日本学生野球協会は11月20日に東京都内で審査室会議を開き、高校で15件、大学で1件の処分を決めたと発表しました。
高校野球においては、愛知黎明高で監督・副部長による部内暴力、部内暴言、部内ハラスメントが発生。また、愛知啓成高では、監督・副部長・コーチによる部内暴力、部内暴言、部内ハラスメントがあり、最大1~2年の謹慎処分となっています。
また、大学野球では、法政大の元プロ野球選手の助監督が、暴力事件と報告遅れで4ヶ月の謹慎処分となりました。助監督は、コーチに就任した2016年に当時の二年生部員に対して、練習態度を注意した際に平手で頭を2~3発殴るなど、計3件の暴力事件を起こしていました。今年10月8日に外部からの通報で事件が発覚し、学内の調査等を経て11月2日から謹慎しています。日本学生野球協会によると東京六大学連盟で指導者が処分されるのは初めてとのことです。
2012年に大阪府の高校バスケットボール部で、当時二年生のキャプテンが顧問の暴力や不当な扱いに苦しみ、自ら命を絶った事件を機に、スポーツ界と教育界では「暴力根絶宣言」が出されました。それでも、部活動による暴力は一向になくなることがありません。
愛知県の高校の野球部で、元プロ野球選手だった監督が部員に暴力を振るっていたことは、昨日のとおりです。ただ、一連のニュースを見返していますと、以前から同様のことはあったようにも思えますが、過去の暴力は否定しています。
実はこの高校では、2013年にサッカー部で顧問による体罰が発覚しています。顧問は三年生男子生徒に暴力をふるい、ケガをさせ依願退職しています。この顧問は2011年にも体育の授業で忘れ物をした生徒の胸をつねったとして訓告処分を受けながら、その後もサッカー部員を平手打ちするなど暴力を続けていました。
神奈川県の高校のサッカー部では今年、監督が部員への暴力でけん責処分を受けているのですが、昨年はラグビー部で当時の顧問による暴力が発覚しています。
岩手県の高校のバレーボール部三年生が7月に命を絶った問題は、「ミスをしたら一番怒られ、必要ない、使えないと言われました」などと顧問から受けた暴言の詳細が記された遺書が残されています。岩手県教育委員会の調査でも一部生徒が至近距離でボールを当てられたことを証言しています。これらの事実から、遺族は顧問による間違った指導が原因だと主張していますが、学校や県教育委員会は否定しています。しかし、この顧問は前任校ではバレー部員に暴力をふるったとして、民事訴訟をおこした元生徒と係争中だったのです。
9月には大学駅伝部監督の暴力やパワハラによって現役引退に追い込まれた元部員が告発するということがありました。部員の脚を蹴ったり、故障した選手に「障害者じゃないか」などと不適切な言葉を投げつけたというのです。事態を重く見た大学側が監督を解任したが、この元監督は以前指導していた高校駅伝の名門校でも暴力問題を起こしていました。
10月には、長野県の高校バレーボール部監督が、部員への暴力や暴言を認め、解雇されました。元監督は、前任校を春高バレーで優勝させるなど強豪校に育て上げたものの、重大なパワハラ行為があったとして停職6ヶ月の処分を受け辞職していました。
問題は、一度起きた不祥事を学校側が教訓に出来ないでいること。処分されても暴力を繰り返す指導者が多いということになるかも知れません。
スポーツ庁は今年3月に発表した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」で、「適切な指導の実施」で部活顧問の指導のあり方に触れています。それでも、暴力指導は繰り返されます。通達だけでは根本的な解決にはならないのが実情となってしまいました。
その一方で、理想的な活動を取り入れるところもあります。
静岡聖光学院高ラグビー部は9月に同校主催で「部活動サミット」を開催しました。顧問の佐々木陽平監督によると、広島県・安芸南高の取り組みを生徒だけで視察に行ったことがきっかけだったそうです。同校は、短時間で効率のいい練習に加え、部員が練習メニューや公式戦メンバーまで決めてしまうボトムアップ式で有名なところです。この指導法を用いて前任の香川県・観音高で全国高校総体を制した畑喜美夫監督が顧問を務めています。
安芸南高サッカー部が仲間の良いところを投稿し合う「いいねBOX」が紹介されるなど、個性的な取り組みが紹介されました。スポーツ庁の鈴木大地長官も視察に訪れたそうです。それだけではなく、安芸南高は全国高校選手権で激戦区の広島県予選ベスト8進出を果たしました。メンバー決めも交替も、PK戦にもつれ込んだときの蹴る順番も、すべて選手が自分たちで決めました。
聖光学院高は全国高校ラグビー選手権静岡県大会で、3年ぶり5度目の花園出場を決めました。決勝のハーフタイム。佐々木監督は円陣に加わらず、選手同士で話し合い、後半の戦術を決定し快勝しました。
暴力や暴言、ハラスメント、圧迫指導に苦しむ部活がある一方で、それとは無縁な環境でのびのびとスポーツを楽しみながら、主体的に取り組むことで成果を上げる部活だってあるのです。