん剤治療に耐えて治そうと頑張る番です」
「しかし、患部に動脈も静脈も通っていましたので転移は避けられないでしょう」
「先のことはまた先で考えれば良い。また私がきれいにしますから」
そう言いながら私のベッドをグイグイ起こして、下から手を入れてきて
「ウワァァ」と言う私の不意のうめき声と共に
採尿ドレーンをズルズルっと引き抜いてしまった。
「もう歩いていいですから。どんどん歩いてください」
・・・・・・・
さっき手術したばっかりだゾ!
「アホかこの医者?」と一瞬思ったが、
次の瞬間「受けて立ってやる」と心が燃えてきた。
以来、二日目から普通食を出せと抗議し、
抗がん剤も副作用など一切出ず、4クールをこなして
2クール目辺りからは点滴を引きずって廊下を走っていた。
そのころ、こちらの機嫌の良い所を見計らって
田中医師が言った。
「最善を尽くすためにソケイリンパ節を徹底的に引っ掻き出しました」
「転移の可能性が激減するはずです」
「しかし、困ったことにココには性腺が隣接しているので、
恐らく私は性腺も徹底的に引っ掻き回しています」
「つまり、元気になってもあっちの方は
元気にならないと・・・」
私が思わず
「ぬわにぃ~??<`ヘ´>」
と点滴のポールを振りかざした瞬間、
脱兎の如くDr.ドラえもんは消えていた・・・
しかしその直後に奇跡が起きた。
数分後、小躍りしながら田中医師が再度現れ
「絶対僕の誤診じゃないですから!ホントにレベル4だったんですから!」
「レベル5は無いんですから!あなたは立派なレベル4で幹部もぐちゃぐちゃで」
なのになのにですよ?
「病理検査の結果
転移が見られないんです」
それから8年半の今日まで一切の兆候が無い。
退院当時は
「せっかく戴いた命なのだ。これからは世のためヒトの為、無心に生きよう」
などと誓っていたのに・・・
かくして実情は?
昨夜の如く大酒を飲んで快復はオノレの武勇伝のように語っている。
そのいきさつを呆れ気味に聴いてくれていた件の同僚の医師は・・・
「お伺いするところマサに奇跡的な生還ですね!」
「確率的に言うと生きているのは
2%くらいですね!」
改めてゾッとした。
俺はそんな小さな確立で生かされていたのか?
私は疑いを晴らしたいかのように
「じゃあ田中医師ってやはりスゴイ方なんですか?」
すると同僚の医師は、
「最高レベルの外科医です!本来ならもっと出世してて良いのに
彼は自己アピールしないから冷遇されています」
「あなたのような患者さんが彼の評価をドンドン語ってあげるべきです」
なるほどありありと当時の若き田中医師の
使命を帯びたかの様な面影が浮かんでくる。
折角戴いた命にも拘らず自分は、
健康(取り立てて何も無い)と言う事に安住し
与えて戴いている「命」を粗末に浪費している。
クリスマスの夜
思わぬところで素晴らしい贈り物をサンタさんが届けてくれた。
大切な「気付き」をプレゼントされた夜だった。